入って来た男は、部屋の隅に立ってる自分の妻を見ると、
「お前が見張りなんだね。
大変だけど、頼むよ。」
とごく普通の口調で言った。
それに対する女の反応が凄かった。
両手を胸の前で握り、なよなよと身体をくれなせて、
「いえ、貴方..、そんな..大変だなんて..」
と細く高い声で答える。
まるで中学生や高校生の少女が、憧れの男性から声を掛けられて、舞い上がっているかのようだった。
光雄も余りの意外さに、今のような状況でなければ、
「30代半ばの女が、乙女かい!」
と突っ込みを入れたかもしれない。
あのドSの女の夫なのだから、この男もかなり変わった男なんだろう。
しかし妻がドSなのに、夫は全くMっぽくは無かった。
その時は男は、立ったまま光雄を見下ろすと
「なるほど。いかにも..、と言う感じだね。」
と言った。
光雄は、自分から話すのは恐かった。
せめてどんな男なのか、わずかでもヒントが掴めれば、自分を自由にしてくれるための会話が出来るかもしれない。
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