裕太は最近塞ぎ込んでいる。
元々明るい性格だし、がんばり屋で頭も悪くない。
悪くないどころか、成績は村の中学の1学年ではいつも3番以内だ。
母子家庭で母親の仕事の手伝いやアルバイトで、そんなに勉強する時間も無いが、集中力がずば抜けていた。
それに基本的には真面目なのだが、少し考え過ぎるところもあった。
村の鎮守様のお祭りで、好きだった咲枝が神様への貢ぎ物にされると聞いて、何とか助けたと冷たい川を泳いで結界の中に入ろうとした。
幸い自分も溺れず、咲枝ちゃんは無事に帰ってきた。
それどころか、人の居ない所で
「裕ちゃん、嬉しかったよ。
ありがとう..」
と言ってくれた。
裕太にとっても嬉しいことだったが、最近になって「自分がいくら咲枝ちゃんを好きでも、家が貧乏だし俺がまだガキだから、咲枝ちゃんと恋人なんかになれないんじゃないか..」
つまり、釣り合いが取れない、と思い込んでしまったのだ。
貧乏な俺となんて、咲枝ちゃんは付き合うのは嫌だろう。
いや、咲枝ちゃんと付き合うなんてしなくても良い。
でも、今の俺には、咲枝ちゃんが危ない時に、守ってやる力もない。
祭りの時は、神様から咲枝ちゃんを助け出そう、なんて思ったけど、結局溺れかけて青年団の人から少しも怒られただけだった。
そんな事をまだ13歳の幼い頭で悩んでいるうちに、事態は良くない方へと移っていった。
学校でも評判の良くない不良グループに、誘われ始めた。
頭も良くて力も度胸もある裕太をグループに引き込めば、喧嘩でもカツアゲでも上手くいくだろう。
三年生のグループのボスはそう思った。
裕太を遊び仲間にするのは、そんなに難しくなかった。
マンガやゲームを貸してやるだけで、それまでそんな娯楽にほとんど触れてなかった裕太は、なまじ真面目だから、ボスに恩を感じるまでになってしまった。
不良グループの流行りの遊びはその時その時で変わるが、最近の遊びはちょっと度が過ぎていた。
溜まり場にしている空き家で、ヌード写真が載った雑誌を読むくらいなら良かったのだが、やがて
「外に女の下着が干してたら、盗んでやろう。」
と、完全に性的犯罪へとエスカレートしたのだ。
これまで村の中で下着泥棒なんて、滅多になかった。
だから若い女の子のいる家でも、室内に干すなんてことはしたことがない。
それが僅かの間に、五回も被害があったのだ。
盗すまれたのは、上は30代から下は10代の女性のブラとパンツだった。
地元の不良少年達にとって、どの家の人が何時ごろ買い物に行く、とか、何時ごろ帰ってくる、とか知り尽くしてる。
盗んだ下着は、溜まり場でおもちゃにして、その持ち主を犯す妄想に浸っていた。
裕太は家が貧乏で働かねばならず、不良グループと一緒に行動する時間が無いのが幸いした。
それでもたまに溜まり場に行って、ヌード写真を見たり、盗まれた女物の小さな下着を見せられると、むずむずと道徳に反するいけない妄想が湧いてくるのを、どうしようもなかった。
年が明けたが、まだ冬休みの最中、不良達は溜まり場で駄弁っていたが、そのうちに
「1年の咲枝は可愛いな。」
と言う話になった。
不良グループのメンバーが、何度か声を掛けたりしたが、元々が真面目な優等生なだけに、相手にされなかった。
するとますます「高嶺の花を摘み取りたい」、と言う欲求が高まったわけだ。
ボスが音頭を取って、
「今度、咲枝が風呂に入っているのを覗こうぜ。」
「咲枝のパンツを盗んで、汚してやろう!」
と言う話に決まってしまった。
裕太が、「あそこの家はだめだよ!」と訴えても、もちろん聞いてもらえなかった。
かえってボスから、
「お前、まだパンツ盗みに行ってないよな。
明日の夜は来るんだぞ!」
と言われてしまった。
溜まり場から出て、一人で家に帰る裕太の心は重かった。
裕太は祭りの時に、一重の白い着物が水に濡れて張り付いた咲枝の可愛い胸をしっかり見ていた。
ませた男の子なら、そのシーンを思い出してオナニーするのだろうが、裕太はまだオナニー自体を知らなかったし、頭の中でも咲枝のそんな姿を想像するのはいけないことだと、思い込んでいた。
しかし、どうしても我慢できずに、以前見せてもらった可愛い咲枝ちゃんの、あの清らかな身体をそっと思い出すのが、裕太だけの、誰にも言えない秘密だった。
それなのに、明日は不良グループ皆で咲枝の入浴を覗き下着を盗むと言う。
いっその事、役場の近くにある駐在さんに打ち明けるか?
いや、いきなり警察ではなく、せめて学校の先生とか..。
すでに日は落ちて、帰り道は薄暗いなっている。
今日はお母さんは、町の病院の付き添い婦の仕事で遅くなるんだったな..。
お母さんが帰って来たら、お母さんに話そうか..。
でも、お母さんは女なんだ..。
こんな時に、お父さんがいてくれたら、僕にどうしろと言ってくれるだろう..。
そう考えて歩いていたら、後ろから足音がした。
子供ではなく、大人が二人らしい。
振り替えると、男と女、二人のシルエットが見えた。
顔は良く見えないが、どうも普通の感じと違う。
危険だとは思わないが、ただの村の大人ではないような予感がした。
いきなり男の方が言った。
「裕太!
貴様、ワシの嫁を奪ったな!」
大きくはないが、腹に響くような声だった。
僅かに声がくぐもっているような気がする。
二人がさらに近づいてきて、裕太はその訳が分かった。
二人は神楽の面を被っていた。
さらに男は神楽で着るような着物と袴だ。
男は裕太に詰め寄るように近づくと、さらに脅かすように言った。
「知らんとは言わせんぞ。
貴様、ワシへの貢ぎ物だった咲枝を、既に自分のものとしておろうが!」
混乱した頭の中で、裕太は
「この二人、もしかしたら神様?
だからお面を?」
と思い始めた。
「今回の貢ぎ物は、最近に無い美しい女童と聞き、楽しみにしておったのに、会ってみたら貴様の事が好きだと抜かしおった!」
「そればかりではない!
貴様、あの女童のつべも乳も見ているであろう!
正直に申せ!」
裕太は恐ろしかった。
神様が恐ろしいのもあったが、神様を騙して逃げようか、と一瞬でも思ったことが、もっと恐ろしかった。
「はい。
咲枝ちゃんの胸と割れ目、見せてもらったこと、あります。」
一度口を開くと、不思議と心が落ち着いた。
「よし、正直は誉めてやる!
しかし、貴様は今、汚れにどっぷり浸かっておるのが見えるわ!
良からぬことを、企んでおろうが!」
これで裕太の気持ちは決まった。
裕太は正直に、不良グループに入り駆けていること。
明日の夜、咲枝ちゃんの入浴を覗いたり下着を盗むために、一緒に行くことになっている、ことを打ち明けた。
「これだけです。
神様、僕に罰を与えてください..」
少しの沈黙の後、
「この、ばかもの!」
大声で怒鳴られた。
「貴様、明日のことは打ち明けても、お前の頭の中で咲枝を愛でていることは打ち明けなかったな!」
ああ、神様は見抜いておられる。
裕太は、
「はい、咲枝ちゃんの裸、何度も思い出しています。」
と打ち明けた。
神様はゆっくりと頷くと、後ろに控えていた女の神様に
「この子供、それほど穢れは深くないと見える。
あの社の軒を借りて、身体の穢れを払ってつかわせ!」
と命令した。
女の神様は白い帷子姿だった。
女神様は、裕太の手を引くと、社の軒先に座らせた。
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