彼女は部屋着を着てボサボサになってしまった髪を整えた。
男はまだ寝ている。
風呂に向かった。
また入るのか?と思ったら風呂掃除だった。
几帳面な彼女らしい。
風呂掃除を終えてケトルでお湯を沸かし紅茶を入れた。
ソファーに戻り紅茶を飲もうとした時に
ブハー!男が飛び起きた!
ビックリした彼女!
男はキョロキョロと部屋を見渡し彼女と目が合った。
男: あれ?オレ寝てた?
彼女: ...はい。
男: 寝落ちしちまったなぁ...
彼女: 大丈夫ですか?
男: おぉ...大丈夫!
彼女: 温かいもの飲みます?お茶とか?
男: お茶?お前何飲んでんの?
彼女: 紅茶です。
男: 紅茶?コーヒーがいいな。
彼女: インスタントですよ?
男: おぉ。
男の為にコーヒーを入れる彼女。
いつもは僕にしてくれてたのに...
コーヒーを飲み終えソファーで抱き合う2人。
男: なぁ?
彼女: はい?
男: 事務長って死んだんだろ?
彼女: はい。
男: 死ぬ前に会ってないの?
彼女: 会いました...病院で。
男: 見舞い?
彼女: はい...
男: 1人で?
彼女: はい...
男: 何で行ったんだ?
彼女: ...
男: 何でだ?
彼女: もう...末期で助からないって...
男: んで?
彼女: いろいろ...いろいろな動画とか写真とか持ってるから...心配で...
男: あー!そらそーだ!
彼女: 消してもらおうと思って行きました。
男: 会えたの?
彼女: はい...
隣町の大きな病院の個室に事務長のネームプレートがありました。
コンコン
事務長: はーい!
彼女: 失礼します。
事務長は私を見て驚いていました。
事務長: 来てくれたんだ!
彼女: お加減はいかがですか?
事務長: んー...ダメだね!
彼女: そんなこと...
事務長: イャもう助からんよ。
彼女: ...
事務長: 何で?何で会いに来たの?
彼女: 具合どうかと...
事務長: そっか...具合は悪いよ!ハハハ...
私は何も言えませんでした。
事務長: すまなかったね。
彼女: え?
事務長: 君には酷いことをした...すまなかった。
彼女: 事務長...
事務長: ゴメンね。
自然と涙が出た...
事務長: 許してくれるなんて思っていないよ。でも私は君に感謝している。
彼女: 感謝?
事務長: 私の最後の女性が君で本当に幸せだった。
彼女: そんな...
事務長: ありがとね。
彼女: ...はい...
事務長: そこの引き出しを開けてくれないか!
彼女: え?ここですか?
事務長: そう。
引き出しを開けた。
事務長: その黒いポーチを取って。
彼女: はい。
ポーチを手渡した。
事務長はポーチの中をカチャカチャと探り小さなプラスチックケースを出した。
事務長: これ!君に。
彼女: なんですか?
事務長: SDカードだよ!
彼女: SD?
事務長: そう...私の宝物だよ。
彼女: ...
事務長: 2人の思い出が入っているから。
彼女: 思い出...
事務長: あとは全部処分したからね!安心しなさい。
彼女: 事務長...
事務長: それを見るにはパスワードがいるんだよ。
彼女: パスワードですか?
事務長: そう、パスワードは君の誕生日だから。
彼女: ありがとうございます...
事務長: 礼を言うのは私だよ、ありがとう。
彼女: ...
事務長: もう帰りなさい...こんな所に長居はいけない。
彼女: はい...どうか...お大事に...
事務長: ありがとう。
彼女: さようなら...ご主人様。
事務長: あぁ...さようなら。
それが事務長に会った最後でした。
男: 何だそのいい話は!
彼女: 最後だけは...
男: 何癌だったんだ?
彼女: 膵臓癌でした、見つかった時にはもう...
男: お前は何か気が付かなかったの?
彼女: 実は、最後の方はもう勃たなくなってしまっていました。
男: 急に?
彼女: はい...勃ってもすぐに...
男: 萎えちゃうんだ?
彼女: はい...もう私に飽きたんだと思っていたんですけど...
男: 急にはこえーな...
彼女: それで...最後に会った時には、体臭が違いました。
男: 何それ?体臭?
彼女: はい...何とも言えない感じの体臭でいつもと違っていました。
男: そんなモンなのか?
彼女: わかりませんけど...
男: それで直ぐに入院?
彼女: はい...即でした。
男: オレ...健康診断いこ...
彼女: ですね...
男: ...
彼女: ?
男: ...
彼女: 何ですか?
男: んで...SDは?
彼女: ...捨てました!
男: んでーーー!捨てたのかよぉ???
彼女: ハァ...当たり前でしょ!
男: んだよぉ~...どこに?
彼女: どこって...ゴミに!
男: ちっ!あんだよ!
彼女: 残念でしたね!
2人で笑い合う。
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