昨晩のショーを見たであろうカップルが二組、それに単独の男性がいた。
その男性の顔を見た途端、森は
「おや、おはようございます」
と挨拶した。
昨夜のショーで、ゆうかの母のパートナーを務めた医師だった。
医師と大学の准教授である森とは、話が合うらしい。
様々な四方山話から、SMの話題まで幅広く、かつ深い会話がされた。
横でゆうかは、あちこちに昨夜縛られた痕が残る裸を、湯船に身を浸して隠した。
そのうち二組のカップルも先に上がった。
森は医師に、本当に聞きたかったことを聞いた。
プライバシーにも絡む内容もあるし、個人的趣向の問題もあるので、相手が機嫌を悪くするかもしれない。
そう覚悟しての質問であったが、医師は思ったより好意的に話してくれた。
「昨日の奥さんですか?
いや、しっかりした女性です。」
「あれだけの拷問をされたのに、あの後自分でシャワーを浴びました。
大丈夫です、と言うんですが、私も旦那さんからお預かりした責任があるので、刺針した部分の皮膚の消毒と、解熱消炎剤、化膿止めの抗生物質、それと軽い精神安定剤を服用してもらいました。」
側で聞いていたゆうかは、ドキッとした。
精神安定剤?
お母さんは拷問を受けて、精神的におかしくなってしまったの?
同じ疑問を森も思って、それが表情に現れたのだろう。
医師は
「いや、本当はそれも要らないくらいでした。
貸出しされた女性の中には、肉体的に限界近くまで耐えたのに、精神的な興奮が続いて睡眠による回復が出来ない人が稀にいるんです。
でも、あの奥さんは私が『ご主人に喜ばれますよ』と言ったら、ホッとしたように落ち着いて休まれました。」
横でゆうかも、ホッとした。
森は更に、突っ込んだ話を聞こうとする。
「あの奥さんは、ご主人と不仲とかではないのでしょうか?」
「あの奥さんご夫婦の仲はとても良いようです。
ご自宅に2回お邪魔したことがありますが、二人が会話だけでなく、家の中の雰囲気と言うか、落ち着いてて温かさがありました。」
医師は更に続けた。
「私は専門外ではありますが、心理学等もかじっています。
ご夫婦の片方、または両方が精神的に破綻しかけてる家は、片付けがされてないとか、されててもゆとりが感じられないように感じられるものですよ。」
「その点、あのご夫婦の家は、家具もインテリアも温かい雰囲気でした。
ご主人が読みかけの新聞をソファーに置き忘れて、それを奥さんが『しかたないわね』と微笑みながら畳んでテーブルに置く、そんな感じですね。」
聞いていて、ゆうかは懐かしい実家の風景と、優しい両親の姿が頭に浮かんだ。
「大学生の娘さんがいるそうですが、あの両親に大切に育てられたのなら、きっと良いお嫁さんになるでしょう、そんな家庭でした。」
森もゆうかも、気づかれまいと意識して、かえって顔に血が昇るような気がした。
森は話題を変えた。
「先生は旦那さんから奥さんをお預かりして、性的な責めをするわけですが、かなりの信用があるわけですね。」
「はい、自慢になりますが、自分の経験、知識、技術などは間違いないものと自負しています。」
「しかし、お預かりした奥さんが、素晴らしく魅力的で、どうしても犯したくなるような衝動を感じることはあるのではないですか?」
それに対する医師の答えは二人を驚かした。
「全くありません。」
あっさりと言われたのだ。
「私は子供の時に、疾病によって生殖能力を失いました。
精液は作られますが、精子はありません。
それに勃起しないんです。」
こんな深い事情があるなんて、聞くんじゃなかった!
この人の心の傷を抉ったのでは?
森はそう思った。
しかし、医師は全く平穏に話を続けた。
「勃起せず性行も出来ないのに、性欲はある。
大変困った青春期でした。
それを乗り越えるために、哲学にも嵌まりました。
でも、最終的に行き着いたところがSMです。」話が長くなり、横にいるゆうかが逆上せそうになったのを見た森は、ご主人様の命令として、ゆうかを湯から上がらせ岩に座らせた。
それはつまり、晒すことにもなった。
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