ピンポ~ン
「は~い」
美紀が玄関を開けると、瞳が立っていた。
「入って。」
「お邪魔します。」
リビングへ瞳を通すと、お茶を出しながら、
「ご主人、放ったらかして大丈夫だった?」
「朝から、仕事に行ったわよ。休みだっていうのにね。」
少し呆れ気味に瞳が応える。
「いいじゃないの、亭主元気で留守がいいって言うじゃない。私のところも単身赴任で気が楽よ。月一で帰って来た時なんか緊張しちゃったりして。あははは。」
和やかな感じで、奥様同士の井戸端会議が始まった。
「それでね、不審者のこと。」
瞳が話しを切り出すと、
「真田さんのご主人だって、ちょっと信じられないけど。」
美紀がわざとらしく、驚いた感じで言うと、
「そうなのよ、私も最初はよくわからなかったの、顔も見えなかったし、顔を上げた時はびっくりしたわよ。あの真田さんって。」
瞳のトーンも高くなる。
「それで、どんな格好で、何してたの?」
興味津々ぶって美紀が尋ねると、
「あの動画と同じよ。ショーツだけの裸に首輪してるの。それでね、私の向かって、あ、向こうは、私が覗いるなんて知らないけどね。腰を突き出して、見せるのよ、アレを。」
「アレって?」
「やだぁ、アレよ、ち、ん、ぽ…」
おちんちんというよりは、あまりにも立派だったので、ついこの言葉が出てしまった。
女同士でも恥ずかしいらしく、顔が少し赤くなって俯いてしまう。
「ま、まぁ!」
美紀も同じように顔を赤らめる。
『そんな事までしてたなんて』
美紀は非常階段の陰からみていたので、そこまでの行動は把握していなかった。
「それでね、黒川さんから電話もらって考えたんだけど、本人に直接、話しを聞くのがいいかなって思って。」
「えっ、直接って!」
瞳は少し驚く。
「そうよ、マンションの住人に正体をバラすよりは、本人に反省してもらって、今後はしないように諭した方がいいと思って。それに、私、由紀子さんと仲がいいでしょ。由紀子さんの悲しむ顔も見たくないし。」
「由紀子さんって、真田さんの奥さんね。そうね。」
瞳は、由紀子ともすれ違う時に挨拶をする程度なので、それほど思い入れはなかったが、マンションの住人にバラすという事も気が進まなかったので、美紀の言う通りにする事にした。
「じゃあ、ここに、呼びましょうか。」
「えっ、今!」
「そうよ、こういう事は早い方がいいでしょ。」
「で、でも。」
昨日の姿が瞳の頭に浮かぶ。いきなり会うとなると気が引けた。
「大丈夫よ、二人だし。何もしてこないわよ。」
「そ、そうかしら、じゃあ、お願いするわ。」
「ちょっと、待っててね。」
美紀は、リビングに瞳を残し、廊下に出て、メールを打った。
“今から来てくれる”
落ち着かない様子で部屋にいた俊樹にメールが入る。
「ああ。」
深呼吸をして、リビングにいる由紀子に声をかける。
「呼び出しがあったから、行ってくる。」
「帰りはわからないわね。」
心配そうな顔の由紀子に背を向けて、
「うん、ちょっと長引くかもしれない。」
と言って、玄関を出た。
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