俊樹は、美紀から渡されたセリフを覚えようと、メモを何度も読み返しているが、美紀と瞳が話してる内容が気になり、すんなり頭に入ってこない。
『棒読みのセリフだったら、直ぐに覆面を剥がすからね。自分の言葉として言えるようにね。』
美紀からの言葉が、頭をよぎる。
何度も何度も繰り返し読み返しているうちに、段々と洗脳されていく。
「どう、そろそろ覚えられたかしら。」
瞳との打合せが終わったのか、美紀が、俊樹に近付いてきて尋ねた。
「は、はい、なんとか。」
「じゃあ、ちょっと予行演習してみようか。瞳さん、トシのリード引いて入ってくるところからやってみましょ。」
「わかったわ。じゃあ、トシ、一旦リビングから出ましょ。」
瞳が、俊樹のリードを引いて、リビングの外に出る。
「いいわよ。」
リビングのソファーに腰掛けた美紀が、合図を出すと、瞳がリードを引いてリビングに入ってきた。リードの先は俊樹の首輪に繋がり、瞳に続いて四つん這いで、俊樹が入ってきて、ソファーに座る美紀の前で止まった。
俊樹は、正座して両手を床に付け、美紀の顔を見上げた。(本番では、正面に由紀子が座ることになっている)
まず、瞳が、切り出した。
「皆さんを悩ませていた変質者を連れて参りました。今日は、皆さんへの謝罪と共にお願いがある様ですのでお聞きください。尚、覆面をしているのは、同じマンションの住人の為にご家族への配慮をさせて頂いての事です。ご家族に罪はございませんのでご理解を頂ければと思います。」
「いいわね、瞳さん。」
美紀が、スラスラとセリフを言った瞳を誉める。
「次は、トシね。」
「はい。」
俊樹は、美紀の目に視線を合わせて、話し始めた。
「私は、自分の欲求を満たす為にマンション内で露出をし、皆様に不安と恐怖を抱かせてしまいました。誠に申し訳ございませんでした。………………、よろしくお願い致します。」
俊樹は、言い終えると、頭を下げて額を床につけた。
「まあまあいいかな。どう?瞳さん。」
「そうね、いいんじゃない。」
美紀も、瞳も、満足そうに微笑んだ。
「じゃあ、後は、本番ね。私は、先に行って準備してるから、瞳さん、時間になったらトシを連れてきてくれるかしら。これを渡しておくわね。」
美紀は、覆面を瞳に渡すと、瞳に俊樹をリビングに残し、部屋を出て行った。
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