克介は目指す神社までどうやって行くか思案しているところに、一台の軽四トラックが通り掛かった。
乗っていたのは地元の人らしい40代の男性で、余所者である克介に親切そうにどうしたのかと尋ねてくれた。
克介が神社に行きたいが道が良く分からないとと言うと、
「家に寄って昼食でも食べてくれ。
その後送って行こう。」
と言ってくれた。
このように地元の人の家で食事をご馳走になると、その家の人から興味深い話を聞けたと言う経験が多い。
克介は喜んで招待に応じた。
男は政雄と名乗った。
克介は家で政雄の母と妻にも紹介された。
妻は、これから用事があるから、と簡単な挨拶をしただけだったが、30代なのに幼女のような純朴さと成熟した女性の魅力を感じ、克介は思わず息を飲んだ。
何か自分が求めていた女性像を、そこに見たような気がした。
その女性をもっと近くで見れなかったのが残念だったが、昼食をご馳走になりながら、政雄の母から殿様と一夜妻の話を聞けた。
一夜妻の話は、殿様から虐められても最後には寵愛されて目出度し目出度しとなっている部分が広まっているが、殿様と再会するまでにもっと酷い部分があるらしい。
詳しく聞きたかったが、取り敢えず昼の間に神社に行ってみて、詳しい話はこの家に泊めてもらって夜に聞こうと言うことになった。
克介は政雄の車で神社まで送ってもらったが、帰りは付近の様子を調べながら歩いて戻ることにして、政雄には車で先に帰ってもらった。
出会いの相手を求める絵馬は、神社の横手に納められているのを見つけることができた。
中には昭和の初めころの古い物もあり、その時代にしてはかなり露骨に、
「わがままな私をお仕置きしてくれる強い殿方と結ばれますように。」
「身も心も耐えてくれる女性と結婚させてください。」
等、今で言えばSMが充たされる結婚相手を求めていたのでは?と思われる書き込みが読み取れた。
克介は、自分にもそんな女性をお与えください、と絵馬を奉納したくなってしまった。
絵馬を調べているうちに、急にかなり激しく雪が降りだした。
大雪になりそうな雰囲気だったので、残念だが調査を打ちきり、今晩泊めてもらう筈の政雄の家へと歩いて道を下って行くことにした。
車で来た道だから、轍の跡を見て戻るつもりだったのが、激しく降雪で分からなくなってきた。
これは困ったと思っていた時に、一人の女性の姿が見えた。
先程政雄の家で見た奥さんだった。
「主人から、お客様が迷うといけないから、と言われて迎えに来ました。」
と言ってくれた。
ごく普通の普段着なのに、その姿は克介がドキッとするほど魅力的に思えた。
人妻の色気、と言う低俗な言葉では表せない、もっと次元の高い美しさ貴さなのだが、それをどうしても手に入れたい、と言う欲望を掻き立てさせるような何かがあった。
いや、いけない。
相手は商売女ではない。人妻だ。
変な事を言ったりして、先程からお世話になった夫に知られたら、自分の人間性を疑われてしまう。
克介は、改めて自分にそう言い聞かせるほど、その人妻に魅力を感じてしまい、どうしようもなかった。
女は車ではなく歩きで、克介の先を歩いて道案内をしてくれたが、さらに雪だけだなく風まで強くなった。
山の奥ならともかく、村の中でこんなことは珍しいと女は言い、取り敢えず近くの空き家に避難することを勧めた。
克介に異存はない。
女は道から少し外れた石垣の上にある一軒の家へと克介を案内し、その裏の戸を開けて二人で中に入った。
女は家の中をあちこち動き回り、灯りをつけ、囲炉裏に火を焚いて暖かくしてくれた。
「この家は、親戚の家でしたが、今はもう空き家なんです。私の家で管理していますから、遠慮はいりません。」
そう言うと、囲炉裏の近くに敷物を敷いて克介を座らせた。
天候はますます悪化して、閉めている雨戸に風が激しく当たってるのが聞こえる。
「ご主人が迎えに来てくれるのでは?」
と聞くと、女は
「家の人は、今晩は町で大切な寄り合いがあるから、もう出掛けている筈です。
仕方ないので、今夜はこの家に泊まりましょう。」
と言った。
女は台所らしいところから、鍋や米、味噌まで持ち出してきて、囲炉裏に掛けて味噌味の粥のような物まで作ってくれた。
克介にとっては、暖かい粥より、美しい女性と外から遮断されたこの家の中で、二人きりでいることに身体も心も熱くなってしまった。
克介が食事をする間、女は年寄りから聞いた話と言って、一夜妻のことを話してくれた。
落武者の一夜妻になった娘は、男の子を出産したが、その後敵側から疑いを懸けられて捕まった。
男の子は両親が隠してくれていたが、捕まった娘は敵側から責めを受け、領地の百姓への見せしめに処刑される筈だった。
散々敵側の武将からいたぶられ犯されたあげく、見かねた周りの者が代わってお慈悲を乞うたが叶わず、腰布一枚で縛られて裸馬に乗せられて村中を引き回された。
処刑の方法も、打ち首ではなく磔に決まった。
処刑場で腰布さえ取り上げられて、大の字に磔られた。
敵の武将自らが、先を丸めた棒で娘の股間を突く等の辱しめを加えられ、いよいよ本物の槍で突かれる直前に、駆けつけた寺の僧侶から助けられた。
やがて5年後に殿様から見つけられたが、殿様は娘が敵側から責められた話を伝え聞いていたから、敵側から責めを受けた娘が汚されたようで、それでいて可哀想で、と複雑な気持ちで娘を責めてしまったのだろう。
やがて殿様は、娘が殿様から受ける責めを甘受する愛らしい姿に感動し、本当に娘を愛するようになった。
そのような話をしてくれた。
克介がその話を書き留めている間に、女は
「この家の離れには、温泉が引かれています。
栓を開けてお湯を溜めましょう。」
と克介が遠慮する間もなく、お風呂の用意までしてくれた。
そして、克介が薄暗い灯明の明かりで入浴していると、前を手拭いで押さえただけの女が、浴室に入って来たのだった。
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