世話役さんは大変だ。
毎年行われる祭りの行事とは違い、滅多に無いことをしなければならない。
50代になる世話役さんも、鬼役はまだ20代の頃に一度しただけだった。
幸い明治の終わり頃、当時の旧制高校を卒業し村長までした学問のある人が、当時まだ存在した村の慣わしを書き記した書物が伝えられていた。
それを読んで、村の中の現実と比べながら、具体的な事を決めねばならない。
村中に迷惑を掛ける淫婦を罰する行事を、仕置き鬼と言う。
実際に淫婦の家に押し入って、相手を責め懲らしめる鬼役と、その家の周りを取り囲んで、淫婦が逃げ出したり関係ない人が入り込んだりしないように見張る結界役とに分かれる。
鬼役を務めるのは、既婚者のみで9人だ。
その内訳は「鬼長(おにおさ)」「助鬼(すけおに)」「責め鬼」「牝鬼(めおに)」だ。
鬼長は指示役で、実質的な指図をする隊長と言うところだろう。
恐ろしい表情の赤いお面を被り、膝丈の着物に股引き、その上から羽織を着て、足には足袋を履き、手には竹鞭を持つ。
助鬼は、鬼長の補助役だ。
これは青い面を着け股引きと丈短かの着物を着るが、羽織、足袋はない。
責め鬼は6人で、鬼長の指示で淫婦を実際に責める獄卒と言うところだ。
忍者のように鼻から下を覆面で覆う面は着けない。
越中ふんどしと、短い法被だけの裸体で、足の脹ら脛に黒い布のすね当て、前腕にも黒い手甲を嵌めるが裸足だ。
責め鬼は原則として、責める時に喋ることを禁じられている。
牝鬼は、出産に何度も立ち会った経験がある女性が扮する。
服装は、農業用の丈の短い着物の裾から赤い腰巻きを少し見せ、まるで昔の田植え時の服装だった。
顔には、鬼なのにお多福の面を被る。
牝鬼の役割は、女の目から見て責め鬼達に行き過ぎはないかを見守る事と、責められた淫婦が怪我や病気をしないように気を配り、最後には民間に伝わる簡単な避妊術まで施してやると言う、とても大変な内容だ。
普通は世話役が鬼長に、牝鬼は世話役の奥さんが務めることが多かった。
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