「…で、吉野さんとの最初の出会いのきっかけは、あなたも思っている通り、
竹野だったの。竹野のほうが誰かの紹介で吉野さんを知って、それで誘ったと
いうことらしいわ」
布団の向こうの祖母は、僕と目を合わさず、俯いたままいった。
「不純といえば不純な出会いだったけど、その後、真剣な顔で、私のこと覚
えてくださいっていわれて」
吉野のことで祖母は、僕への説明に、かなりの時間をかけてきていた。
「事を荒立てて、あなたに迷惑をかけたくない。だから竹野との関係はその
ままでいいから、私のことはぜひ忘れないでくださいって…」
祖母はそういってから初めて気づいたように、
「少し冷えてきたわね。お布団入りましょ」
といって、自分から掛け布団を跳ねてきて、自分から先に布団に潜り込んで
いた。
僕も躊躇うことなく、祖母の動作を真似た。
布団の中で最初に触れ合ったのは、両手だった。
祖母の手が、僕の手を真っ先に掴み取ってきたのだ。
目が合うと、祖母の僕を見つめる優しげな眼差しが、独りよがりでなく、本
当に嬉しそうに見えた。
「雄ちゃんがね、こんな私にヤキモチ妬いてくれたのが、とてもうれしかっ
たの」
そういって僕の顔のすぐ間近で、真っ白い歯を覗かせて笑みを浮かべている
のを見て、この人の年齢は本当に六十四歳なのか、と僕は心の中で追った。
祖母の身体の、僕の好きな匂いが、鼻孔の辺りをひどく責めてきていた。
祖母の小さな手が、僕の両頬を小鳥を抱くような柔らかさで包み込んできた。
お返しに僕のほうから、顔をさらに近づけて、唇で唇を、まだぎこちない動
作ながら静かに塞いでやった。
「うっ…」
とだけ祖母は小さな声を漏らして、自分の舌を僕の歯の表面に軽くぶつける
ように差し出してきた。
若過ぎる僕の身体の反応は早い。
祖母の滑らかで小さな舌を、口の中に受け入れながら、僕は下半身の自分に、
心の中で叱咤激励の声を送っていた。
祖母の細い手が両頬から離れ、僕の首筋に巻き付いてきていた。
以下にも経験豊富なプレイボーイのように、とは正しく自分の独りよがりそ
のものだが、僕の片手が、自然な動きで祖母の寝巻の生地の上から、彼女の乳
房の左側を真綿を包み取るように掴んでいた。
それだけで、祖母の小さくて細い身体が、細かな痙攣を起こしたように小刻
みに震えた。
「ああっ…ゆ、雄ちゃん」
唇が離れると、祖母が泣き出しそうな声で僕の名を呼んだ。
この時に、祖母をどう呼べばいいのかの答えを、僕はまだ持っていなかった
ので、乳房に置いた手に力を少し込めた。
それから、祖母と僕の身体と身体の至る部分が触れ合い、擦れ合いして、ふ
と気づくと、祖母の寝巻と僕のTシャツは、布団の横に散らばっていて、お互い
の汗と汗が、肌と肌が密着する隙間で、微熱のようなものを出して融和していた。
祖母の身体の下に僕の片手が伸びていた。
祖母の薄く頼りなげなショーツの生地の上を、僕の指が淫靡になぞるように
這っていた。
ショーツの中に指先を、僕は大胆に差し入れた。
おや?という思いが僕の頭に湧く。
祖母のそこに、あるはずの茂みの感触がなかったのだ。
僕はすぐに気づいた。
いつの日のどんな状況でだったのかわからないが、祖母のその部分を剃毛した
のは、あの吉野なのだ。
祖母の話を聞いている僕に、そこの部分を剃毛した吉野への嫉妬や憎悪の気持
ちは不思議に湧かなかった。
ショーツの中に差し入れた僕の手に、祖母のその部分は、春に地面から生えだ
した若草のような感触で伝わってきた。
そういえば祖母との最初の時、祖母の股間の中心を、僕は自分の目で見ただろ
うか、という疑問が湧いた。
あの時は女性というものの何もかもが、僕には初めてのことで、股間の漆黒の
繊毛もあるものとばかり、思い込んでしまっていたかもしれないと、ふと思った。
ショーツの中に差し入れた指先に、柔らかな肉の裂け目のようなところに、触
れ当たったような感触があった。
何か温かな水を湛える沼地に触れた感覚だ。
若過ぎる僕に、その部分への愛撫の手管があるはずがなかった。
慌てた動作で、僕は祖母の身に付けていた唯一の小さな布地を剥ぎ脱がしてい
た。
祖母から身体を離し、下のほうに顔を移動させた。
祖母の股間の裂け目が鮮明に見えた。
僕にその部分を見られたことを、祖母は察知したのか、
「は、恥ずかしい…」
と小さく声を漏らした。
また忙しない動きで、僕は自分のトランクスを脱ぎ捨てた。
もうその時には、僕の目は相当にぎらつき血走っていたのだと思う。
「い、入れていい?」
喉の奥を詰まらせたような声で、祖母に聞いた。
「入れて…」
祖母のか細い両足を割って、緊張を一杯にして、僕は腰を中に進めた。
手で自分のものを誘わなくても、僕の固く屹立したものは、目標であ
る濡れた沼地の入り口に達していた。
僕の空耳だったか、水の跳ねるような音を聞いた。
濡れていながら、温かい皮膜のようなものに、僕自身のものが包まれ
た感覚が、頭の先まで伝わってきた。
この前の学習を思い出しながら、僕は温かい沼地の中で、僕自身を躍
動させるように、腰の律動に力を込めていった。
「ゆ、雄ちゃん」
と祖母が何度も僕の名を連呼しているのが、はっきりと聞こえた。
「い、いいわ。…死ぬほどいいっ」
「ぼ、僕もだよ」
「あ、あなたが…一番好きっ」
十六年のまだ短い人生だが、間違いなく初めて味わい知った快感だと
思った。
僕の額からの汗が、祖母の乳房の谷間の辺りに、滴り落ちるのが目に
入った時だった。
身体のどこかわからないところから、熱風の塊のような快感が突然、
僕に襲いかかってきた。
自分ではもう制御の効かない、それは竜巻のような渦だった。
「あ、ああっ」
僕の限界の声だ。
仰向けの祖母の小さな身体に、僕はしがみつくように倒れ込んだ。
最後の断末魔の時だ。
「あっ、ああ…あ、昭子っ」
それが僕の最後の声だった。
この前と同じで、祖母の最後の時の顔を、僕はまた見れなかった…。
続く
(筆者後記)
すみません。
またまた投稿ボタンの早押しでした。
沢山のご感想ありがとうございます。
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