ピンポ~ン
「来たわよ。黒川さん、毅然とした態度でいきましょうね。」
「え、ええ。」
瞳は緊張からか、顔がこわばっている。
瞳が玄関に向かい、ドアを開けると、スーツ姿の俊樹に少し驚く。
「まあ、そんなに畏まらなくてもよかったのに、ふふ。」
「ち、違うんです。由紀子に仕事のトラブルって言って出て来たもんで。」
「そうなの、でも、その格好の方が反省するにはいいかもね。で、言いつけはちゃんと守ってるでしょうね。」
俊樹の下半身に目をやる。
「は、はい。」
恥ずかしそうに目をそらす。
「あんまりここで話してると、黒川さんが変に思うから、上がって。」
「ああ、やっぱり、黒川さんいるんですね。」
現実を突きつけられて気が重くなりながら、瞳の待つリビングへと入って行った。
スーツ姿の俊樹がリビングに入ってきて、瞳は少し驚きながらも、
「あ、こ、こんにちは。」
目の前のきちっとした男と昨夜の変質者がどうしても結びつかない。
「こ、こんにちは。」
俊樹は、なんで呼ばれたのか知らないふりをしなければならなく、恐る恐るといった感じで挨拶を返した。
「さあさ、ここに座ってください。」
美紀が、仕切るように俊樹を瞳の向かいに座らせ、自分は瞳の隣に座った。
瞳は俊樹と目が合わせられない。
「今日、真田さんに来てもらったのはね。」
美紀が話し始める。
「昨夜ね、黒川さんが見たって言うのよ。」
「えっ、み、見たって何を。」
「黒川さん、言ってあげて。」
「え、あ、あの~、へ、変質者を。」
無意識に不審者とは言わずに変質者という表現になっていた。
「へ、変質者ですか…。由紀子から不審者が出るってのは聞いていたんですが。」
瞳に見られていたのは知らない事になっているので、相談に乗るような感じで話しを聞いている。
「私も、びっくりしてね。ちょうど昨夜は見回って無かったから。」
美紀も知らないふりを演じる。
「本題はここからなの。黒川さん、その変質者の顔も見たんですって、ねぇ。」
美紀が瞳の方を見る。
「え、ええ。」
相変わらず、瞳は俯き加減で、俊樹と目を合わせない。
「ほ、本当ですか。」
俊樹は驚いてみせる。
「あら、真田さん、誰だか気にならないんですか?真っ先に誰だか興味があると思いますけど。」
美紀が皮肉っぽい言い回しをすると、
「い、いや、き、気になりますよ。だ、誰なんですか?」
体が熱くなってくる。
「ほら、黒川さん、言ってしまいなさい。」
美紀がけしかける。
「さ、真田さん…です。」
瞳が小さな声で応えた。
※元投稿はこちら >>