監禁されて拷問を受けてる光雄にすれば、この男と話をして、この状況から逃げたいと懸命だった。
卑屈に、
「すみません、あのおばさんの事は、本当に悪かったと思っています。
謝ります。許してください。」
と言ってみたが、男から殆ど無視された。
「本当に、本当に償いはしますから..。
誠意を見せます。」
と言ったが、簡単に
「君には、そんな資力は無いだろう。」
と言われてしまった。
「そんなことはありません。
東京に戻れば...」
と誤魔化そうとしたが、
「君名義の財産等は無いね。
貸してくれる人もいないだろうな。」
と、全く取り合ってくれない。
光雄は、つい張ったりを言ってしまった。
「あんた!俺が東京に帰らないと、その筋の連中が俺の居場所を突き止めて、この村の連中全員に復讐することになるよ!」
男はきょとんとした表情になったが、直ぐに「君は、東京の恐い人達の間では重要人物で、その人達がもうすぐ助けに来てくれる。
そして、被害者のおばさんや、それを助けた村の皆を酷い目に合わせる。
と言うわけなんだね!」
光雄は、自分の張ったりが効いたのかと思った。
こいつらは、やはり田舎者だ。
ここはこの男を脅せば、自分は上手く助かるのではないか..。
あわよくば、金を脅しとるくらいのことも..。
そう言う都合の良い思いが光雄の頭を過ったとき、いきなり相手の男が大笑いし始めた。
「いや、それは大変だ。
美鈴、そんな恐い事になる前に、この方に充分反省させておやり!」
自分の夫が話をしてる間は、慎ましやかに後ろに下がっていた美鈴だったが、夫から言われて前に進み出た。
今度は手にはカッターナイフが握られていた。
毛を剃られた時のカミソリも恐かったが、カッターナイフも恐ろしかった。
光雄は全身の皮膚を薄くではあったが、美鈴のカッターナイフで切りつけられた。
もちろん巧みに動脈などは避けられている。
光雄は女を責めたり拷問しても、血を流すことは滅多にないし、東京で出来の悪い男とケンカした時も、ナイフを取り出して張ったりをかましただけで、本当の流血には慣れてなかった。
それが、自分の全身の皮膚が切られて、赤い血で全身か染まっていくのだ。
美鈴は、嬉々として夫の命令を実行していった。
30分にわたって光雄の泣き声や喚き声が小屋の中に響き渡った後、夫から止めるように言われて、やっと美鈴は光雄の肌を切り裂く手を止めた。
光雄が泣きながら、
「俺は..、どうなるんだ..?」
と口を聞いた途端に、また美鈴から、
「お前!誰に向かって口を聞いてる!」
と怒鳴られて、胸にスッと直線で15センチもの切り傷をつけられた。
深さは浅いが、ぱっくり傷が開き、また赤い血が溢れた。
さらに、そんな傷だらけの全身に、粗塩が振られた。
堪え性根の無い光雄は、
「ウギャーアアア!」と死にそうな悲鳴を上げて、縛り付けられた台の上で激しく失禁した。
そんな光雄を無視して、男は美鈴を
「こんな汚ならしいやつの小便で、お前が汚れたりするかもしれないのに。
本当に美鈴はよく頑張ってくれるね..。」
と誉めている。
夫から誉められて、美鈴はまた幸せそうに顔を紅潮させ、それが恥ずかしいのか、また両手で顔を覆った。
そんな妻の髪の毛を撫でながら、男は気を失いかけてる光雄に言った。
「今のところ、君は遠洋に出る船に乗ってもらうことになりそうだ。
最低10年間。外国籍の船だよ。
君を売った金を、被害者のおばさんに渡して、それで償いだよ。
運が良かったら、10年後には日本に帰れるかもしれないね。」
光雄は、
「俺は、売られるのか...」
そう思いながら気を失った。
美鈴の夫が小屋から出ていった後、光雄はアンモニアを嗅がされて目を覚まさせられ、美鈴から鞭で打たれながら、自分が漏らし台の上に溜まった自分の小便を、口で吸いとらされ、最後は舌で舐めさせられた。
逃げなくては..、と思うのだが、美鈴はこの手の経験が豊富のようで、とても隙は無かったし、次々と加えられる拷問の痛みと屈辱に、次第に逃げようと言う意志も衰えていった。
その日は、さすがに激しい拷問が続いたからか、小屋で光雄が一人で寝る時に、抗生物質の錠剤を与えられ、擦りきれた古い毛布が一枚貰えた。
食事は犬の餌皿に、冷やご飯に魚の煮付けの残飯や汁を掛けた物が出された。
そんな物を食べるのは、惨めで悲しかったが、今の光雄にとっては、そんな食事でも生きる中で唯一の楽しみになっていた。
しきりに初美の事が思い出された。
責められて写真に写されている顔では無く、一緒に飯を食べてる姿、あどけない寝顔、温かい体温等が無性に思い出され、自然に涙が溢れた。
「初美...」
小さな声で名前を呼んでみた。
同時に初美だけではなく、小さい時の親や兄弟との楽しい思い出まで心の中に溢れだした。
光雄は毛布を被って子供のように泣いた。
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