朝、出掛ける前に由紀子から聞いた自治会の事が気になり、仕事もあまり手に付かなかった。いつもなら週末は同僚と飲んで帰るところだが、誘いを断って真っ直ぐ家に帰った。
「ただいま~。」
「お帰り~。早かったわね。週末なので遅いかと思ったんだけど、直ぐに食事の用意するわね。」
「う、うん。」
食事をしながら、さりげなく昼間の事を聞いてみる。
「今日、自治会、どんな話だったの。」
「ああ、言ってたでしょ、不審者の話。この前、私に見せてくれた動画をみんなにも見てもらったのよ。私も、初めて見たって顔しておいたけどね。」
特に気にする風でもなく、淡々と話している。
『ああ、マンションの奥様達にも見られたのか。』
「それで、誰だか分かったって話なの。」
ドキドキしながらも平静を装って聞くと、
「ううん、顔が写ってないから。でね、マンションの変な噂がたつのも嫌だから、外には言いふらさないでおきましょうねってなったの。」
「そ、そうなんだ。」
少しホッと胸を撫で下ろしたかと思ったところ、
「あっ、そうだ。」
由紀子が何か思い出した様に、
「あなた、去年のホワイトデーにチョコのお返しって、私にショーツをプレゼントしてくれたでしょ。」
「え、あ、う、うん。」
再び鼓動が速まってくる。
「そ、それがどうかしたの。」
由紀子が首を傾げながら、
「タンスの奥に入れておいたって思ったんだけど、無いのよね。」
不思議そうな顔で聞いてくる。
「こ、こんなの履けないわよって言うから、捨ててしまったよ。ど、どうして急にそんな事聞くんだよ。」
体が熱くなってくる。
「いえね。この前、美紀さんに動画を見せられた時は、驚いて目がそこまで行かなかったんだけどね、今日、あらためてよく見てみると、その動画の男が履いてたショーツがあの時のに似てるなって思って。」
『まずい、何か言い訳を考えないと』
「あ、あれは、由紀子には言わなかったけど、ホワイトデー用に駅ビルで売ってたやつで同じのが沢山あったんだ。他人に見せるもんじゃないし、わからないかなって思って。ご、ごめんね。同じ様に買った人がいたんじゃないかな。」
「道理で、こんなの履く人いるのって感じだったもんね。でも、捨てる事なかったんじゃないの。」
納得した様子で、それ以上の追求は無かった。
「お、俺も、洒落のつもりだったから、あはは。」
ピンポ~ン
「あら、誰かしら?」
「あ、お、俺が出てくるよ。」
来客に救われた感じで、玄関へ向かう。
「はい、はい。」
玄関を開けると、美紀が立っていた。
「こんばんは。」
ニッコリ微笑んで、首輪をちらつかせている。
「あ、ああ、こ、こんばんは。」
由紀子と一緒にいる時に訪ねてくるとは思っていなかったので、少し動揺する。
「どなた。」
俊樹がもどってこないので、気になったのか、由紀子も玄関に来た。
「あら、美紀さん。」
美紀は、咄嗟に首輪を隠し、
「あ、由紀子さん、こんばんは。」
「どうしたの?何か御用かしら。丁度、食事も終わったのよ。上がって。」
「えっ。」
なにも上げなくても、とは思ったが、由紀子につられて美紀も、
「じゃあ、お邪魔させてもらおうかしら。」
と言って、玄関の中へ入ってきた。
「どうぞ、どうぞ。」
由紀子の後に美紀がついて行き、その後に俊樹が続く。
後ろ手に組んだ美紀の手には首輪がぶら下がっていた。
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