四つん這いでいくと言うことが、こんなにも長い距離に感じる物なのか、玄関の前を通るたびに、いつドアが開くかという恐怖と闘いながら進んで行く。
エレベーターの前を通り時も、階の表示に目が行ってしまう。
ひたすら目の前の廊下に視線を落として進んでいくと何事もなく、端までたどり着いた。
時間的にも数分程度だったが、体感時間としては数十分にも感じられた。
「ようやく、半分か。折り返して、今、自分が這ってきた方を振り返る。」
非常階段から見ていて美紀も、
「うまく行けた様ね。さあ、帰ってきなさい。」
内心ドキドキしながら見守っている。
折り返して、再び進み始めると、何事もなく来れた事に少し余裕が出たのか、来る時は視線が1点に集中していたのに対し、帰りは周りを見ながら進んで行く。
玄関の前を通る時も、
『〇〇さんか。』
表札を見たりして。
『もし、ここで、ドアが開いたら。』
と、思うと、行きの恐怖から帰りは興奮へと変わりつつあった。
『黒川さんだ』
黒川瞳の玄関の前では、しばらく止まって、先程の美紀の言葉を頭の中で繰り返していた。
『黒川さんのご主人、いつも帰りが遅いって言ってたから、起きてるわよ。きっと。』
普段、エレベーターで一緒になって挨拶した時の瞳の清楚な姿を思い浮かべる。
『瞳さん、私は、貴女の玄関の前で、こんな恥ずかしい格好をしてる変態です。見てください。』
玄関に向かって腰を突き出す様な格好をする。
「あの人、なにやってるのかしら。」
美紀が、俊樹の行動を遠くから見て、首を傾げてる。
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