「どうでしたかな?」
と竹野の声。
「いや、いいものを見せてもらいましたよ」
これは眼鏡の古村の声だった。
興奮冷めやらぬのか、少し上ずったような声だ。
「煙草一服どうぞ」
竹野の声がして、二人の男がまた窓のほうにやってくる気配があったの
で、僕はまた身を屈めて移動した。
「すごかったですね」
という古村の声は、まだ興奮の余韻を醸していた。
「うむ、彼女だいぶん我慢していたようで、なかなか止まらなかったね」
吉野も満足そうな声で、僕の胸には少し残念な思いが残った。
どうかしてるのか、自分?
僕は独り言ちしながら、杉木立ちにかなり隠れた月を見上げた。
「そういえば、吉野さん。例の彼女が何日も穿いていたというショーツ、
見せてくださいよ」
「ああ、あれね。ちょっと待って」
間が少しあって、
「これね…いいなあ。黒のショーツだから、ほら、こんなに汚物の線がは
っきり出てますよ」
「もらった時すぐにね。匂い嗅いだら堪らんかったね」
「やっぱり吉野さんのSM嗜好は、本物で年季が入ってますね」
そんな会話を遮るように、竹野の呼ぶ声がした。
暫くの間を置いてから、僕はまた野鼠のようにちょこちょこと移動した。
次は室が変わるので、頭を上げる場所が変わる。
「古村さんからですね」
と竹野の声。
窓から顔を上げて見ると、白いシーツの布団が室の中央に敷かれていて、
枕元の畳のに、極薄の桜色の襦袢をきちんと着た祖母が、やや俯き加減で
正座していた。
その反対側に、少し緊張気味の顔をして古村が座り込んでいる。
テーブルのある六畳間との間仕切りの下くらいに、吉野と竹野の二人が
並ぶようにして胡坐座りをしていて、僕の位置は幸いにもどこからも一だ
った。
祖母の色白の小さな顔は、また化粧で奇麗に整っていて、紅い口紅がか
たちのいい唇を際立たせていた。
「人に見られてするのは初めてなんで…」
古村が少し言い訳めいた口調でいうと、
「誰もいないと思ったらいいんですよ」
と竹野がさりげなく言葉を返した。
意を決したように古村が座ったまま、衣服を脱ぎだした。
ズボンも横に放り投げるように脱ぎ捨て、敷布団の上にトランクス一枚
の身体を移動させた。
少しの間を置いて、祖母が膝をずらせるようにして布団に上がり、古村の
傍に近づいた。
おそらく、祖母は今夜の最初から竹野の命令の下で行動をしているのだろ
うが、そこで何かを嫌がったりとか、強い拒絶の意思表示をするということ
は一度もなく、唯々諾々とした気持ちで、自らも快楽の渦の中に埋没すると
いう姿勢でいるのだ。
そして、そうすることが自分の身体と心の喜悦なのだと、ある意味で達観
の域に入っているのだ。
そこには恐怖を与えたり、脅迫をしてくる第三者は確実にいない。
祖母は先天的に、本当の意味のマゾヒストなのだ、と僕は改めて気づき、そ
れなら自分もそこへ、一歩でも近づいてやろうという変な意欲が湧き始めてい
た。
視線を布団のほうに戻すと、古村と祖母の二人はすでに抱擁し合っていて、
互いに顔を左右に動かせ唇を貪り合っていた。
古村の手が祖母の襦袢の襟の中へ埋まっていた。
座ったままの抱擁は長く続き、祖母の襦袢は襟も大きくはだけ、裾も太腿の
下のほうまで露呈していた。
古村は勿論だが、祖母にも抗い嫌がる素振りはついぞ見えなかった。
まるで恋人同士か、夫婦の営みのようにさえ見えた。
古村も祖母も、周囲が見えないくらいの没頭感に浸っているようだった。
竹野も吉野も、ただ黙ったまま凝視しているだけだ。
徐に古村がその場に立ち上がった。
慌てた動作でトランクスを脱いだ。
肌の色とは少し違う黒さで、古村のものは真横よりも上に向かって固く屹立
していた。
祖母が少し上体を起こすようにして、屹立した古村のものに顔と唇を近づけ
ていった。
古村のものは、祖母の口の中に全てが入りきらないような長さで太さもかな
りあった。
僕も古村のものの異様さを見て、思わず感嘆の息を吐いた。
それでも祖母は口の中一杯にして、古村の異様な長さのものを、時間をかけ
ゆっくりと愛撫を続けた。
「ほ、欲しいか?」
古村が上から相手を蔑むような声で聴くと、祖母は口の中一杯にそのものを
含んだまま、上気した顔を二、三度、小さく頷かせていた。
「お前の腐れおマンコに突き刺してやる」
そういう古村の顔の表情も、最初の頃に較べて激変しているようだった。
眼鏡の奥の目がぎらついているのが、何となく僕にもわかった。
すでに襦袢の片方が脱げている祖母の、細い両肩を抱くようにして、古村は
布団に祖母を仰向けにした。
次に古村の両手が、祖母の両足首をわし掴んでいた。
布団の上で小柄な祖母の身体が、海老折りのようになった。
「ああっ…」
祖母が短く喘いだ。
「もう濡れてやがる」
目の色を光らせて、古村が侮蔑的な言葉を吐き捨てる。
僕の位置からは、古村のあまり無駄肉のない背中が見えるだけで、祖母の顔は
半分くらいしか見えていなかった。
しかし下手に場所を移動すると、竹野と吉野の目に捕まりそうだったので、そ
こは我慢した。
古村の腰が、ゆっくりと前に動くのがわかった。
「ああっ…あっ」
祖母の顔が激しく歪んだようなのと、悲鳴のような高い声が挙がったのが同時
だった。
古村の大きなものが、小柄で華奢な祖母の身体の芯をつらぬいているのだ。
祖母の悲鳴のような高い声は一頻り続いた。
「こ、壊れちゃうっ…わ、わたし」
「き、きついわっ…こ、こんなの…」
悲鳴以外に祖母は、強い苦痛に堪えるような声も、時を置くことなく漏らし続
けていた。
竹野と吉野のほうに目をやると、彼らも古村のものに少し圧倒されたようで、
生唾を呑むように喉を何度も鳴らして、声もなく見入っているようだった。
「おい、スベタ。俺のものはまだ半分しか入ってないぞ」
「こ、これ以上は…む、無理ですっ」
「もう少し辛抱しろ。その内よくなってくるぜ」
「ああっ…わ、わたし…し、死ぬかも…あっ」
「それにしても、よく締まるおマンコだな。とても六十の婆あとは思えないぜ」
というような、古村の粗暴で下品な捨て台詞を耳にして、僕もだったが、竹野と
吉野の二人も、古村の突然の豹変には圧倒されるばかりで、それまでの落ち着き払
った態度や表情では明らかに失くなっているようだった。
古村は最初の頃の、おどおどした素振りや物腰の柔らかそうだった表情が完全に
消滅して、性に飢えた獣的な目つきになっていたのだ。
どこでどんなスイッチが入ったのか、誰にもわからないまま、他の二人も僕も目
点にして事態を見守るしかなかった。
古村の腰の律動はゆっくりとだが長く続いた。
「ふん、婆さんのここ、何か滑らかな感じになってきてるぜ。感じ出したかい?」
尚も下品で侮蔑的な台詞を吐き続ける古村だったが、苦しげに身悶えているはずの
祖母の声に、それまでとは少し違う柔らかさと、順応さが出だしてきている気がして、
僕は無意識に竹野と吉野のほうに視線を向けた。
すると、僕よりもはるかに大人な彼らも同じように、驚きの表情に変わってきていた。
「…あっ、ああ…い、いいっ」
とか、
「す、すごいっ…こ、こんなの…f、初めてっ」
と祖母の口から出る言葉は、半ば順応的で呼応するかのような響きになってきている
のだった。
祖母は、古村の太くて異様に長いものの責め立てに、明らかに感じ出してきているの
だ。
「ああっ…も、もうすごいっ」
そう悶えながら、祖母の両手は古村の両腕にしっかりと、しがみついているのが僕に
も見えた。
それからの祖母は、言葉は悪いが、完全に性に飢えた牝犬のようになっていた。
僕が見ているだけで、祖母は竹野の縄の緊縛を受け、二人の男の執拗な愛撫とキスの
攻撃を受け続けてきて、六十四歳という年齢からしても、身体も気持ちも相当に疲弊し
ているはずなのに、更なる欲情を求めようとしている祖母の姿に、何故かまだ自分の知
らない女の世界の深さを思い知らされた気がしていた。
祖母と、普通の犬から飢えた狼に豹変をしたような古村との、今これからの時間がど
う過ぎていくのかがひどく気になり、弱くなった月明かりで腕時計を見ると、十時を過
ぎていた…。
続く
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