俊樹は、由紀子の声にドキッとしたが、動揺を隠し、
「あ、ああ、た、ただいま。由紀子こそどうして。」
「あ、ちょっとビールが飲みたくなって、コンビニに行こうかなって。」
「そ、そうか。」
「それより、エレベーターに誰かいたの?」
由紀子は、エレベーターの方を向いていた俊樹に違和感を感じ聞いてみた。
「えっ、い、いや、誰もいないよ。ビールなら俺が買って来ようか。」
由紀子もそれ以上は問い詰める事もなく、
「じゃあ、一緒に行く?」
「あ、う、うん。」
俊樹は、内心ホッとした。
「あら、もうボタン押してあるわ。」
先程、俊樹が開けようとして押した為、ランプが点いていた。
「でも、上向きだわ。」
「あ、お、俺が間違って押しちゃったんだよ。」
俊樹は、体が熱くなってきた。
エレベーターが着くと、誰も乗っていなかった為、二人は一緒に乗り込んで下りていった。
1階に着いてエントランスに出ると、美紀と出会った。
「あら、ご夫婦でお出かけ?仲がいいわね。」
美紀が、声をかけてきた。
由紀子と話してるが、チラチラと俊樹の表情を楽しんでいる。
「あら、いやだ。そんなんじゃないわよ、コンビニに行くだけよ。美紀さんこそ、お出かけ?」
「ええ、ちょっと映画でも観ようかと思って。」
俊樹の顔をチラッと見る。
「いいわね、ご主人が単身赴任だからってほどほどにね。」
「なに勘違いしてるのよ、こっちこそそんなんじゃないわよ。」
俊樹は、ドキドキしながら、美紀が変な事を言わないかと、二人の会話を聞いている。
由紀子は、疑う様子もなく、
「この人も、さっき映画から帰ってきた所なのよ。会社の人と行って、私はお留守番。」
少し不満げに横にいる俊樹を指差した。
「あら、そうなのね。ご主人、会社の人って本当かしら。」
美紀が冗談っぽく言った。
「ほ、本当ですよ。」
由紀子の手前、強く否定する。
「大丈夫よ、この人に浮気なんて出来ないから。」
由紀子も、はなから疑う素振りもなく言うと、
「はいはい、ごちそうさま。じゃあ、行ってらっしゃい。」
美紀も呆れた様子で二人を見送った。
俊樹は、生きた心地がしなかったが、なんとか何事も無くすんで胸を撫で下ろした。
美紀と別れ間際に、由紀子と美紀が軽くウインクを交わした事など気付くはずも無かった。
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