叔母の家から持ち帰ったエロ本は、ゆうかの高校時代の夜のバイブルとなった。
しかし、昼間のゆうかは家でも学校でも模範的な優等生だった。
ゆうかの人生が変わったのは、大学の文学部に入学し、森准教授との出会いだった。
出会った時の森准教授は、年齢は38歳。
痩せてはいるが、背が高く、容貌は育ちの良さと深い思考力を感じさせた。
他の学生は敬遠しがちであったが、ゆうかは何故か引かれるものを感じた。
午後の講義がない時間に、森の研究室で二人だけでコーヒーを飲むまで親密になるのに、それほど時間は掛からなかった。
ゆうかは、森に対する自分の感情が恋愛であると断言できるまでには至っていなかった。
いや、自分が森に引かれるのは、普通の恋愛ではないのではないか?
もっと別な感情なのではないか..。
そんな疑問が、ゆうかの心の中で蟠っていた。
ゼミの打ち上げコンパの後、一旦解散の後で森とゆうかは別のところで落ち合った。
初めて男性とホテルでの一夜を過ごすつもりではあったが、ゆうかはまだ男性から抱かれることについて、何か納得しずらいものを感じていた。
自分のマゾの性癖は分かっている。
でも、それが森から抱かれることでノーマルになるのなら、それで良いではないか..。
変態としての自分と決別出来るのだから..。
しかし、人から聞いたり本で読んだ普通のセックスによって、自分が処女で無くなることは不自然であるような予感がした。
ゆうかは、アルコールの勢いを借りて、森に自分の性癖、今思っている疑問をぶつけた。
森は大人の男性だった。
涙を流しながら自分の性癖を打ち明ける処女を、強引に犯すことはしなかった。
ゆうかの話を黙って聞いてあげ、時々短く質問をした。
ゆうかが話終わった時に、森は自分の思っている結論を言った。
「君がマゾなのは間違いないようだ。」
君を僕の物にするのは、もう少し待とう。」
男性の性とは、目の前の女性に対して、自分の欲望をぶつけることだ、とゆうかは聞いていた。
それが森は、今日は私を抱かないと言っている。
不審がるゆうかに、森は答えた。
「僕はS、サディストだよ。」
ならば、なおさら..。
いえ、私はそれの方が嬉しいのに..。
森は落ち着いた声で続けた。
確かに、単純に目の前の女性に欲望をぶつける男もいる。
しかし、私はむしろ人間の性について、目覚めた発端や経過を知ることを楽しみたいのだ。
そのような話をし、さらに自分がサディストであることを自覚した発端や、これまで付き合った女性とのSM経験などを話してくれた。
小学生の高学年の時に、父から責められていた母の姿を見たこと。
その真似をしたくて、同級生の女の子を人気のない竹林の中で裸にして縛ったこと。
その時の女の子の、嫌悪や恐怖のみではなく、羞恥と性的な好奇心の表情から、ただのエッチな感情とはまた違う興奮を感じたこと。
「その人の性の歴史、ストーリーを知るのが好きなんだ。」
森はそう言った。
その日以来、ゆうかは実際の肉体関係は無かったものの、森の性的な人生観、経験談を聞くと共に、自分の性癖やSMに対する考えなどを語り合う仲となった。
共にSMの文献を読み、画像を見て、責めに使われる道具の実物を手に取り、女体が各種の責めを受けた際の心身への影響、怪我や病気となる可能性、社会的な危険度まで研究を重ねた。
未だに二人に具体的な責めを伴う肉体関係は無かったが、森と会った日は、ゆうかは必ず森から責められる想像をして自分の身体を慰めた。
そして、約半年後、ゆうかのそれまでの人生で一番大きな衝撃を受けることになる。
発端は森から、知人がいる九州のSMサークルにショーの見学や関係者への聞き取りに行かないか?との呼び掛けからだった。
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