ただ、今一歩踏み込んだ会話が出来ない。
そろそろ自然な流れで下世話な話に持ち込みたい。
どうやら常連の男も同じだったらしく、先に口火を切った。
「そういえば彼女はいるのかい?」
「彼女?いるわけないじゃないですか」
女は肩を揺らしながら答えた。
「あっはっは、そうだよね。じゃあ、彼氏は?」
「んー、一応」
意味深長な反応だ。
おそらく話を聞いてほしいのだろう。私も会話に入ることにした。
「一応って?ケンカでもしてるの?」
「いえ。ただなんていうか・・・、凪の中にいるというか、
これからもずっと一緒なのかな?それでいいのかな?とかたくさん疑問が湧いてきていて」
女は口をとがらせながら首を傾けた。
これは交際期間にもよるな。果てしていかほどか。
「いつから付き合い始めたの?」
「高3の春からです。」
「なるほど。楽しい時期が終わって、周りの事や彼との将来の事が見えてきたってわけだ。」
「そう!まさにそれなんです!」
女はその通りという感じで人差し指を立てながら大きく頷いた。
微笑ましい悩みだ。
常連の男も私と同じ感想を抱いていたようで、「なーんだ」という口から洩れた。
常連の男が話し出す。
「お嬢ちゃん、結論から行くとお嬢ちゃんたちはきっと上手くいくよ」
「連れ合いってのは何もないくらいが丁度いいもんさ」
バツイチの私もこれには全く同意した。
「俺もそう思う。それに悩めるってことは、君にとって大切な存在なんだよ、違うかな?」
「まぁ・・・、はい」
女は恥ずかしそうに口元を抑えながら返事をした。
女の初々しい反応につい嗜虐心が疼き始める。
「まぁ、はい、ってつまりどういうこと?具体的に言って欲しいな」
「その・・・、好き・・・です」
しどろもどりになりながら、女は答えた。
100点満点の反応だ。興奮せずにはいられない。
もっと揶揄ってみるか。
「君、結構Mでしょ?」
「違いますよ!」
女は恥ずかしがりながら、私の肩を軽くたたいてきた。
ボディタッチ。これはチャンスだ。
私は「ほんとに?」と言いながら彼女の横腹を人差し指でつつく。
「ちょっとやめてください、くすぐったいですよ!」
そう言うと、女はクスクス笑いながら湯水を掬ってかけてきた。
こちらも両手でぬるま湯を掬ってやり返す。
想定外の量が彼女にかかってしまったが、女に気にする様子は見られない。
いい流れに常連の男も乗ってきた。
「ところでMのお嬢ちゃんは彼氏に黙って一人旅なんて大丈夫なのかい?」
「だからMじゃないですって!彼からは了解を得ています。ちょっと、おじさんもつつかないでください!もう!」
どうやら、常連の男からのボディタッチにも拒絶の反応はないようだ。
もう少し攻めてみるか。
「けど、彼は穏やかじゃないと思うなぁ。そういえば男の裸は気にならないの?」
「見慣れてるんじゃない?」
常連の男が即座に合の手を入れた。
「確かに見慣れてはいますよ?男兄弟ですから」
何故か自慢気な顔で女は答えた。
「じゃあ、脱ぐか」
そう言うと私は下半身を覆っていたタオルを外して、湯船の外に置いた。
一瞬、女の視線が私の股間にいった。
だが、すぐに目を逸らして常連の男の方を向いた。
すると、常連の男はわざわざ立ち上がってタオルを外した。
これには女も呆れて「もう!」と言いながら両手で顔を覆った。
ただ、女から立ち去る気配は感じない。
「お嬢ちゃんも脱いじゃおうよ」
常連の男が言う。
「ダーメーでーす」
女が答えた。
「じゃあ、ジャンケン!」
常連の男が提案した。
「脱げとは言わないから、先の短いおじさんにご慈悲を!」
「ダメです」
「そこを何とか!」
常連の男は手を合わせ、小さく頭を下げた。
中年オヤジの、おそらくは本気の懇願。
女は驚き・困惑・可笑しさ・迷いの入り混じった複雑な表情を見せた。
そして、やや間を開けた後、苦笑しながら言った。
「仕方ないなー、いいですよ」
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