「あっ、戻って来るわ。」
真由美は、慌ててエントランスの方に戻り、再び非常口の陰に隠れて様子を覗った。
由紀子は、マンションに戻って来ると、さりげなく非常口の方に目をやり、
「ふふふ、まだ居るわね。」
真由美には気付かれない様に存在を確認して、エレベーターに乗り込んだ。
エレベーターの扉が閉まると、真由美もエレベーターまで近寄り、ボタンを押した。
エレベーターが降りて来るまで、真由美は色々と想いを巡らせていた。
「ああ、私も、ご主人の様にあんな事されたら…。」
想いに浸りながらふと見上げると、エレベーターのランプは由紀子の階の6階を過ぎてまだ上がって行く。
「あれ、6階で降りなかったんだろうか?」
エレベーターはそのまま『R』まで上がった後下りて来た。
「屋上まで行ったのかしら?」
真由美は、エレベーターに乗ると、自分の階の『7』ではなくて『R』のボタンを押していた。
由紀子は、エレベーターを降りた後、しばらくエレベーターのランプを眺めていた。
真由美が乗っている事は確信していたが、何処で止まるか確認したかった。
ランプが『7』を過ぎるのを見て、
「来るわね、ふふふ。あなた、お出迎えしてあげるわよ。」
由紀子は、リードをグイッと引いて自分の足元に俊樹を引き寄せた。
チ~ン
エレベーターの扉が開き、真由美の目の前が開けた。
誰も見えなかったので、真由美は恐る恐るエレベーターを降りた。
「真由美さん!」
「ひゃぁ!」
視界の外から声がして、慌てて声のする方を向くと、由紀子が立っていた。視線を下げると、四つん這いの俊樹とも目が合った。
「どうしたの?こんな時間に。」
狼狽える真由美に、自分達が屋上にいる事は棚に上げ、由紀子が尋ねる。
「そ、それは…。」
由紀子達が気になって、とは言えず、真由美は言葉を詰まらせる。
「それに、その格好。よく似合ってるわよ。」
「いやっ!」
真由美は、由紀子に言われて自分の格好をはっと気付かされ、慌ててワンピースの裾を押さえた。
「真由美さんが見てたの分かってたわよ。」
「えっ、…。」
真由美は、恥ずかしそうに俯いたままだった。
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