奥多摩行きを明後日に控えた日の午後、僕は国語教師の沢村俶子の住むマンション
の方角に向けて歩いていた。
昨夜、彼女に僕のほうからメールした。
あの、生理の日の淫靡な儀式を終えて以来、一日に一度は必ずメールしてきている
俶子だったが、僕は一度も返信はしていなかった。
ウザイという思いもあったが、恋人同士でもあるまいしと、僕は故意的に無視の姿
勢をとっていた。
それでも俶子のほうは諦めることなく、日々の出来事や独り言ちめいた短い呟きを
欠かすことなく送信してきていたのだが、それに関係なく、僕は自分の都合だけでメ
ールしたのだ。
(明日、昼から早退して行く。お前の裸見たい)
と送信したら、五分もしない内に返信があった。
(朝から休みます。嬉しい)
教師が理由もなく簡単に学校を休むとは、とても聖職者とは思えない、少女のよう
なメールだった。
チャイムボタンを押すと、黒のツーピース姿の俶子が、銀縁の眼鏡の奥の目を煌め
かせて立っていた。
顔の化粧は例によって濃いめで、唇も赤々と目立ち、それほど嫌いでもない香水か
何かのような匂いが、僕の鼻をついてきた。
「何だよ、それ。どこか出かけるの?」
スポーツバッグをぶら下げながら、まるで自分の家のように慣れた足取りでリビン
グのテーブルに向かいながら、僕が尋ねると、
「この前、あなた、ベッドで、女の人の喪服姿っていいよな、っていってたから着
たのに…」
「あ、ああ…そうだったっけ」
そんな記憶が少しあった。
「学校簡単に休んでいいのかよ?」
「今日の私の生徒はあなただけ…」
ダイニングで飲み物を用意しながら、俶子は学校では全く出さないはしゃいだ声で
返してきた。
「ふむ。…せっかくのおめかし、ありがたいんだけどな。今日はそっちの気分じゃ、
ちょっとなくて」
「どういうこと?」
僕の前にアイスコーヒーのコップを置きながら、怪訝な顔で見つめてきた。
「もっと恥ずかしい俶子を見たい」
俶子の眼鏡の中の目が小さく泳いだ。
「ま、その前に一発抜いておくか」
「下品な言葉。あなたには似合わない」
ストローを使わずにアイスコーヒーを一気に飲み干すと、僕は傍に立っていた俶子
の片方の手首を掴み取り、そのまま彼女のベッドのある室に連れ込んだ。
ベッドに俶子を押し倒す。
俶子が着ていた黒のツーピースのスカートを、手荒な動きで最初に脱がす。
白のスリップの裾から、黒の小さな布地のショーツが覗き見えた。
長い期間溜まっていた僕の下半身の反応は上々だ。
ただ茫然とした眼差しで、抗う素振りも見せずにいた俶子の、その黒のショーツを、
僕は強姦魔のような乱暴さで、彼女の足首から抜き剥がした。
わざとだったが僕は飢えた狼のように、急いた動きでジーンズとトランクスを一気
に脱ぎ捨てた。
上着を着たままの俶子の、剥き出しになった両足を腕で抱え込むようにして、彼女
の割れた足の間に、僕は腰を埋めた。
下腹部ですでに屹立は充分な自分のものを、俶子の漆黒の下に突き当て、そのまま
濃し全体を前に進めた。
[ああっ…]
俶子が顎を突き上げるようにして、喘ぎの声を短く挙げた。
僕のものがずぶりと俶子の胎内に潜る感覚があった。
喘ぎの声を漏らした俶子のその部分は、もう十分に潤っていた。
「ああっ…あ、あなたっ…いいっ」
眼鏡がずり落ちそうなくらいに、俶子の化粧の濃い顔が左右にうち震えていた。
「お前、もうびしょ濡れじゃないか」
「ああ…い、いわないで」
「変態教師がカッコつけるんじゃないよ」
「ゆ、ゆるしてっ…ああっ」
腰にある限りの力を込めて僕は、早くものたうち始めている俶子を激しく突き続
けた。
エアコンの入っていない、それほどの広さのない俶子のベッドの上で、僕は額や
首筋に汗を滲ませながら、彼女の身体を下から突き続けた。
「ああっ…す、すごいわ、今日のあなたっ」
真っ赤な唇をわなわなと震わせ、何かわけのわからない言葉を吐き続ける俶子の
顔も汗まみれになっていた。
この夏休みからの短い期間での鍛錬のお陰もあってか、僕自身の持久力も相当に
なっているようで、先に絶頂の声を挙げたのは、三十五歳の俶子のほうだった。
パソコンのアダルトビデオを参照にして、僕は自分の最後の放出を、俶子の濃い
化粧の眼鏡の顔に向けて飛び散らせた。
飛散した僕の白濁液は、俶子の頬や眼鏡のレンズや赤い唇の端に飛び散っていた
が、彼女の茫然とした顔には、そのことへの嫌悪の表情はどこにも見受けられず、
絶頂の時の愉悦だけが滲み出ているような気がした。
僕からの飛沫を浴びた自分の顔の始末だけ先に済ませ、スカートを剥がれ、スリ
ップの裾が丸出しの身なりのまま、僕の身体の始末に俶子は甲斐甲斐しく動いて、
冷たい麦茶をベッドまで持ってきてくれていた。
そんな俶子に向けて、僕は冷えた麦茶を啜りながら、
「上着もスリップも脱いで、しばらくブラだけでいろ」
と自分も考えていなかったことを、ただの思いつきの口調でいった。
僕の横でベッドのシーツをタオルで拭いていた俶子の顔に、少し驚きの表情が出
たが、
「はい…」
と戸惑いも躊躇いもない声を返してきた。
僕の目の前で、俶子はいわれる通りにした。
「…少し恥ずかしい」
両頬を両手で包むようにして、俶子は上気した顔をさらに赤らめていた。
「いい眺めだよ」
大人ぶった声で僕はいって、ブラジャー一つだけの俶子を手招きして自分の傍へ
呼んだ。
娘のように素直に、ベッドで胡坐をかいている僕に寄ってきた。
その耳元に耳元に、
「お前のな、あそこの毛を剃りたいと思って今日は来た」
と囁くようにいうと、
「…………」
さすがに黙り込んでしまった。
「嫌かい?…なら帰る」
追い打ちをかけるように僕がいうと、
「い、いいわよ」
と声を少し詰まらせながら頷いてきた。
それは本当に思っていたことだった。
昨夜、奥多摩の祖母のことを思っていて、ふいと頭に浮かんでいたのだ。
「でも剃刀あるんかな?」
僕がそういうと、
「腋毛を剃っているのが…」
と呟くような声でぼそりといった。
この女の僕への思いは本物だ、と僕は少し背筋をうすら寒くしたが、それは顔に
は億尾にも出さなかった。
「お風呂の湯入れてくるわ」
俶子はそういって室を出ていった。
彼女の前では顔は平静を保っていたが、僕の内心はかなり動揺し、戸惑っていた。
いい出しっぺは僕だったが、女の人のあそこの毛を剃るなんてことは、無論、生
まれて初めてのことだ。
剃る側の気持ちがどんなで、剃られるほうの気持ちはどうなのか、まるでわから
ないことだらけだった。
だが俶子にそう告げた以上、今更引き下がるわけにはいかない。
なるようになるさ、といつもながらのいい加減さで僕は腹を決めた。
俶子はブラジャー一つで、僕は素っ裸になり、浴室に入った。
細長い浴槽から湯気が舞い立っていた。
俶子からプラスチック製の小さな髭剃りを渡され、僕は小さく身震いをしなが
ら、
「どうすりゃいいんだ?」
と素直な顔で彼女に聞いた。
俶子は浴槽の縁に腰を下ろしていた。
「わ、私も初めてだから…石鹸を塗り付けるんでしょ」
「…だよな」
片手に握った石鹸を、僕は俶子の漆黒に押し当てて、絵の具を手で捏ねるよう
に塗り付けた。
「気をつけて優しくしてね…」
「じゃいくぜ…」
自分で自分を鼓舞するようにいって、僕はプラスチックの髭剃りを、白く泡立
った俶子のその部分に押し当てた。
下に向けて柔らかく手を下ろすと、ぞりっという毛の切れる音が、手の先と耳
に伝わってきた。
何回か同じ動作を繰り返す。
僕の目に嫌が上でも、俶子の中心部分が飛び込んできていた。
僕が髭剃りを動かすたびに、パクリと割れた襞の周辺が、まるでい生き物のよ
うにヒクヒクと小さく鼓動するのが見えた。
湯を張った浴槽から出ている湯気のせいだけでなく、俶子のその部分の周辺を
自分なりに、真剣な目で剃り続けていた僕の顔には、汗の玉が噴き出ていた。
作業が終わり、湯でその部分を洗い流すと、今まであったものが急になくなっ
たことで、不思議な違和感を僕は感じていた。
「何だか、恥ずかしい…」
浴槽の縁に座ったまま、俶子が初心な娘のような羞恥の表情を見せて、僕を見
つめてきた。
終わってみると何ということのない作業だったが、あの吉野氏も僕の祖母のそ
の部分を剃毛した時はどんな思いだったのだろうと、僕は少し思いを巡らせた。
「お夕飯、一緒に食べていってね」
とまだブラジャー一つの裸身の俶子が、キッチンの冷蔵庫の前から僕に声をか
けてきた。
窓の外の西日の赤が濃くなり始めていた。
「明後日から、俺、奥多摩にいく」
僕がそういうと、
「まあっ…あ、あの尼僧さんのとこ?」
と俶子が顔を少し曇らせて返してきた。
「狙いはそれだ」
僕はわざとそういった。
「…私も一緒に行こうかな?」
真剣な眼差しで俶子が、眼鏡の奥の目を少し吊り上げていってきた。
「お前が行くとややこしくなる」
「でも…」
「ヤキモチ妬いてんのか?」
「そう」
「心配すんなって。相手は五十五のおばさんだ」
「年齢は関係ない」
俶子が少し怒ったような口調でそういった時、僕の頭には祖母の小さな顔が浮かび出ていた。
僕が隠しているから、俶子のまるで知らないことだ。
「飯食ったらもう一回しよ。毛無しのお姉さま」
「知らない」
美味しいビーフシチューを食べた後、僕はいった通りに俶子を抱いて、身体をぐったりさせて
帰路についた。
明日一日は、奥多摩の誰かのために、身体をゆっくりと休めないといけないと思い、ベッドに
潜り込んだ…。
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