その翌日の三月三十一日、私は七時に起床しました。
動きやすいように黒地のTシャツとジーパンを身に着けて食事の支度を始めました。
朝食が整ったので御主人さまにLINEでお知らせしました。
御主人さまは昨晩は夜更かしをしたのでしょうか、三十分経っても動きがなかったので二階のお部屋に行ってみました。
「御主人さま、おはようございます、ご朝食ができました」
ドアを軽くノックしてみましたがやはり反応がありません。
「失礼します」と言って私は静かにドアを開けてみました。
テーブルや床には食べ散らかしたお菓子や飲み物が散乱し、使用済みのティッシュも丸められて散在していました。
成人用DVDのケースも何枚も出されてありました。
御主人さまはベッドで全裸で大の字になって眠っていました。
布団がはだけられていたので、瞬間的にですが御主人さまのアソコが視線の先に入ってしまいました。
「すみません」
小声で口走ってすぐにドアを閉めましたが私の心臓は興奮でバクバクと高鳴っていました。
見てはいけないものを見てしまったという罪悪感。
その様子を御主人さまに気づかれてしまったのではないか、何か言われてしまうのではないかという不安感。
一方、お恥ずかしい話ですが、御主人さまのたくましい肉体に対して妖しい疼きを感じてしまったことも事実です。。
部屋の様子からすると御主人さまは昨晩は夜更けまで何度も自慰をしていたと思われます。
にもかかわらず今朝はもうあんなにたくましい体に回復していることに魅力を感じてしまい、女としての疼きをおぼえてしまったのです。
階下に下りると私はそんなイヤらしい感情を振り払うかのようにすぐに洗濯を始めました。
御主人さまが上下スウェット姿で下りてきたのは昨日と同様、やはり十時過ぎでした。
ココアと簡単な朝食をお出ししました。
「食べ終わったら髪を切ってくれないか」
御主人さま食べながらボソッと呟くように言いました。
「え? 私が御主人さまの髪を、ですか?」
私は他の人の髪どころか自分自身の髪も後ろでまとめて縛るだけで切りそろえるなどということはしたことがありません。
「お好みに合わせられるかどうか自信がないのですが……」
私が不安げに言うと、
「俺が指示するからその通りやればいいんだよ」
と声を荒げて不機嫌そうな表情で言いました。
「わ、わかりました」
もちろん単なる使用人に過ぎない私には御主人さまの命令に逆らうことなどできません。
食事を終えると御主人さまと私は庭に出ました。
小高い丘の上にある邸宅の敷地内には広い庭があり、そこからは周囲の森や下の方に広がる住宅街、遠方にある太平洋を一望することができるのです。
春先の暖かい日でした。
上半身裸になった御主人さまの髪を私は緊張しながらも指示に沿って丁寧に切りそろえていきました。
かつてバスケ部で鍛えたというたくましい上半身が私の目の前にあり、髪を切りながらもその白く綺麗な肌に見とれていました。そこに切り落とした髪の毛が次々に落ちていきました。
「もういいだろう」
一時間ほどして御主人さまは満足そうな表情で立ち上がり、肩や腕や体ついた髪の毛を手で振り払いました。
私はホッと安堵のため息をつきました。
「シャワーを浴びるからタオルと着替えを出しておいてくれ」
体についた髪の毛を払うと御主人さまは浴室へ行きました。
御主人さまがシャワーを浴びて再び二階へ上がると私は洗濯や掃除の続きを始めました。
昼食についてLINEすると「いらない」との返事でした。
「お掃除は?」と聞くと「いつでも」との返事でしたので、一時半頃に御主人さまの部屋に掃除をしに行きました。
「失礼します、お部屋のお掃除をしに来ました」
御主人さまはベッドに寝転がって漫画を読んでいました。
表紙がチラッと見えたのですが、例によって成人用のエッチな漫画でした。
「掃除の前にここへ来て俺の耳掃除をしてくれ」
御主人さまの命令です。
私は「はい」と言うしかありませんでした。
もちろん私は他人の耳掃除などしたことはありません。
御主人さまのベッドに腰かけた私の太ももの上に御主人さまは頭を乗せました。
私はジーパンを履いていましたので御主人さまの頭部がほぼ直接に太ももに乗るかたちになります。
髪を切ったときと同様、御主人さまの指示に沿って緊張しながら彼の耳掃除を進めました。
御主人さまはずっと黙ったまま私に耳掃除をさせていました。
最初に右側の耳、つぎに左側の耳を掃除したのですが、そのとき御主人さまの顔が私の太ももの上で私の下腹部の方を向いたので少なからず困惑しました。
思春期の男の子の顔が私の下腹部にほぼ接しているのです。
御主人さまが何を考えているのか私には図りかねました。
単なる使用人または単なる道ばたの石ころと思っているのか。
小さい頃に亡くなった母親の面影を感じているのか。
それだったらいいのですが、もしかして性的な欲望を疼かせているのでは思うと私は気が気ではありませんでした。
ベッドの周りには成人用の漫画や雑誌、DVDが散乱しているのです。
それは思春期の男の子の性的欲望の現れにほかなりません。
脱ぎ散らかし食べ散らかし飲み散らかしたものに混ざって、彼の体液を包み込んだ使用済みティッシュがそこらじゅうに放り投げられてあるのです。
そんな中、私は御主人さまに膝枕をしながらの耳掃除を命じられているのです。
私は近いうちに御主人さまの性的欲望の対象にされるかもしれないと思いました。
そうなったら私はどうすればいいのでしょうか?
社長さんは海外出張中ですぐには帰国できません。といって他に相談できる人もいません。
御主人さまの意に背けば解雇されてしまいます。
ですから私は御主人さまの言いなりになるしかないのです。
身寄りも知人もなく多額の借金を抱えて住むところもない私には御主人さまの要求にはどんなことでも素直に応じる以外になすすべがないのです。
もしするとこれまでの家政婦さんも同じような目に会ってきたのかもしれません。
「もういい」
御主人さまの言葉で私は耳掃除をやめました。
私はベッドから立ち上がろうとしましたが、御主人さまは頭を私の太ももの上に乗せたまま起き上がろうとしません。
顔は相変わらず私の下腹部に向けて密着させたままです。
「あの、御主人さま、お部屋のお掃除をしたいのですが……」
私は内心少し焦りながらそう言いました。
御主人さまが私の太もものつけ根、ファスナーのある部分にお顔をこすりつけながら深く鼻で息を吸っているのです。
私の何かを確認するような感じで匂いを嗅いでいるように見えました。
「お願いです、やめてください」
私は反射的に御主人さまのお顔を両手でよけるとベッドから下りて立ち上がってしまいました。
「ごめんなさい」
私は不服そうな表情で見上げる御主人さまに謝りました。
怖かったのと恥ずかしかったのとで私は震えていました。
「別にいいよ」
御主人さまは低い声でそう呟くとまたベッドに寝転がって成人漫画を読み始めました。
「すみません」小声で言って私は部屋の掃除を始めました。
昨日と違うのは、私が部屋の片づけや掃除をしている間、御主人さまがそこにいるということでした。
食べ物類の片づけはよいのですが、ティッシュの片づけやDVDや大人のオモチャを片づけるときに御主人さまがそれを見ていると思うと私の中で羞恥心が湧きおこってくるのです。
「あの、これ洗ってきてもいいでしょうか?」
女性用のオモチャを手にしながら恥ずかしさを忍んで私は御主人さまに尋ねました。
御主人さまは私の手にしたものを一瞥しただけでそれには答えてくれませんでした。
「洗ってきます」そう言って部屋を出ました。
昨日と同様、浴室で丁寧に洗浄してドライヤーで乾かした後、御主人さまの部屋に戻りました。
「こちらに置いておきますね」
私はもっていた大人のオモチャをテーブルの上に並べました。
その頃には少し恥ずかしさは薄らいでいました。
「失礼します」私は部屋を出て階下の自室に戻りました。
やはり私は近いうちに御主人さまの性的欲望の対象にされるに違いないと思うようになっていました。
今の私は御主人さまの言いなりになるしかありません。
そして私は御主人さまが私に性的なことを要求してくるのならばそれでも仕方がないと思うようになっていました。
それを強く拒否する気持ちが薄らいでしまっているのです。
いや、正直なところを言えば、むしろそうなってほしいという気持ちもあるような気もします。
御主人さまに必要とされるようになれば解雇される心配はなくなります。
御主人さまにいつまでもこの家にいてほしいと思われるようになればずっと高い給料を頂けるのです。
そればかりではありません。
恥ずかしい告白になりますが、離婚するだいぶ以前から夫婦の営みはまったくありませんでした。
夫は成人用玩具で欲望を満たしていたようでしたが私にはそれもできず悶々とする夜も少なくありませんでした。
御主人さまの性的な欲望の対象にされたとしても強く拒否する気持ちが湧かないのはおそらくそのせいだろうと思います。
二十八歳の私の体はどこかで男性の肉体を求めているのだと思います。それはいけないことでしょうか。
御主人さまのお部屋にあった女性用のオモチャを洗いながら、恥ずかしい話ですが私は下半身を濡らしてしまっていました。
使ったことのない道具ですがおそらくステキな気持ちにさせてくれるのだろうと思います。
御主人さまがご自身の体に対してどのように使っているのかも気になるところですが……。
いろいろと考えながら自室でお茶を飲んでいると、いつの間に下りてきていたのでしょう、御主人さまが音もなく和室の襖を開けて顔を出しました。
あまりの驚きで私はビクンッと体を震わせてしまいました。
「あ、あの……お願いですから襖を開ける前にひとことお声がけをお願いできませんか、ビックリして心臓が止まりそうになってしまいますので」
御主人さまはそれには答えず「運動不足なんだ、柔軟運動するのを手伝ってくれ」と言って和室に入ってきました。
自室で着替えてきたようで、薄手のTシャツにトレパン姿になっていました。
私が座布団を何枚か畳の上に敷くと御主人さまがその上に足を伸ばして座りました。
上半身を前に倒したり上半身を左右に捩ったり、頭と肩だけを座布団に乗せて腰に手を当てて両足を上げて頭の方へ向かって足を倒したり、御主人さまの指示に沿って私も彼の柔軟運動の手助けをしました。
御主人さまの意図はやはりわかりません。
単なる使用人という扱いではなさそうです。
いろいろと要求してみて私がどこまでそれに従うかを試しているようにも見えます。
あるいは私に好意を抱いていて私と一緒にいる時間を増やそうとしているかにも見えます。
御主人さまとはいえ、中学を卒業したばかりの思春期ざかりの十五歳の男の子です。
純情な真心から性的欲望の渦巻く下心までさまざまな感情が頻繁に移り変わっているのでしょう。
「オッケー、だいぶほぐれた」三十分後、御主人さまはそう言って体を起こしました。
柔軟体操をしている最中、御主人さまに不機嫌そうな表情は見られませんでした。それが私に安心感を与えました。
私には御主人さまの感情を損なうことだけが何よりも気になるのです。
「絢子、肩揉んでやるよ」
御主人さまが突然そう言って私の背後に回りました。
「あ、いや、大丈夫です、そんな気を使ってくれなくても」
私はそう言って断りましたが、御主人さまの両手は私の両肩に置かれていました。
私の意を汲む気は全くないようです。
確かに少し肩は凝っていましたが、そんなことをさせては申し訳ないという気持ちと御主人さまに私自身の体をさわられるのが恥ずかしいという両方の気持ちが私にはありました。
御主人さまは強弱を使い分けて私の肩から肩甲骨のあたりまでを入念に揉みほぐしてくれました。
「ありがとうございます」
十分くらいして私は御主人さまにお礼を言いました。
もう終わりにしてくださいという意味だったのですが、御主人さまはなおも私の二の腕や首筋あたりに手を這わせていました。その手つきはとても優しくくすぐったいような感覚でした。
母親の面影をしのんでの行為ではないと思います。
やはり性的な欲望の現れなのだと思います。
私の体にふれるその手つきや力の入れ具合で私には何となくわかりました。
すると私の中に急に不安感と恐怖心が湧いてきました。
私に好意をもって優しく触れようとしているのか、支配者として道ばたの石ころをもてあそぼうとしているのか。
「あの……もうそろそろ夕飯の支度を始めますので」
御主人さまの手が背後から私の前に回されて私の首筋から少し下に下りかけたところで、私は御主人さまの両手をつかんでその手を自分の体から優しく離しました。
御主人さまのお顔は赤くぼうっとなっていました。
トレパンの一部が固く盛り上がっているのが目に入りました。
私は「ありがとうございました」とだけ言ってキッチンへと向かい、食事の支度を始めました。
御主人さまはそのまま私の部屋で眠ってしまったようでした。
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