【第一章 ~ 戸惑い~】
まだ、梅雨も明けないジメジメした朝…私はキッチンで朝食の用意をしながら、ダイニングで寛ぎ新聞を読む主人に声をかける
「ねぇ?あなた…そろそろ、食べてくださいね。会社に遅れるでしょ?」
そう言われると、新聞を畳む主人は、いつも聞かされる小言に少し眉間に皺を寄せて返事をする。
「ああ…わかってるよ。それは、そうと大志のやつは、まだ起きて来ないのかい?もう、学校に行く時間じゃないのか?」
振り返るとダイニングテーブルに朝食のパンやフルーツを皿に置き、カップに珈琲を注ぎながら
「あなた…もう夏休みに入ってるわよ…何も知らないのね…もぅ……本当に…」
毎日、言われる主人の無関心な言葉に嫌気がさしていた。そして、何を言っても無関心なままの主人には、私の方から切ってしまうように会話を終わらせる。
結婚して20年…子供も一人授かり、幸せな家庭だと言う人も居るだろうが、40歳を迎えた美佐子は心の中に何か物足りないと感じていた…その答えも見つからずに…
そして、しばらくして、無言で朝食を摂っていた主人は朝食を早々と終わらせて身支度をして出て行く。私との会話を避けるようにして…
「行ってらっしゃい…」
主人への妻としての一言だけを済ませると、ダイニングで一人朝食をしていると息子の大志が二階から下りて来る…
「ふぅぅ…んん…お母さん…お父さん、出て行った?」
ジャージ姿の大志は向かいの椅子に座って話し始める。
「お父さん、もう出て行ったわよ…わかってて下りて来なかったんでしょ?もぅ……少しはお父さんとも話しなさいね?お父さん、大ちゃんとお話したいんだから…」
受験生の大志も、某有名大学を出た父親がいつも自分の大学を自慢する事に毛嫌いしていて、ほとんど会話をしない事を母親として気にしていて…
「わかってるよ…でも、お父さん、いつもさ…俺と同じ大学に入れとか…もっと勉強しろだの言うだろ?そんな話ばかりするから嫌だよ。ホント……お母さんからも言ってよ。そう言うの……ストレスになるって…」
大志は朝食を食べながら、私にそう言うと…
「わかったわ…お父さんには言っておくから…ちゃんとお話してあげてね?今日は塾の夏期講習あるんだったわね?遅くなるの?」
そう言うと大志は…「あっ、ぅん…今日は夏期講習終わってから自習室で勉強して帰るから遅くなるよ…多分夜になるかも…」
一瞬、息子の表情が曇ったのも感じたが、何もなかったように話し始めて
「わかったわ…お母さん、今日は担任の佐々岡先生に面談に行ってから、お友達とお茶するから夕方も居ないかもしれないわ…鍵持って行ってね?」
会話を終えると息子も早々と身支度をして出て行く…
そして、家に一人になるといつものように家事を始める…洗濯、部屋の掃除を始めると、しばらくしてなかった息子の部屋の掃除……息子からはいつも、しなくていいと言われたが、散らかっているだろうと思い…
「また…こんなに散らかして…もぅ…」
窓も開いていない息子の部屋、息子が発する早熟な男の匂いを感じながら、美佐子は真っ先に窓を開けて…掃除を始める。ふと、ベッドを見ると脱ぎ散らかした服を見て片付けていると、中に衝撃的な物を見つけてしまう…
「あっ………これって!?…」
思わず驚きで息も出来なくなり、手に取った布を見て手が震えて……いかにも高級そうな黒のレースの下着で若い子が履くようなものでもなかった。それに、こんな下着は美佐子も持ってないのはわかっていて…
「どうして…こんなものを…」
美佐子はその布を手に取って、しばらくベッドに座って考えてしまっていた…そして…その布には、もう1つ衝撃的な事が……
「何っ?これ…!」
その黒いショーツを裏返すと、そこには…ベッタリと白く濃いゲル状の物が付着していて…それを指に付けて近くで見ると…鼻孔にふわりと香る栗の花の匂いに若い牡の性を感じると息子の精液と感じて…
衝撃と疑問…そして、心の何処かに湧き上がる牝の性の戸惑いを入り交じらせながら…その下着をベッドに戻し、他の服と一緒に隠してしまい部屋から出て…。しばらく、その事で家事も手につかないまま……あっという間に時計を見るとPM1:00を指していた。
「もう…出かけないと…」
美佐子は慌てて身支度をして、外に出ると、どんよりと曇っている空を見て…自分の気持ちを重ねて学校へと向かって行くのだった…
槌続く槌
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