俊樹の不安そうな表情を見て、由紀子が、
「あなた、なにが隅っこで大人しくしてたよ。澤村さんに聞いたわよ。」
怒りの感じではなく、楽しそうに話してくる。
「え、あ、い、いや…。」
俊樹は、狼狽えて言葉が出てこない。
「懇親会、盛り上がったんだってね。」
『美紀さんは、どこまで喋ったんだろう。』
「え、あ、まあ。」
どこまで言っていいかわからずに曖昧な返事になる。
「今度、また、ご主人にお願いしたいわって頼まれちゃったわよ。あなたが、そんなに役員の奥さん達を盛り上げたなんて信じられないわ。」
由紀子の笑顔を見て、バラされてはないんだという事がわかり、
「ま、まあ、由紀子の代役だからさ、俺なりに頑張ったんだよ。」
自慢げに話した。
バラされてないとわかり、少し余裕が出てくる。
「あのさ、夕方、ちょっと出掛けたいんだけど。由紀子の帰りが夜になると思って、約束しちゃってさ。」
「あら、どこに行くの?」
「え、あ、映画に。」
「まあ、久しぶりに私も一緒に行こうかしら。」
「あ、ああ、だけどホラーものだから、それに会社の同僚と一緒だし。ちょっと仕事の話もあってね。」
「な~んだ。私、ホラーは嫌だし、仕事の話しがあるんだったら遠慮しとくわ。」
由紀子は、気にする素振りもなく、
「じゃあ、夕飯も済ませてくるわね。」
「う、うん、ごめんね。今度、一緒に映画観ようね。」
「無理しなくてもいいわよ。遅くなる様だったら、先に休ませてもらうわね。」
「あ、ああ、いいよ。先に寝てて。」
俊樹は、後ろめたい気持ちになりながら、心の中で両手を合わせた。
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