…どちらかというと細身な体型で、短パンを穿いた足の線もスラリとしていて、
何より僕が驚いたのは、ポロシャツの胸の膨らみの大きさだった。
口紅を引いただけのような、素顔に近い色白の顔を見て、何もあんなに化粧し
なくても充分に奇麗なのにと僕は思った。
何げに壁の時計に目をやると、十時半を少し過ぎていた。
先生の入れてくれたコーヒーは、美味しそうなバームクーヘン付きもあって美
味しかった。
ところが、僕が沢村先生の家をこうして訪ねてきた理由と、先生が僕を招いて
くれた理由がわからずに、コーヒーを飲み終えて暫く、テーブルの前で言葉を失
ったように黙り込んだ。
テーブルを挟んで僕の真正面にいた先生も、そのことにはたと気づいたらしく、
顔を横に向けて一人笑いをしていた。
「私ね、あなたが一年の時から、あなたの作文能力は凄いと思って感心してた
の」
「あ、ありがとうございます。何か買ってくればよかったな」
照れ隠しで、ここを訪ねた時、内心で少し悔やんだことを言葉にした。
「人や物を見る洞察力が優れてないと、文章はなかなか上手く書けないのよ。
それともうひとつは想像力。これも大事なのよ」
国語の先生が、国語の先生らしいことを真顔でいったのに、
「僕の場合は妄想だけで」
と茶化すようにいうと、先生が急に目を凝らしてきて、
「う、上野君の…今、抱いている妄想ってある?」
と謎掛けしてきた。
赤い唇を噤むようにして、僕を見つめてきている先生に、僕もしっかりと視線を
逸らさずに見つめ返していた。
この辺は夏休みの僕の体験効果の現れだと、自分自身で思った。
妖しくなり出した空気感の中での、視線と視線のぶつけ合いで勝ったのは、どうや
ら僕のようだった。
先生のほうが、何かに挫けるように僕から視線を逸らしたのだ。
ダイニングルームの室全体に、妙に息苦しい空気感が一気に漂い出してきている
のが、若い僕にもわかった。
その少し危険そうな雰囲気を払拭しようとしてか、沢村先生が椅子から立ち上が
ろうとした。
「先生、動かずにそこにいてっ」
僕は少し強い口調でいって、自分が椅子から立ち上がっていた。
テーブルを廻り込んで、沢村先生の真後ろに立った。
手をすぐに先生の膨らみの豊かな胸に持っていった。
ポロシャツの生地を通して、先生の乳房の張りのある柔らかさを、僕は自分の手に
実感していた。
間髪を入れず、僕は身体を屈め、顔を先生のただ唖然としている顔に近づけた。
唇が触れた。
先生の唇には何の抑止力も働いてはいなかった。
先生の歯と舌の感触が、僕の舌に苦も無く伝わってきていた。
誰に教えられたのでもなく、自然なまま十六歳の僕は動いただけだった。
自分でも少し信じられないような僕の動きの、原動力の根幹は間違いなくあの夏
休みの激動的で、激情的な体験が大きく作用していると僕は確信していた。
乳房を揉みしだく僕の手は、ポロシャツの下に、先生はブラジャーをしていない
ことを察知していた。
固くし凝っている乳首の感触が、僕の手のどこかしこに伝わってきていた。
塞いだ口の中でも、先生の舌は喘いでいるようだった。
ここに来る道すがらでも、まるで考えてもいなかった事態だったが、降って湧い
たようなこの機会を逃すわけにはいかない、と経験もまだ浅い少年の僕は思った。
ここでこの先生を尚責め立てて、恥ずかしい陥落の憂き目に遭わせたいという嗜
虐的な発想に僕はとり憑かれた。
唇を離し、怯えを露わにした先生の片腕を掴み上げ、
「ベッドはどこだ?」
と大人びた口調で聞いた。
慄きながら先生が指した指のほうにドアがあった。
六畳ほどの広さの洋室になっていて、長い壁に沿うように女性らしい仕様のベッ
ドが見えた。
「全部脱げよ」
先生をベッドの上に押し倒して、冷徹ぶった声で僕はいった。
僕の思いもかけない豹変に、沢村先生は驚きの表情を露わにしたが、大声を出す
とか強く拒絶して暴れるという所作はどこにも感じられなかった。
僕の穿った見方かも知れなかったが、むしろ先生の目には学校では全く見せるこ
とのない、性に激しく飢えた女の目のような、陶酔感のようなものが、細い銀縁の
眼鏡の奥から滲み出てきている感じだった。
ベッドに座ったままで先生は、僕のいう通りにした。
肌の色は白く、腰の周りのくびれが際立ち、改めて見る乳房は丸く盛り上がり、
豊潤そのものだった。
これはここで一発抜いておかないと、夏休みの経験を踏まえて僕は思い、全裸の
先生の身体に若さを思いきりぶつけていった。
僕を迎える先生の順応も早かった。
相思相愛の恋人同士のようにして、それまでの異様な雰囲気も忘れたかのように
僕たちは愛し合った。
「な、中に出してっ。…き、今日はいいの」
僕が達する寸前に、先生は縋るように僕にいった。
そしてこの先生も、自分が達する前に、
「お、お願いっ。…と、俶子って呼んで」
と僕にそうせがんできた。
祖母の顔が、僕の頭を過ったのはいうまでもなかった。
裸のまま、先生…いや、俶子はキッチンに行き、冷たい麦茶を持ってきて、また
僕の横に添い寝してきた。
暫く経ってから、徐に俶子に聞いてみた。
僕が誤って提出した、あの尼僧の書いた文章のどこに刺激を受けたのかと。
「ぜ、全部よ。全部に興奮してしまって、私、その夜寝れなかった」
「それでオナニーかい?」
「ええ、したわ…」
「先生、いや俶子は淫乱なんだな。学校ではしとやかぶってるくせに」
「私、自分にも男の人に虐められたいとか、恥ずかしいことされたいとかの願望
があること知ってるの。このこというの、あなたが初めてだけどね」
「そういう人っているんだよな」
「あら、あなた他にもそんな人知ってるの?妬けちゃうわ」
祖母の顔がまた頭に浮かんだが、これは誰にも話せない。
「私、二年前に離婚してるんだけど、ほんとに正味の話、性の不一致だったの。
旦那が私と同じマゾ志向で…」
「そうなんだ。男にもそういうのいるとは、聞いたことあるけど」
「マゾの女からしたら最低よ。でも、女の人のマゾは好き。だからあれに興奮し
たのよ。ところでその人ってあなたのお知り合いなの?」
思わぬ話の進み具合で、十六の少年の僕は、三十代半ばの老練な熟女の逆責めに
合い、かなりの部分まで秘密を暴露させられてしまっていた。
勿論、祖母との話は、断じて何一つ話さなかったが。
その尼僧さんに会わせてほしいと俶子に懇願されたが、それはこれからの君の僕
への忠誠次第と交わして逃げた。
熟女を横にしていた僕は、長い話の真ん中くらいから、もう復活の狼煙を濛々と
挙げていた。
俶子も僕の話に、また酔い始めていた。
「ここに縄あるかい?」
突拍子もないことを僕は尋ねていた。
「な、ないわよ、そんな。だって誰も縛ってくれる人なんかいないもの」
不貞腐れたような声で、俶子はいった。
ないのを聞いて、僕も本心は安堵していた。
「恥ずかしいことしようか?」
「僕の前で何でもできる?」
「うーん。今だったらできるかも…」
「俶子がションベンするところ見たい」
「まあっ…」
「嫌なら帰る」
「意地悪なのね」
「うん」
「わかったわ。おトイレで?」
「風呂場がいいかな?」
「い、いいわ。丁度今、したくなってるし」
行こうという前に、僕はもう俶子の手を取ってベッドから起き上がっていた。
僕も俶子も素っ裸のまま、浴室に駆け込んだ。
実際の僕には、女性の放尿を見たことは一度もなかったが、自分の口から出した
ことだから今さら後には引けなかった。
一人住まい用の浴室は狭かった。
「こ、ここにすればいいの?」
少し恥ずかしげに俶子が洗い場に立っていった。
「少し見にくいけど、いいんじゃない?」
膝を曲げて両足を少し開き気味にして、俶子が洗い場に座った。
したかったというのは本当らしく、尿はすぐに俶子の股間から勢いよく飛び出た。
「ああ…や、やっぱり恥ずかしい」
「変態女」
僕の口から勝手に言葉が出た。
「見られて嬉しいか?」
「は、恥ずかしい…で、でもあなたに見られて…う、嬉しいっ」
「ふふん、学校の教師がよ、生徒に見られてションベンとはな」
「お、お願いっ…そ、それはいわないで」
会話を交わせば交わすほど、自分自身が卑猥になっていくのがわかった。
「次は俺のションベンを、その顔で受けてみろ」
「ああ…そ、そんなっ」
「嫌なら帰る」
そんな下卑た会話のせいか、本当に僕の尿意も限界に来ていた。
「お、お願い…あなたのおしっこ、の、飲ませて。か、顔にかけて」
「ふん、淫売のどうしようもない女め」
この時の自分の顔がどんなだったかは、僕は知らない。
見たこともない淫獣のような、ひどい顔をしていたのだと思う。
僕の下腹部から勢いのいい飛沫が、俶子の恍惚の顔に思いきり当たっていた。
俶子の口が惚けたように開けられていて、そこに僕の勢いのいい飛沫が飛び
散り、半分以上が口の中に入っていた。
尿まみれになった洗い場で、僕は俶子の片足を持ち上げるようにして、下か
らつらぬき犯した。
それまでの獣じみた興奮が、僕の絶頂を早めたのは仕方のないことだと思っ
た。
シャワーを先に使った僕は素っ裸のまま、俶子のベッドに仰向けに寝転んで、
茫然とした顔で白い天井に目を向けていた。
自分が今、何を考えているのかわからなかった。
沢村先生が俶子で俶子が沢村先生。
自分はこれからどちらに重きを置いていったらいいのか?
二人は一体どんな関係になっていくのだろうか?
思考が難しくなりそうなので、僕の得意な、どうにかなるさという投げやり
思考を採択して、考えることを止めた。
俶子がシャワーを終えて、バスタオルを身体に巻き付けて室にきた。
「お腹空いたでしょ。何か作るわね」
そういって濡れた髪の毛を、小さなタオルで拭きながら室を出ていこうとして、
ふいに足を止め、
「今日は遅くまでいてね」
と哀訴するような目でいってきた。
昼食は俶子が作ってくれたピラフで終え、二人はまたベッドに横たわった。
俶子は高校教師という実像をどこかに置いてきたかのように、一廻り前後も年
下の僕に限りなく尽くしてくれ、意地悪根性でいう僕の要求に何でも応えてくれ
た。
僕の目の前でオナニーして見せろというと、はい、と応えて、本気で自慰行為
に励んだ。
僕のものを咥えろといわれると、汗をかいて熱心にしてくれた。
昼食を終えてからの二人は全裸のままだった。
三時のコーヒータイムの時、俶子が僕の耳元に囁いてきた。
「また、したくなってきた」
若い僕は躊躇することなく、俶子の要望に応えてやった。
五時を過ぎた頃、帰ると僕がいうと目に涙を滲ませ、
「私を嫌いにならないでね…」
と少女のような純真な声でいって、僕を送り出してくれた。
帰り道の途中の図書館の横に、芝生のある小さな公園があった。
俶子の家を出て二百メートルほど歩いたところで、その公園に寄っていこうと、僕は
決めていた。
ポケットからスマホを取りだし耳に当てた。
「雄ちゃんっ…」
僕の名前だけいって、相手は声を詰まらせてしまっていた。
僕も名前だけ呼んでやった。
「昭子…」
(筆者後記)
またしても投稿ボタンの早押しです。
すみません。
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