テントの外は、もうすっかり暗くなっていました。
夫は片手に手提げのカンテラを持ち、反対の手で私の髪の毛を引っ張ります。
私は全裸、裸足でテントの外を引き回されました。
普段靴と靴下を履いて守られていた私の足の裏は、小石や硬い草の茎を踏みつけて、これも激しい痛みを覚えました。
しかし、それより私が恐かったのは、夫が私を何処に連れていくのか、そして連れて行った先で、私をどうするのかでした。
夫はテントを張った空き地から、木が疎らに生えている雑木林の中へと私を引っ張って行きました。
カンテラの灯りが届かない林の奥は真っ暗で、そこには何があるのか、何がいるのか分かりません。
僅かに木々の間から、空に細い月が見えました。
暗闇も恐かったけど、本当に私が恐かったのは、もしかしたら夫は、私を林の奥の方に連れて行き、そこであのナイフで..と言う事でした。
最初は、まさか..と思う気持ちが強かったのですが、次第に、今日の夫は普段とは違う、気が狂ったかも..これはもしかしたら..と言う考えが強くなりました。
「私を、私をどうするの?」
恐ろしさに耐えきれず、私は夫に聞きました。
しかし夫は、無言のまま私の髪の毛を引っ張ります。
「ごめんなさい!赦して!
私が悪かったら、謝るから!」
私は普段のプライドを捨てて言いました。
しかし夫は、
「謝る?
そんな気持ちは無いくせに!」
と吐き捨てるように言うと、そのまま私をどんどん引っ張って行きました。
テントからどのくらい離れたのか分かりません。
やっと夫が止まったのは、周囲を葉が繁った立木に囲まれた空き地でした。
その中央に、かなり太く高い木が一本立っています。
夫は私を、草や落ち葉で覆われた地面に、うつ伏せに押し倒しました。
ここで、夫が私を犯したら、それで気が済んで終わるかもしれない..。
私はそうも考えました。
しかし、私の考えは外れました。
夫は、私の両手を背中で縛っている革の手錠に何がしていました。
やがて、
「さあ、立て!」
と言われ、背中で縛られた手首を引っ張られました。
よろよろと立ったその時に、私は初めて、夫が私に嵌めた手錠と、空き地の中央に立つ太い木が、細いけど丈夫な縄で結びつけられているのに気がついたんです。
縄の長さは3メートル程でしょうか。
しかし木に結びつけられている位置が高いので、そんなに木から離れられません。
逃げられない..。
いよいよ、ここで私は...。
最悪の予想が頭の中をよぎりました。
ナイフかしら..?
首を切られる?
それとも胸を刺される?
しかし夫は、ナイフを腰のベルトに差したまま、抜こうとはしませんでした。
代わりに手に取ったのが、長さ1メートル位の別の縄です。
首を..、絞められるんだわ..。
夫は直ぐには絞めませんでした。
その前に、その縄を鞭代わりにして、裸の私を何度も打ちました。
立っていると全身を打たれるので、私は地面にしゃがみこみました。
そんな私の肩、背中、腕、脇腹等に夫の縄が当たります。
顔を打たれなかったのは幸いでしたが、直ぐに夫は私の髪の毛を掴むと、上体を起こさせ顔を上げさせました。
そして私は、髪の毛を掴まれたままで、胸やお腹、太股等も打たれました。
散々打った後、夫はその縄を私の首に回しました。
いよいよなんだわ..。
やっぱり私..、ここで死ぬの..?
打たれている間は、たまらない恐怖に襲われていたけど、夫から首に縄を巻かれると、不思議な事に、私は落ち着いてきたような気がしました。
私が夫を軽く見てきた、いえバカにしてきた報いなんだ、と自然に思えてしまいました。
これが、諦めと言うものなんでしょうか。
目の前に迫る夫の顔が、まるでテレビ画面に写った画像を見るような感じに、リアルではないように見えました。
夫は、私が泣きわめかなくなったのが不満な様子でした。
私の顔を覗き込むようにしながら、
「恐いか?」
と聞きました。
私は自分でも良く意識せずに、落ち着いた声で
「恐いわ..。
でも、もう終わりなんでしょ..」
と言いました。
私の首に回された縄に、夫が力を込めます。
心は諦めたとは言え、身体は本能的に恐怖を感じていたようです。
首に加わる力が強くなると、急に下半身に温かいものを感じました。
私は、失禁してしまったんです。
意識を失ってからではありません。
意識はまだしっかりありました。
でも心の隅で、夫の前でおしっこ漏らすなんて屈辱よね、と言ってる自分と、もうそんな事どうだって良いのよ、と言ってる自分がいるような気がしました。
やはり平常な精神状態とは違っていたんだと思います。
縄はぐぐっと少しづつ私の首に食い込んできました。
早く、早く気を失いたい..。
あまり苦しむ前に...。
ところが夫は、途中から縄にかける力を抜いてしまい、手を放してしまったんです。
私は顔を伏せて息をしました。
けほっ、けほっ、とおかしな咳が出ましたが、呼吸は直ぐに普通に戻りました。
それからやっと、助かったの?と言う考えが浮かびましたが、やはり夫はそれでは澄ませてくれなかったのです。
「お前、まだまだ恐がらせてやるからな。」
夫はそう言うと、近くの木の枝に吊るしていたカンテラを手に取りました。
「これから俺はテントに帰る。
お前は朝までここに縛っておくから。
眠っても良いけど、何が来るか分からないからな。」
そう言うと、夫はカンテラを持って去って行きました。
夫の持つカンテラの灯りが遠ざかります。
私は、とりあえず助かったんだ..と言う安心感にしばらくは浸っていました。
目を閉じて、ほっとしていたんです。
何分たったのか分かりませんが、私は目を開けました。
何も、見えないんです。
一瞬、自分の目がおかしくなったのかと思いました。
瞬きしたり、もう一度目を閉じて、また開けてみたりしました。
そしてしばらくしてやっと、そこはごく僅かな星明かりしか光は無いことに気がついたんです。
上を見上げたら、星は見えました。
しかし、さっき見えていた細い月は見えなくなっていました。
目を空から地上に向けると、もう真っ暗で何も見えません。
しばらくして、かろうじて私の周囲を取り巻く立木のシルエットが分かる程度になりました。
直接命が奪われるのとはまた違った恐ろしさに、私は気がつきました。
全くの自然の中で、私は全裸。
しかも、後ろ手に縛られて逃げられない。
夫も野生動物とか言ってました。
もし、襲って来られたら..。
私はその後、夫の奴隷となって、野外露出などもさせられしたが、他人様から見つけられて襲われる、犯されるような危険も経験していますが、この時の恐怖はそんな人間相手の恐ろしさとは全く別物でした。
笑われるかもしれませんが、実体のある野外動物も恐ろしかったけど、これまでバカにしていた怪談や山の妖怪等の話も頭の中に浮かんできました。
山の中で遭難して亡くなった人、山の中で男から襲われて純潔を奪われ、恨みを呑んで亡くなった女の人、様々な恐怖が私を包んでいるような恐ろしさに、私は泣きました。
静寂に耐えきれず、大きな声を出して、去って行った夫を呼びました。
「あなたー!あなたー!助けてー!」
「ごめんなさいー!
何でもしますー!何をされても良いですからー!
私を助けてー!」
一度声を上げてしまったら、それからは静寂が恐くて、叫び続けました。
夫に聞こえてるのか分からないのに、夫に気に入られるかもしれないと思い付いた事を、それが普通ならとても口に出せないような恥ずかしい変態な事でも、何でも叫びました。
「私、家では真っ裸で貴方にサービスするわ!」
「裸で土下座します!頭を土足で踏んで下さい!」
「ストリップもします!裸で踊れと言われたら踊ります!」
「お口で、ちゃんとしますから!
飲めと言われたら、ちゃんと飲みますから!」
「身体中に、貴方のおしっこ掛けて良いです!
おしっこを飲めと言われたら、飲みます!」
「下着着けなくて、貴方とデートするから!
車の中で裸でドライブでも良いわ!」
とても正気では言えない事を、もう声の限りに叫んだんです。
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