耳にかかる美紀の吐息と共に入ってきた言葉を受け入れるしかなかった。
「は、はい…。」
その後の言葉が出てこない。
少し体が震えながら目線が定まらず俯く俊樹に向かって美紀が追い討ちをかける。
「今度の自治会の集まりの時に、みんなにお知らせしようかしら。由紀子さんも来ると思うし。」
このマンションの自治会は奥様達で構成されている。殆どが専業主婦で、井戸端会議的に集まる機会も多い。それだけにちょっとした事でも直ぐにマンション中に知れ渡ってしまう。
「あ、いや、そ、そんな事されたら、ここに住んで居られなくなってしまいます。由紀子にだってばれてしまうと離婚されかねません。どうか内緒にしてて頂けないでしょうか。」
すがる様な眼差しで見つめられ、美紀は完全に俊樹を堕とす事ができると確信した。
あらためて俊樹の向かいのソファーに腰掛けると背もたれまで深く座り足を組んだ。その瞬間、スカートの奥が俊樹の目に入る。
「私も、自治会の役員という立場上、こういうマンションの風紀を乱す様な事を黙って見過ごす訳にはいかないんですよ。お分かりになります?俊樹さん。」
自分が優位に立っているという事を示す様な口調で俊樹を見つめる。
「そ、そこをなんとか、この通りです。」
テーブルに両手をついて頭を下げる。
ここはひたすら下手に出て謝るしかない、美紀には逆らえないという気持ちになっていた。
目の前で頭を下げる俊樹を優越感に浸って見下ろす美紀の口からは、
「私も由紀子さんを悲しませたくないですからね。どうしようかしらね。」
意味ありげな物言いで更に続ける。
「俊樹さんの態度次第では、内緒にしておいてあげてもいいですよ。」
「ほ、本当ですか。」
テーブルに付けていた頭を上げると、ニッコリと微笑む美紀の顔が目に入る。
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