…2階…
美紀は、エレベーターの表示を見ながら、リードを離して
「あそこの陰に行ってなさい。」
非常階段への入り口を指差す。
「は、はい。」
咄嗟に体の向きを変えて、非常階段へと急いだ。
この期に及んでも、四つん這いで向かって行く。
チ~ン
背後でエレベーターが1階に着いた音がした。
『あぶない。あぶない。』
胸を撫で下ろした時、話し声が聞こえて来た。
「あ、さ、澤村さん、こ、こんばんは。」
女性のようだ。エレベーターの中の女性も、扉が開いて美紀が立っていたので、戸惑ってる感じが、その声から伝わってきた。
「あら、黒川さん。」
中に誰かが入っている事はわかっていた美紀は落ち着いた様子で、
「ゴミ出しですか?」
瞳が下げているゴミ袋に視線を移す。
「え、ええ、朝は忙しくて。」
自治会のルールでは、ゴミは回収日の朝に出す事になっている。
役員をしている美紀に、嫌な所を見られてしまったという後ろめたさからか、申し訳なさそうに話している。
小言でも言われるのかと思ったら、
「そうよね。主婦の朝は戦争だからね。」
意外にもにこやかに応対して来た美紀に向かって、
「澤村さんも、いつもありがとうございます。見回って頂いてこちらも安心してますよ。」
少しご機嫌とりの様に聞こえたが、
「しっかりとドアを閉めておいてくださいね。」
「はい、では失礼します。」
瞳は、ゴミの回収場に向かって歩いて行った。
美紀は、瞳の後ろ姿を目で追いながら、非常階段の入り口へと近寄り、
「大人しくできたわね。出て来ても良かったのに。黒川さんだったわよ。いつ見ても清楚な感じよね。俊樹さんのこんな姿を見たら腰抜かすわよ。」
「い、いえ、こんな姿を見られるわけには…。」
「そんな事言いながら、ここはどうなってるの。」
美紀がヒールの先で俊樹の股間をつつく。
「あ、ああ。」
気持ちがよくなりかけた時、エントランスのドアが開き、ゴミ出しを終えた瞳が入ってくる。
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