「一つだけお願いがあるの」檻から出た貴子が両手を合わせて祈る様にオレにせがんできた。
「貴子さん、ダメだよ。檻から出たら直ぐに手を後ろにまわさなきゃ。お店の規則に違反したら大変なことになるのわかってるだろ。」貴子は慌てて手を後ろに回した。オレはすかさず細腕に手錠をカチンと掛けてリードを首輪に繋いだ。
リードを軽く引いても貴子は足を運ぼうとしない。「お願い、聞いて頂戴。一回だけのお願いなの。聞いてくれたら二度とお願いしないと約束するわ。だから…..」貴子は遠くの景色を眺める様な眼差しでコンクリート剥き出しの壁を向いたまま動かない。
「私、10分だけでいいから手錠無しで歩きたいの、両手を大きく振りながら歩けたら、どんなに気持ちがいいかって、ずっと頭から離れなくなってしまったの。貴方は優しいからリードを強く引っ張らないけど、それでも私、いつも手錠を掛けられてリード引かれて歩くのは本当に惨めで辛いわ。人間扱いされないのは、もう諦めてる。でも一回だけ両手を自由に振って歩くのを10分だけ許して欲しいの。」
「本当に残りの人生で一回だけのお願いだから聞いてくれるわね。せっかくだから外を歩くのをお願いしてもいい? 青空の下で自由に手を振って、外の空気をいっぱい吸い込んで歩けたら、私どんなに幸せかと…着るものは体を隠せるものだったら何だっていいのよ…..絶対に逃げたりしないから….お願い….駄目なの? それなら、この地下室の廊下を手錠無しで歩くだけでいい、10分が駄目なら5分でもいいわ、手錠無しで両手を自由に振って歩かせて頂戴。お願いします。1分だけでもいいから….」
愛する夫と裕福で幸せな生活を過ごしてきた貴子だったのに、愛する夫も財産も、すべての自由を奪われて、こんな惨めな境遇に墜とされた貴子の、本当にささやかな願いをかなえてやりたい。オレは貴子に同情して涙が出そうになった。しかし心を鬼にして諭す様に貴子に話しかけた。「貴子さん、かわいそうだけど、はっきり言うよ。夢を見てると自分を苦しめるだけだ。君にそんな自由が訪れることは二度と来ないんだ。そんな我がまま言ってるのをお店の幹部に聞かれたらどうなると思う? 檻の中にいる時も手錠を掛けられたまま二度と手錠を外してもらえなくなってしまうんだ。脅かしで言ってるんじゃないよ。君が知ってる邦子さんは、いつも手錠掛けられて辛いってお客さんに愚痴を言ってしまったんだ。お店の幹部がそれを知って一生手錠を外してもらえなくなったんだよ。それだけじゃ無いんだ。重い鉄球付きの足錠もかけられて一生外してもらえない身になってしまった。君は檻の中で手を自由にさせてもらってるのを感謝しなきゃいけない。うちのお客様は手錠を掛けられた不自由なソープ嬢が体のあらゆる部分を使って一生懸命奉仕するのを期待して大枚を払ってるんだ。君はそんなお客様に喜んでもらえる様、後ろ手錠で背一杯尽くし、お客様に喜んでもらえるのを生きがいにするしかないんだ。わかったね。」 オレは落胆した貴子を見ながら心の中でで大泣きした。
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