必ず勝たねばならない。
そう誓ったが、3回目のジャンケンは、
私がパー、女がチョキで負けてしまった。
女のリクエスストは先ほどと同様尻文字だった。しかもお題は「おバカ」だ。
女に悪気はないだろう。
ただ、高卒の私にとって、高学歴の年下女から尻文字で「おバカ」と踊れというのは、
筆舌に尽くしがたい屈辱だ。
私は自分の体が百穴のぬるま湯では到底あり得ないくらい真っ赤になっているのを感じていた。
しかし、ルールはルール。踊るしかあるまい。
私は全身を震わせながら立ち上がり、恥辱の舞を踊り切った。
尻文字を終え振り返ると、女は満面の笑みだった。少なくとも私にはそう見えた。
俄然、心から復讐と嗜虐のマグマが湧いてくる。
私は心の噴火を無理くり笑顔でごまかしながら、湯船に腰を下ろした。
湯船につかると、すぐに4回のジャンケンが始まった。
結果は常連の男がグー、女がチョキで常連の男が勝った。
常連の男はその場で小躍りしながら、「女が身体に巻いているバスタオルの折り目と結び目を外すこと」をリクエストした。
頭が煮えたぎっていた私は、何を詰まらないことをと思ったが、女はやや渋っている。
理由はすぐに分かった。さっきのお湯の掛け合いでで、タオルがかなり水分を含んでいるのだ。
タオルの折り目と結び目を解いてしまえば、ずり落ちて胸が露わになるのは間違いない。
ただ、タオルを片手で抑えればこの問題は難なく回避できるだろう。
現に女はリクエストに応えた後、右手で左胸の上にあるタオルを抑えている。
なるほど、つまり今回のリクエスト布石、常連の男からのパスだ。
私がジャンケンに勝ち、シュートを決めることで女を"偶発的に"脱がすという本来の目的が達成される。
ならば、絶対に負けるわけにはいかない。
ただ残念なことに、私の頭では勝利への道筋は全く描くことが出来ない。
そもそも、ここで100てる攻略法が編み出せるのなら、大学など涼しい顔で入学することができただろう。
所詮、じゃんけんなど運なのだ。
『意志あるところに道は拓ける』
私は心の隅で埃を被っていた座右の銘にすがりつきながら、拳を振り下ろした。
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