「こっちを向いて。」
俊樹は、役員達が構える一人ひとりのスマホに視線を送らなければならなかった。
一通り撮影が終わると、その様子を見ていた美紀が、
「さあ、では、土下座して謝って貰おうかしら、真田さん。」
俊樹は、美紀に言われた通りに、その場で正座して両手を床につけ、
「この度は、皆さんを不安がらせて申し訳ございませんでした。」
そう言って額を床につけた。
俊樹の後ろに立っていた美紀が、
「皆さん、今回の事はこれで大目に見るという事でいかがでしょうか。正体がわからないという不安は無くなった訳ですから。ただ、こういう性癖は治り難いですから、また真田さんが変質行為を行わないように、ここに居る皆さんで協力してあげましょう。」
と、役員達に向かって言った。
「私達で協力って、何をすればいいの。」
役員の中から、質問が出る。
「こういうのは、押さえつけるだけでは駄目だと思うの。溜まりに溜まって、それが爆発したら大変でしょ。たまに抜いてあげないと、私達の知らない所で爆発したら、マンションの恥にもなりますからね。ひとりでは、絶対にさせない様に、私達の誰かが監視するという事が協力になるんですよ。」
美紀が、役員達を諭す様に話す。
「そう言われたらそうだわね、もし捕まったりしたら、マンションの名前もわかっちゃうし、直ぐにSNSで拡散されちゃうしね。」
一番興味を示していた舞原が、美紀の言葉に同調する。
「そうかと言って、真田さんをマンションから追い出す訳にもいかないし、奥さんいい人だから。」
米倉も納得した様子。
由紀子の話が出たので、
「あっ、他の住人の方にはもちろんですが、由紀子さんにも黙っててくださいね、私だったら、旦那がこんな事したら、ショックで立ち直れないわ。いいですね。」
美紀が、念を押すように言った。
額を床に付けたままで、美紀と役員達の会話を聞いていた俊樹に、
『大変な事になってしまった。由紀子にはバレませんように。』
と不安な気持ちになるのと、
『これから、何をされるんだろう。』
という期待の様な胸の高鳴りが同時に押し寄せていた。
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