…パソコンの画面にも濡れたその光沢ははっきりと映し出されていた。
「欲しいか?」
友美の臀部の辺りで手の指を動かし続けながら、若い男がいうと、彼女は切なげな
顔をさらに切なく歪めて、細首を幾度も頷かせるのだった。
そして男が、高く突き上げられた友美の臀部の前に膝立ちをして、細身の身体をぐ
っと前に進めると、
「あうっ…」
という短い悲鳴のような声が、友美の口から出た。
何が起きたのかは、性知識の薄い私にもわかった。
排泄の時にしか使われないはずの尻の穴を、友美はつらぬかれたのだ。
男の腰が前後に律動するたびに、友美の喘ぎと悶えの声は間断なく続いた。
長い時間、その行為は続いた。
そして間もなく、若い男の低い呻き声が響いて聞こえてきた。
密着し合った二人の身体が、一瞬の間、停止しして、友美の嗚咽のような声もどこ
かへかき消えた。
短い静寂が十畳間に流れた。
若い男が立ち上がり、友美の汗に濡れた白い臀部が画面に映り出た。
露わに映し出された友美の尻穴から、とろりとした白濁の液体が滲み出てきて、布
団のシーツの上に零れ落ちた。
それがその映像のエンドロールだった。
パソコンの画像が黒くなっても、私は暫くの間、椅子から立ち上がれなかった。
興奮と動揺を織り交ぜたような気持から、どうにか解き放たれ、狭いボックス席か
ら出た。
通路にいた店員から訝りの視線を受けながら、ふらつく足取りで店を出た。
駅前のロータリー付近のベンチに、腰を下ろしたのは覚えていたのだが、それから
夕刻に帰宅するまで、どこをどう徘徊したのかがまるで分らなかった。
帰宅すると妻の友美は、いつも通りのつつましさで迎えてくれた。
今日一日の行動を尋ねてくる妻ではなかったし、私から話すこともない毎日だった。
テレビのニュースの話題を、二つ三つ話しながらの静かな夕食を終え、いつもの通
り書斎に籠り、仕事の調べ物をして、風呂に入り布団に潜った。
その夜は妻の身体には一度も触れなかった…。
そこまで読み終えた僕は、パソコン画面から目を離し、横のベッドに身を投げ出し
仰向けになった。
日曜日の午後だった。
僕の両親は、今日が結婚記念日だとかいって、都心に出て映画を観て、どこかのレス
トランで夕食を摂って帰るといって、僕にはカレーの鍋だけ置いて出ていった。
ぼんやりとした視線を天井に向けながら、僕は吉野という人物のことを思い起こして
いた。
僕と吉野氏との面識は、これまでに一度もない。
僕があの寺での衝撃の夜、窓の外から一方的に盗み見しただけで、吉野氏は僕の顔も
知らないのだ。
六十七歳という年齢で、少し中年太り気味の、一見すると白髪の紳士なのだが、その
人が現在、重篤な癌の病に侵されていて、後何ヶ月とかも余命宣告を受けているという
のが、奥多摩の祖母からの情報だ。
仕事一途で生きてきていた吉野氏は、妻の不倫、というか背信背徳の行為を知りなが
ら、何年もそれを告げることができずにいて、その妻を何年か前に交通事故で亡くして
いるというのだった。
妻が生きていた時に、吉野氏はそのことを妻に告げていたのかどうかは、これから読
み解いていく中にでてくるのかどうか。
ベッドで大きな伸びをしようとした時、手に持っていた僕のスマホが突然震えた。
メールの着信の振動だった。
発信者の名前を見て、僕は少し驚いた。
昨日散々に恥ずかしいことをして身体を重ね合った、国語教師の沢村俶子だった。
僕のスマホと俶子のスマホが、偶然にも同じ機種だったこともあり、俶子が昨日のうち
に、お互いの番号とメアドを俶子が勝手に弄って、入力していたのを僕は思い出した。
メールを開いてみると、
(昨日のことが忘れられない)
という短文だった。
俶子の番号を出して発信ボタンを押すと、まるでずっと待っていたかのように一回目の
コールで相手が出た。
以下が、高校二年の僕と三十五、六歳のバツイチの国語教師の俶子との会話だ。
「何だよ」
「電話くれて嬉しい…」
「だから何だって?」
「声が聞きたかったの」
「用がないなら切るよ」
「冷たい人」
「じゃあな」
「待って。…昨日、あんなことして、私、生理が二日も早く来ちゃって」
「俺のせいか?」
「半分は…」
「責任とれってのか?」
「とってくれる?」
「どうやって?」
「抱いてくれる?」
「生理なんだろ?」
「キスだけでも…」
「生理の時のあそこ見せてくれるか?」
「まあっ」
「嫌ならいいよ」
「だって汚いし」
「俺が見たいといってる」
「でも…」
「じゃあ、切るよ」
「意地悪な人」
「それじゃあ」
「ま、待って…」
「待てない」
「…き、来て」
「一時間で行く」
五十分で俶子の住むマンションについた。
チャイムを押すと、すぐに俶子が僕に体当たりをするように抱きついてきた。
狭い玄関口で二人はきつく抱き合って、互いの唇を激しく貪り合った。
俶子の眼鏡の奥のやや細い目が、泣きそうになるくらいに潤んでいるように見
えた。
今日の俶子は真っ赤なTシャツとカーキ色の短パン姿だった。
リビングのテーブルの前に行くと、アイスコーヒーとカステラが置いてあった。
アイスコーヒーを一口啜ってから、僕の真向かいに座っている俶子の目を、強く
見つめていった。
「服、脱げよ」
電話の時と同じ口調で、僕は故意的にそうしていた。
十六のこの歳で、僕は自分よりも一回り以上も年上の、俶子の強い被虐性を見
抜いていた。
乱暴にすると悦ぶ女と喝破していたのだ。
それは昨日の浴槽で、僕の小便を陶酔しきった顔で呑む、俶子を見た時に十六
の少年なりに感じたことだ。
俶子は驚いた顔で僕を見たが、
「はい…」
と短く応えて、Tシャツの裾を両手で手繰り上げた。
「下もだ」
と僕は付け加えた。
Tシャツを脱ぐと俶子はブラジャーをしていなかった。
丸くて膨らみの豊かな乳房が、零れるように溢れ出た。
短パンんのジッパーを外す少し前、僕を見た俶子の潤んだ目が自己陶酔に陥っ
たかのように茫然となっていた。
「何だよ、それ」
とまた蔑んだ口調で、俶子にいった。
短パンを脱いだ俶子を見てのことだ。
生理用のショーツが、まるで男子のブリーフみたいに大きく見えたので、僕の
口から出た言葉に、
「せ、生理用はこんな大きなのも」
と俶子は柔らかな口調で説明してきた。
高校二年の男子生徒に、そんな知識があるわけがなかった。
「まあ、いい。こっちへ来い」
と僕は俶子を自分の傍へ呼んだ。
「はい…」
と隷従的な声で応えた俶子の、眼鏡の奥の目は虚ろなのか、陶酔に浸りきって
いるのか、呼びつけた僕もわからないでいた…。
続く
(お詫び)
毎度毎度のみすです。
すみません。
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