由紀子は、背後で何かが動いたのに気付いた。
「誰かが見てるわ。」
体を振り向かせる事なく、しばらく背中で様子を見てみる事にした。
俊樹の方に目を向けると、キョロキョロしながらも自販機の前でじっとしている。
「こんな時間に誰も来ないわよ。でも、それが興奮するのよね、あなた、放置される気分はどうかしら。」
由紀子は、独り言を言いながら俊樹を見ていた。
背中の人物は近寄って来る様子はなく、自然な素振りでチラッと振り向いて見ると、明るい中の様子がよく見えた。
「あらっ、真由美さん?」
由紀子は、こちらを見ているのが真由美だとわかり気持ちに余裕が出来た。
真由美の方は、由紀子が気付いた事はまだ気付いていないみたいだ。
「ふふふ、それなら真由美さんにもいいもの見せてあげるわよ。」
由紀子は、何か思い付いた様に俊樹の方に歩いて行く。
「何処に行くのかしら?」
真由美は、由紀子が外の方に出て行ったのが気になりそっと裏口へ近寄って行き、先程まで由紀子がいた場所まで来て外の様子を覗った。
「まあ、あれはご主人、それも…。」
先程、俊樹の家で見た格好のままの俊樹が、外に出ているではないか。
真由美の鼓動が激しく動き始めた。
由紀子が近寄って来るのを見て俊樹は、心細く不安な気持ちから解放されていくのを感じた。
「どうだった?興奮したの?」
由紀子が、俊樹に問いかける。
「い、いえ、もし誰か来たらって思うとドキドキで。」
「それがいいんでしょ。だって、ここが。ふふふ。」
由紀子が、微笑みながら俊樹の股間を手の平で摩った。
「ああっ、そ、そこは…。」
口とは反対の反応が由紀子の手の平に返って来る。
「ふふふ、まあいいわ。じゃあ、次に行きましょうか。その前に、喉が渇いたでしょ。」
由紀子は、自販機でペットボトルの水を買った。
「これ飲んで。」
「え、ここで?」
「そうよ。」
「わ、わかりました。」
俊樹は、仕方なく渡された水を飲み干した。
「さあ、行くわよ。」
由紀子は、リードを持ちマンションに向かって歩き始めた。
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