「…で、吉野さんって人の容態はどうなの?」
夏用の掛け布団の下で、祖母と僕はまだお互いに裸のままの身を寄せ合って
いた。
どこに用意していたのか、祖母が片手に持った小さなタオルで、僕の額や首
筋に残る汗を甲斐甲斐しく拭いていてくれている時に、僕は敢えて聞きにくい
ことを問いかけた。
「一昨日にね、吉野さんとこの家政婦さんから電話あってね。吉野さんが日
課の散歩から戻ってすぐに、気分が悪くなったというので、病院と私に連絡し
てくれたの。駆けつけた病院の先生の薬の投与で、安静状態になったらしいん
だけど、譫言みたいに私の名前を何回も呼ぶので、家政婦さんがまた連絡くれ
て、それでお昼過ぎの電車に乗ったの。…駅下りたら妙なハプニングがあって、
大きな広告の看板の近くで、背中を丸く曲げてこそこそと、死んだ祖父ちゃん
そっくりの動きで、うろうろしてる雄ちゃん見て、私びっくりして声かけよう
としたら、吉野さんの知り合いの古村さんが迎えに来てくれて、車に乗せられ
たの」
祖母は嫌な顔一つせず、淡々とした口調で話してくれた。
「雄ちゃんのこと気にしながら、吉野さんとこにいったら、静かにベッドで
寝ていたので、安心して帰ろうとしたら、彼が目を覚まして、今夜は頼むから
一緒にいてくれって頼まれたんで…雄ちゃんには申し訳なかったけど、泊って
きたって訳。…だから、どこかのマセガキさんが想像するようなことは、何に
もありませんでした」
祖母は僕の鼻先を、軽く何度も指先で突っつきながら、白い歯を見せて、若
い娘のような、屈託のない笑顔を見せてきた。
「僕、そんなとこまで祖父ちゃんに似てるの?」
弁解の声もなく、降参の目を祖母に向けていうと、
「お祖父ちゃんがね、私に隠れて何かこそこそすると、あんな風に背中が曲
がるの」
と返された。
「吉野さんとは…結婚なんか考えてる?」
話題を変えるつもりで聞くと、
「吉野さんのベッドの横で手を握られている時もね。自分勝手で悪いが、君
を僕の妻にして死にたい、なんていうのよ。それであくる日の朝、真顔でね、
僕が生きた遍歴がこのUSBメモリーに入っている。君への思いも全部、中に入っ
てるから、君が僕によく話してくれてたお孫さんにでもいって、開いてもらっ
てくれって、あなたがこの室に入ってきた時渡したでしょ、小さな封筒」
と祖母はそういって、切れ長の目を微かに潤ませていた。
「明日、婆、違った。一緒に見てみようか?」
「あなたが見てからでいいわ」
「怖い?」
「…………」
黙って目を閉じた祖母の、口紅は薄くなっていても、輪郭のはっきりとした
唇を、僕は素早く顔を動かせて、自分の唇で塞ぎにいった。
微かに祖母はたじろぐ仕草を見せたが、僕の唇を避ける動きではなかった。
舌で祖母の歯と歯の間を割って、すぐに小さな舌を捉えにいく。
狭い口の中で触れた祖母の舌は、僕の舌に従順の意を示しているように素直
だった。
唇を離してすぐに、
「昭子、もう一回したい…」
と祖母の耳元に囁くようにいった。
僕の身体の下半身は、少し前から回復一途だった。
まあ、という表情で、祖母は僕を見つめてきたが、そこにも拒否や拒絶の意
向は何一つ伺えないと、僕は勝手に判断していた。
「…して」
僕は少しばかりの驚きを胸に隠して、祖母の少女のように小柄な身体に覆い
被さっていた。
この時の僕の頭の中は、理性よりも動物的な本能のほうが勝っていた。
祖母の、まだ汗の跡が残る額や頬や首筋に、本能だけの唇を我武者羅に這わ
し続けた。
ただ若いだけの僕のその動きに、何の言葉もなく祖母は応えるように、細く
て白い両腕を僕の首に、力を込めて巻き付いてきた。
僕の耳の付近に、吐く息を荒くし始めている、祖母の唇が擦れるように這い
廻ってきていた。
女性の身体への愛撫の手管など、まだほとんど知らない僕は正しく動物的な
勘だけで動いていた。
親に隠れて見ていたアダルトビデオの、欲情をそそる体位が、頭の中に咄嗟
に浮かび出て、祖母の小柄な身体を、布団の上に僕は苦もなく四つん這いにし
ていた。
僕の目の端に、祖母の驚いた表情の顔が掠り見えた。
両手の肘を畳に付け、かたちよく丸い臀部を高く突き上げさせ、その真後ろ
に僕は膝を立てていた。
もう固く屹立しきった、自分の下腹部のものを自分の手に添え、突き出され
た祖母の臀部の裂け目に向けて、大きな深呼吸を一つして突き進んだ。
「ああっ…」
一際高い咆哮の声が室中に響き渡った。
祖母の悶え声か喘ぎの声かわからない、熱の籠った声は、それから暫くの間、
止むことなく続いた。
僕の腰の前後の律動が、誰に教えられるでもなく、自然にかたちとして出来て
ることに、内心で僕はまた驚いていた。
祖母の白くて細い背中が、僕の腰の律動に合わせるように、前後に悩ましげに
動いているのが見えた。
十六歳の少年の僕の胸の中に、大きな征服感のようなものが勝手に湧き出てき
ていた。
昨日か今日だったか、冷蔵庫の前で訳もなく興奮し、妄想の中で袖頭巾一つだ
けの裸身の尼僧を、背後からつらぬいていた自分の姿を、僕は思い出した。
そうだ、明日、僕はその尼僧に会いに行くのだということを、僕は何げに思い
出していた。
目の前で激しく愉悦の声を挙げ続けている、祖母の細い背中に、僕はまた視線
を戻した。
この背中に、いつか自分の手で赤い縄を這わしてみたいと、そんな願望がふっと
自分の胸の中に、短い稲妻のような速さで走った。
何かでどうかして、僕が僕でなくなって、壊れてしまうのかな?と僕はふと思っ
たが、そうなったらそれはそれで仕方ないし…まあ、なるようにしかならんわ、と
のんきな関西弁の発想しか、単純で単細胞な僕には浮かんではこなかった。
そんなことを考えていたお陰でか、祖母への三度目の挑戦は、これまでよりもか
なり長い持続時間になった。
「ゆ、雄ちゃん、わ、私…死にそうっ」
と泣き喚くようにいう祖母に、
「昭子っ、ぼ、僕もだよっ」
と名前をしっかりと呼んでやった…。
続く
※元投稿はこちら >>