白髪の吉野と若いほうの眼鏡の古村が、僕のいる窓のほうに近づいてきた。
の吉野が丸い陶器の灰皿を手にして、煙草の煙を吐き出しながら、古村と並ん
で、僕が潜んでいる窓のほうに歩み寄ってきたのだ。
僕は慌てて腰を屈めながら、犬走りを伝ってその場から退散した。
それでも二人の会話が聞き取れるくらいの距離のところで、僕は一つ大きな息
を吐いて、まるで忍者のように黒シャツとジーンズの身を小さく屈め、耳を澄ま
せた。
「いやあ、吉野さん。僕はもう、ここまでだけで充分堪能させてもらいました
よ」
古村の、本心からのような声がした。
「そうかね。それはよかった」
満足そうな吉野の返答で、何となく二人の関係性が呑み込めた。
六十代で白髪の吉野が、四十代の眼鏡が特徴的な古村を、今夜のこの場に誘っ
てきているのだ。
「こんな女の人が、こんな僻地にいること自体が、何よりの驚きですよ。僕は
最初に彼女の胸をはだけて、おっぱい、いや、乳房を掴み取った時、手から電気
が流れたような気がしましたよ。あんな、滑らかというか、しかも肌理の細かい
肌の感触は、僕は初めての体験です」
「そうだね。何か吸盤の肌のような…」
「キスした時の唇の感触もね」
「うむ、僕もそうだが、もう一つ僕が気に入ってるのは、彼女が溜息のように
吐く息の匂いが好きでね」
「あ、同感です。清潔な匂いというのか…」
祖母と交互にキスをした時の二人の感想を聴いて、何故か僕の股間の神経がむ
ずっと反応していた。
「夜の更けるのが早そうで、最後まで神経が持つかどうか、心配ですよ」
「本番はまだもう少し先だよ」
そういって間もなく二人は、窓際から離れていった。
落ち着け、自分とそう心に念じて、僕は動き出すタイミングを計りながら、少
しの間を置いて、腰を上げ忍び足で元のところに戻った。
「ほんと、兎の毛のように柔らかくて滑らかだ」
小さく感動するような古村の声が聞こえた。
「あっ…あん…」
続いて聞こえてきたのは、祖母の喘ぎ声で、喉の奥を窄めた、ほんとに蚊の鳴
くような、小さな響きが聞こえ、それが一定の短い間隔で止むことなく続いた。
祖母の切なげなその声に、単純に若い僕の身体は反応し、のっそりと窓から顔
を上げていた。
中を見ると、祖母の白い裸身がテーブルの上で仰向けになっていて、手首足首
の全部が、テーブルの四方の脚に括られていた。
窓にいる僕からは、祖母の開脚された下半身が丸見えの状態だ。
吉野と古村が窓の傍で煙草休憩している時に、多分、竹野が次の場面設定で労
したものだった。
テーブルに向かい合うようにして、吉野と古村が座り込んでいた。
祖母の細い足が縄で固定され、付け根までが見える位置で、煙草を咥えた竹野
が悠然とした表情で座り込んでいた。
二人の男たちは、祖母の剥き出しにされた乳房を仲良く分け合うようにして、
手や唇での愛撫に励んでいる。
祖母の間断的な喘ぎ声は、二人の男たちの丹念で執拗な愛撫によるものだとい
うのがそれとなくわかった。
窓から顔を上げ、暫く見ていると、時折、どちらかの男が顔を動かせて、祖母
の唇を奪いにいったりするのだが、祖母のほうに抗いの気持ちはほとんどないよ
うで、二人のどちらにも舌を妖しく差し出しているようだった。
「古村さん、あなたは運がいいですよ。彼女はね、左側の乳房がすごく敏感で、
反応もいいんですよ」
と竹野が祖母の左側にいる古村に、少し味噌っ歯気味の歯を見せて話しかけて
いた。
その竹野が、横に置いていたバッグから何か小さな器具のようなものを取り出
してきた。
それは手で摘まめるような大きさで、ピンク色の楕円形の球体のようだった。
アダルトビデオでよく使われている性具だ。
祖母の喘ぎの間隔が徐々に短くなって、声も少し大きくなっているような気が
したところへ、
「皆さん、なかなかお上手のようで、彼女の反応もよくなってきてますよ。も
う少しいい声で鳴いてもらいましょうか」
と竹野が口を出してきて、手にしたピンクの性具を、祖母の剥き出しの足の付
け根に当てがっていった。
小さなモーター音が聞こえた。
「ああっ…だ、だめっ…」
ピンク色のものの妖しい振動を、祖母は身体の一番敏感な部分に受けたのだろ
う、拘束された全身を激しく左右に揺り動かせ、一際高い悶えの咆哮を挙げた。
祖母の剥き出された足の付け根を、その小さな性具で責め立てる竹野の手が、
さらに突き当てられた周辺を、意地悪く甚振るように動くのが、僕の位置から
はっきりと見えた。
緊縛の身を激しくのたうち廻らせるように、祖母は小柄で華奢な全身を揺すり
続け、咆哮の声を挙げ続けた。
「す、すごい敏感な身体なんですね」
乳房への愛撫の手を止めて、古村が眼鏡の奥の目を大きく見開いているのが見
えた。
祖母は最早、気絶寸前のような状態に追い込まれているようで、
「ああっ…あ…い、いいっ」
とか、
「も、もう…わ、わたし…」
とか、
「だ、だめっ…どうにか…どうにかなっちゃうっ」
と深い身悶えの境地に堕ちていく寸前のような、言葉にならないような熱く燃え
上った声を出し続けるのだった。
「古村さん、ほら」
と竹村が古村に声をかけて、片方の手の先で、祖母の足の付け根付近を指した。
呼ばれた古村が竹村の指し出した手の先に目を向けると、忽ち強烈な驚きの表情
を露わにした。
僕も思わず窓の外から目を凝らしてみると、祖母の陰毛の剃られたその部分の柔
肉の裂け目が、水に濡れたように光っているのがはっきりと見えた。
「この人はね。六十を過ぎていても、ここの潤みはすごいんですよ。私も最初は
びっくりした」
と竹野が驚きの目をそのままにして、祖母の濡れ光ったその部分を凝視している
古村に味噌っ歯を見せて話しかけていた。
その話に釣られるように、白髪の吉野も身体を動かせて、祖母の足の付け根にぎ
らついた目で凝視していた。
「ほんとはこの後、皆さんにわかめ酒でもと思っていたのですが、生憎、今年は
わかめが御覧のように不作でして、申し訳ございません。ここでまた喫煙タイムと
させていただき、隣の間で布団の用意をさせてもらいますので」
それから数分後、そういって竹野が立ち上がり、祖母の手枷足枷を慣れた手つき
でほどき出した。
竹野が、まだテーブルでぐったりしている祖母の耳元で、何か話していたが、す
ぐに二人のほうに顔を向けて、
「今から彼女がトイレに行くとのことです。放尿、御覧になります?」
とさりげない口調でいった。
二人の男たちは顔を見合わせて、少し気恥ずかしげな表情で、テーブルから立ち
上がり室を出ようとする祖母の後についていった。
トイレで祖母は、二人の男たちの前で放尿するところ見せるのだ。
これにはさすがに、僕は付いていくことはできなかった。
また、僕は窓下の犬走りに座り込んで、次の場面を見るまで待機の姿勢をとった。
祖母のことを考える。
今夜の舞台の設営者でもある、竹野という男にも、そして客として来ている二人の
男たちにも、祖母は脅迫や恫喝の類は、何一つ受けてはいない。
竹野というどうやら首謀者らしい男の、いいなりに祖母は間違いなくなっている。
何年か前、祖母は竹野にこの寺の裏の小屋で、犯されたということを僕は知ってい
る。
事のいきさつは兎も角、やはり最初は、小柄で華奢な体型の祖母は半ば力づくで犯
されたのだと思う。
その後がどうだったのか?
いや、最初に身体をつらぬかれた時、もしかして祖母は竹野の身体に、女として恥
ずかしくも反応してしまったのかも?
竹野のメール文のどこかに、確か縄の拘束に祖母は異常な反応を舌とかいうのがあ
ったような気がする。
そういえば祖母は、早くに亡くなっている夫が、そういう類の嗜好者だったともい
っていた。
竹野という自分よりも二十以上も年下の男に、祖母は自分がSM嗜好者であるという
ことを喝破され、そして極秘ながらの交際を続けていたのだ。
それが今日の今日まで連綿と続いているのだ。
そんな二人の間に恋愛関係があるのかどうか?
そこまで類推するのは、十六歳の若過ぎる僕には到底無理なことだ。
僕はそこまで考えた後、諦めて棒を折った。
満月の明るい月が、いつの間にか杉木立ちの陰に隠れようとしていた…。
続く
(後記)
無名のどなたか、いつもこの独りよがりの拙文をお読みいただき
ありがとうございます。
また過分の励ましの言葉をいただき、何とか頑張っています。
添削もほとんどしないままの投稿ですので、誤字脱字の類はご容
赦ください。
尚、モチーフは自分の若い頃の記憶で、半分以上は事実に基づい
います。
ありがとうございます。
雄一
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