由紀子「あ、ジュース飲んでるわよ。あんな場所で飲むなんて、どんな神経してるんでしょうね。」
『それは、貴女のご主人ですよ』
美紀は、思わず口から出そうになるのを飲み込んだ。
由紀子「あ、こっち向いた。キョロキョロしてるわ。あ~あ、マスクしてるみたい。やっぱり、顔はわからないわ。」
美紀「由紀子さん、目を離さないでね。」
美紀は、由紀子と同じ光景を見ながら、由紀子に言った。
コーラの500mlなんて、この歳になって一気に飲むとは思ってなかった。若い頃と違い苦戦する。車が入ってこないか、人が歩いて来ないか、もう随分長い時間ここに居る。
誰にも会わないのが、奇跡と言っても良いかもしれない。
ようやくコーラの500mlを飲み終えると、ゲップが込み上げる。
瞳に向かって、空になったペットボトルを見せて、
「の、飲みました。」
「そうね、じゃあ、最後の指令ね、出そうなの?」
「い、いや、まだ。」
「そこで、格好してりゃ、したくなってくるわよ。さあ、四つん這いになりなさい。」
「ああ、は、はい。」
由紀子「あら、全部飲んだみたいよ。ペットボトルを振り回してるわ、誰かに見せてるのかしらね。えっ、あっああ。」
美紀「ど、どうしたの?」
由紀子が、急に、大声を上げたので、何事かと思い
由紀子「で、電柱に、片足上げて、ああ、お、おしっこしてる。嫌だわ。美紀さん、主人はまだ電話してるの?早く、行って捕まえて。」
美紀「そ、そうね。女一人では不安だから、ご主人が電話終わるの待たないと、私も怖いわ。」
由紀子「そ、そうよね。主人ったら、こんな時に。」
おしっこをし始めると、なかなか止まらない。
ジョー、ジョー、ジョー
『ああ、早く止まってくれ』
願いも虚しく、どんどん出てくる。
『こんなに飲んでないのにな』
片足を上げるのも疲れてきた。
「こちらからも良く見えるわよ。」
瞳が揶揄う。
由紀子「凄いわ、まだまだ出てる。」
美紀「ようやく、ご主人の電話終わったわ。今から、向かうわね。」
由紀子「本当、なるべく早くね。」
美紀が向かってると聞いて、『早く』と思いながら、男を見ていると、
由紀子「ああ、終わったみたい。マンションに向かっているわ。」
美紀「まだ、もう少し、エレベーターがなかなか来なくて。」
ようやく、おしっこを終えると急いで美紀達の元に戻って来た。
由紀子「どうだった。こっちからは見えなくなったけど。」
美紀「残念、見逃してしまったわ。」
由紀子「そうなの。」
ガッカリしたのが電話越にもわかった。
「よかったわね、誰にも見られなくて。」
瞳が言うと、
「そうね、うふふふ。」
由紀子との電話を切った美紀が、意味ありげに微笑んだ。
『今、由紀子の声がした様な』
そんな事、有るはずないなと思い直し、美紀の部屋に戻って来た。
「お疲れ様。由紀子さんにも謝っておいてね。いつも付き合わせちゃって。」
美紀の言葉に何の不審も抱かなかった。
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