八月の下旬だというのに、朝から気温はどんどんと上がり、祖母と墓参りに出かけ
た十時には、スマホで見た三十四度になっていた。
祖母は薄水色のブラウスに黒のパンツ姿で、白の日傘を差していた。
僕はあまり暑いので、短パン姿で外に出ようとしたら、
「ちゃんとズボン穿きなさい」
と祖母に叱られて、ジーンズに穿き替えた。
蝉の鳴く音がけたたましい墓地からの帰り道の、本堂を過ぎた辺りで、僕にとって
は会いたくもあるような、ないような尼僧と、ばったりと出くわしてしまった。
尼僧と最初に目が合った時、祖母にはわからないようにして、僕のほうが先に頭を
下げた。
尼僧のほうも目を少し動かせて、僕に視線を向けてきたが、すぐに祖母のほうに目
を動かせ、通り一遍の挨拶に興じていた。
祖母も如才なさげに笑みを浮かべて応えていた。
夏休みが終わりで、今日の午後、僕が帰って行く話のようだった。
二人の間の秘密の関係を知っている僕には、何とも間の悪い時間だったが、尼僧の
屈託のなさげな声を聞いていて、唐突に邪心のようなものが湧き出てきた。
祖母が話す僕のことに、あまり関心がなさげだったようなのも、少し気に入らなか
った。
別れの挨拶をして祖母が歩きかけた時、僕は尼僧の傍に素早く近づき、
「失礼します。これからも祖母のこと、どうかお姉さんだと思って仲良くしてやって
ください」
と囁くようにいって、足早にその場を離れた。
二十メートルほどのところで振り返って尼僧を見ると、愕然とした表情で、驚きの目
をしているのがはっきりと見えた。
尼僧の書いた、あの長文の日記を何回か読み耽ったせいなのか、袖頭巾と法衣がよく
似合うこの尼僧には、祖母とはまた少し違う、魅力のようなものをいつの頃からかわか
らないが、僕は内心で抱いていたのだ。
今後の布石みたいなものだ、と僕は大人っぽく呟きながら、前を行く祖母の後を追っ
た…。
続く
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