益美の動きは早かった。
電話で話した二日後に、段取りができたから家に来いというので、日曜の午後、僕は田
園調布の豪邸を訪ねた。
僕の来訪を待ち望んでいたように、広い玄関口で、益美はいきなり僕に抱きついてきた。
この家を訪ねるのは、僕にも記憶がないくらいに、随分と前のような気がしていたが、
白のブラウスに、紺地のロングスカートで迎えに出てきた益美は、自分から僕の唇を塞ぎ
にくると、長い時間、そこから動かなかった。
高そうな香水のいい匂いが、僕の鼻孔を忽ち封鎖してきて、瞬時に血流が僕の下半身の
一ヶ所に集中したような感じになった。
「お話は後で。…お二階」
唇が離れた時、濃い眉の下のやや奥目がちの目が、潤みきっているのがわかり、息遣いも
少し荒くなっているようだった。
「牝ブタだな」
思いもしていなかった言葉を、僕は口に出していた。
唇を重ねられ、舌を舌で絡められた時、僕の昂った血流が、一気に脳神経までもおかしく
してしまったようだった。
「ここで脱げよ」
階段の手摺りに手をかけた、益美の背中に向けて、僕はまた予期せぬ言葉を発していた。
家の中全部が暖房に温められているようで、空気の温みは、一月半ばの木枯らしの吹く外
とは雲泥の差だった。
高価そうな板張りの階段の上り端で、益美は立ち止まり、僕に背中を向けて、ブラウスの
ボタンを外しているようだった。
「こっちを向いて脱げ」
僕が僕でなくなっていそうな気がしていた。
「はい…」
益美は小さな声で応えて、僕に正面を向けた。
色白の顔に赤い口紅が、僕の欲情をそそるように映えて見えた。
ブラウスが、益美の少し骨ばったような肩から滑り落ちて、雪のように白い肌と紺色のブ
ラジャーが好対照に露わに見えた。
丸い乳房の艶めかしい膨らみに、僕は喉の奥で唾を小さく呑んだ。
ロングスカートはホックが外れて、緞帳が崩れるように、益美の足元に落ちた。
室内の暖気もあってか、益美はパンティストッキングは身に付けてなくて、ブラジャーと
同色の小さな布面積のショーツが、細長くて白い足の付け根を覆っていた。
躊躇う素振りを微かに見せながら、益美はショーツに手をかけ、ゆっくりと足首から外し
ていった。
上品な身体つきには少し不似合いな感じで、益美の股間の茂みは黒かった。
「歳は繰ってても、身体は相変わらず奇麗だな」
脱いだ衣服をそのままにして、僕も益美の裸身を見ながら、彼女の寝室に入った。
この室にも暖房は行き届いていて、階段下にいた時と同じ温みだった。
「脱がせてくれよ。俺が欲しいんだろ?」
頭の片隅のほうで、本当に自分は十六歳なのか、と思いながら、横柄な口調で、五十代半
ばの真澄に命じていた。
ダウンジャケットから順に、益美は豊潤な匂いを僕の鼻孔に与えながら、僕を裸にしてい
った。
僕の身体の前で腰を屈めながら、トランクスを益美が下に引き下げると、階段を上がる前
から、もう完全な勃起状態に達しているものが、鮎が急流の中を飛び跳ねるように震え踊っ
ていた。
僕のものは男子として、特段に大きさも、長さも太さもあるとは思ってはいなくて、自分
的には平均そのものだと思っている。
それでも益美は、自分の顔の前に飛び出た僕の屹立したものを、うっとりとした表情と潤
んだ目で愛おし気に見てきていて、長く待ち望んでいたように、手と顔を僕の股間に近づけ
てきた。
益美の口の中の息の心地のいい温みが、僕の屹立を包み込んできた時、僕は少しばかり歯
を食いしばって、その艶めかしさと気持ちの良さにに堪えた。
僕が止めろというまでというような気持で、益美は僕のものを、まるで自分の宝物のよう
に丹念に、そして愛おし気に奉仕を尽くしていた。
「益美、俺に忘れられるのが嫌か?」
意地悪く、僕でない僕が尋ねると、益美は口の中のものを咥えたまま、二度、三度と首を
縦に振って応えてきた。
頃合いを見て、僕は益美を抱き上げてベッドに横たわらせた時、彼女の顔はすでに汗だく
状態だったので、シーツの端を掴み取って、撫でるように拭いてやると、
「あなたの、そういう動作が自然に出てくるのが好きっ」
と訳のわからないことを言って、益美は僕の首にしがみついてきた。
益美の身体は加齢による仕方のない衰えはなくもなかったが、無駄な肉というものがほと
んどない締まった、艶やかな肌肉をしていて、乳房の膨らみも柔らかいだけの感触ではなか
った。
「ああ、ま、待ってたのよ。…あ、あなたが来てくれるのを。ほんと、く、悔しいくらい
に待ってたわ」
女性の身体への愛撫は、まだまだ体験の少ない僕は稚拙だったのかも知れなかったが、た
かだか十六の僕を慕い焦がれてくれる綾子の気持ちが、僕にも痛いほど伝わってきていて、
僕の手が彼女の肌のどこに触れても、喘ぎと悶えの声を間断なく漏らし続けてきた。
桜色をした乳首に舌を這わせてやると、外にまで声が漏れ出そうになるくらいの反応を示
し、かたちのいい唇を白くなるくらいに噛み締めてきて、嗚咽に近い声を挙げるのだった。
「ね、ねえ…も、もう…あ、あなたが欲しいの」
切なげに、濃くて長い睫毛を歪ませて、僕に催促してくる益美の顔に嘘は欠片もなかった。
「ああ、く、来るわ…あ、あなたが」
僕の屹立の先端が、益美の下腹部の漆黒の下の肉襞を、裂くように割って入ると、背中に
廻してきていた彼女の手の爪が、僕の肉肌に強く喰い込んできた。
背中に感じたその痛みも、僕には心地のいい刺激になって、律動態勢に入っていた僕の腰
のギアを上げることになった。
「ああっ…い、いいの。いいの、あなたが」
益美のハスキーな声が、さらにハスキーさを増しているようだった。
「こ、このまま…お前の顔を見て…俺は逝きたい」
益美の濡れ潤んだ目を見て、僕は訴えるように言った。
「き、来てっ…わ、私も…あ、あなたの目を…ああっ…いいっ!」
ほぼ二人同時の絶頂だった。
ベッドの上に贅肉もないが、筋肉もそれほどはない裸身を晒して、僕は仰向けになっていた。
十六の男子にしては心もとない太さの、僕の片腕を枕にして、やはり白い裸身を晒したまま、
益美がペット犬のように寄り添ってきていた。
益美の薄い栗毛色の髪の匂いが、擽るように僕の鼻先をついてきている。
年齢をまるで感じさせない魅惑的な益美の胎内に、白濁の若い迸りを飛散させた時、僕の頭
の中のスイッチが、邪から正常に戻ったような気が何となくした。
ここを訪ねてきた本来の目的を忘れかねないような、まだ少年の僕には似つかわない、揺蕩
うとしたひと時だった。
「俺って、まだ十六だけど、益美のような優雅でお金持ちの美人と、こんなことをやってて
いいのかな?」
クロス張りか何か知らない、真っ白な天井に目を向けて、僕は独り言のように、今の本心を
呟いた。
「そうね、私もまさか、こんな若いあなたとこんな風になるなんて、さすがに想像もしてな
かったけど…でも昔の戦国の武将って、十五で元服して、親に決められた相手と夫婦なってい
る、ということは、もう、その頃からすることはちゃんとして、世継ぎを作ったりしてるのよ」
祖母を第一に、奥多摩の寺で尼僧として住む綾子、国語教師の俶子、今、自分の横にいる有
閑マダム的な益美と、もう一人、忘れたら殺される、目下、わけのわからない理由で、何とな
く冷戦中の紀子、とこの半年余りの、僕のあまり脈絡のない、場当たり的な女性遍歴を、大人
の益美は、戦国の武将を例えに出して、親が子をあやすように、優しいハスキー声で慰めてく
れた。
「な、もう一回しよか?」
天井に向けていた目を、真横にくっついている益美の目と顔にぶつけるようにいうと、長い
御託を並べて言った益美の顔が、一気に喜色満面になっていた。
若い僕のほうの、身体も心も都合よくできていて、早々に回復状態になり、益美にもっと恥
ずかしいことをさせたい、という邪悪の発想が湧き出てきていた。
ベッドに仰向けにさせた、益美の真っ白な両足を折り曲げて、左右に大きくおし開き、股間
の漆黒の茂みを露呈させた。
足を開かせた時、益美の股間の、黒い蝶の羽のような二つの肉襞が同時に開き、まだ濡れそ
ぼっている濃い桜色の粘膜が、妖しげに覗き見えた。
と、そこの奥のほうから、白い白濁液が小さな滝のように流れ出てきているのが見えた。
僕の一度目の飛散の残留だった。
「白いのがまだ出てきてるぜ」
「ああっ…は、恥ずかしいわ…こんな」
「ひくひくと中の肉が動いてる。ここ、何て言うんだっけ?」
益美の両足をおし開いたまま、顔を上げて、彼女の顔を窺い見ると、手の指の一本を口に当て、
目を閉じて恥ずかしさに堪え忍んでいるようだった。
「何て言うんだ?ここ」
僕が声を少し荒げて問い直すと、益美は口から指を離して、
「お、おマンコ…です」
と当然に小さな声で言った。
「聞こえなかったな。もう一回言って」
「お、おマンコです」
「ふふん、顔はお上品でも、ここは何人もの男を咥え込んでいるせいか、生々しく下品だな」
僕の放出した白濁の残留を一筋の線にして、桜色の粘膜を、まるで別の生き物のように、ひく
ひくと蠢かせている益美の股間を、昔の言葉で言うと色摩のように、刺すような目で僕は見つめ
ていた。
時々、口を窄め息を吹きかけてやると、益美の贅肉のまるでない白い腹が、驚いたように波打
ったりしてきた。
「なぁ、益美が初めて男を体験したのは、いつだった?」
自分でも念頭にはなかった問いかけだった。
淫靡な目で三十以上も年下の僕に、長い時間、一番恥ずかしい箇所を見られながらの、思わぬ
問いかけに、益美の長い睫毛が小さく震えたのが見えた。
「益美は、小さい頃から奇麗だったんだと思ってるし、男には不自由してなかったろ?」
けしかけるように僕が言うと、少しの間を置いて、思いがけない告白をしてきた。
小学校の五年の時に初めて男を知ったと言うのだ。
しかもその相手というのが、血の繋がった自分の祖父だと、さらりとした口調で話し出した。
僕はすぐに祖母のことを思い出し、心の中をひどくときめかせていた。
益美の両足から手を離し、身体を前に這わして、彼女の横に添い寝の姿勢をとった。
「詳しく聞かせろ」
その時の、僕の顔の表情がどんなだったか知らないが、益美のほうは少し驚いたように僕を見
つめてきて、それでも一息入れて、目を天井に向けて訥々と話し出した。
裕福な家庭に生まれた益美は、大きな家で親である父母と、祖父と祖母の二世帯同居だったと
のことだ。
「…私は一人っ子だったこともあって、両親と祖父母にも大事に育てられてたの。同族会社み
たいな商社の社長を祖父がしていて、父はそこの専務で、英語の喋れた母も、祖父や父の通訳と
して働いていて、とにかく両親は一年の内、半分近くは海外を飛び廻っていていたのね。だから
私は祖父母に育てられたようなものだったわ…」
益美の目は、もう何十年も前の、思い出したくない世界に向いているかのように悄然としてい
た。
「私、子供の頃から生育が早くて、四年生の冬に生理が始まって、胸も他の女の子よりも早く
大きくなってたのね。…そんな時、両親が海外で、祖母も同窓会の旅行とかで家にいなくて、私
と祖父の二人だけの夜を過ごすことになって。私の祖父は身体は小柄で細身だったんだけど、仕
事でも行動力がすごくて、女性関係も外で二号さんっていうのかな、子供の私でも薄々わかるく
らいに、何人かいたらしいの。祖母も呆れ返るくらいに精力的な人だったの。…で、祖父と二人
だけの夜ね、私が一人でお風呂に入っている時、祖父が私がいることも知らずに、いきなり入っ
てきたの。小学校の六年っていうと、父親とお風呂に入るのが嫌になるとかいう、微妙な年代で
しょ?…祖父も私もびっくりしたけど、何故だか、私も怒れなくなっていて…ほんと、今でもよ
くわからないんだけど、わ、私は多分、祖父のものを目の前近くで見てしまったのが衝撃だった
と思ってる」
益美が目を閉じたり開けたりしながら、平静を装ったような声で喋っている時、僕は彼女の乳
房揉みしだいたり、乳首を摘まんだりと、耳で話を聞きながら、良からぬ行為に耽っていた。
「お風呂で十分くらい一緒だったかな、最初に祖父が入ってきた時は、だらりとしてた祖父の
ものがね、私が出る時に、鉄棒のように固くなってたの。祖父もさすがに少し恥ずかしそうな顔
して、男というものはこういうものなんだよ、とか言ってたわ。そこで、私も笑って済ませれば
よかったんだけど、そういうことにも多少の興味を持つ年頃だったのもあって、その夜、居間に
いた私に祖父が、室に来なさいって一方的に言って、自分の室に入っていったの…」
益美の息が荒くなり出してきていた。
「祖父のその言葉が、私にはまるで催眠術師の声のように思えて、私は祖父の寝室に行ってい
たの。ベッドに私を寝かせ、祖父は何も言葉を出さず、私のパジャマとショーツを脱がし裸にし
て、手と口と舌で私の身体を丹念に愛撫してきたわ。…そして、私は小さな痛みを知った。その
夜は朝まで祖父と一緒だった。祖父に何度もキスされた時の、葉巻とウイスキーの入り混じった
匂いは、何故か今もはっきりと覚えているの。私が中学二年の時、祖父が急性の脳溢血でぽっく
りと死んでしまうまで、祖父との関係は秘密裡に続いて、祖母も両親もこのことは知らないまま
なの…ああ、た、他人に…は、話したのって、あ、あなたが初めてよ」
益美の手が身体の下のほうに伸びて、僕の固く怒張したものを強い力で握り締めてきていた。
吐く息がさらに荒く大きくなっていた。
「昔を思い出して興奮してるのか?」
僕の下卑た問いかけに、益美は汗の滲み出している顔を何度も頷かせていた。
「欲しくなってるか?」
何度も頷きながら、目でも訴えてきているようだった。
「何が欲しい?」
焦らすような僕の問いかけに、
「お、おチンポ!」
と益美は即座に口走っていた。
それからは、四つん這いも含めて、自分の知っている限りの体位を駆使して、僕は燃え盛るば
かりの益美の身体を、粉骨砕身の精神で激しく責め立てた。
「ああっ…いいっ。し、死にそう!」
「あ、あなたが一番好きっ」
「わ、忘れないでね…捨てないで!」
「も、もっと、突いてっ」
「わ、私を滅茶苦茶にしてっ」
合間合間に、益美がハスキーな声で喚きたてた言葉の羅列である。
最後は、自分的に気に入っている、座位で胸と胸を密着させて抱き合う態勢で、唇を長く重ね
合った後、益美の身体を仰向けにして、渾身の力を振り絞ってつらぬき続け、息も絶え絶えの思
いで僕は果て終えた。
その何秒か前に、益美は僕の真下で意識を失くしていた。
さすがに若い僕も、心地のいいぐったり感に、暫くはベッドから起き上がることができず、気
を失ったまま、すやすやと寝息を立てている益美の横で、大の字になって身を横たえていた。
二人がバスルームでシャワーを浴びて、衣服を身に付けて、応接間のソファーに座り込んだ時
には、窓の外は赤い西日になっていた。
「俺、何の相談で来たんだっけ?」
ふっくらと暖かそうなガウン姿の益美が出してくれた、ミネラルウォーターを飲みながら、冗
談ではなく、僕は本当にそう思って言った。
細野多香子という名前がぼんやりと浮かんだが、その女性をどうするのかが、まだ茫然さの残
る頭ではよくわかっていなかった。
僕と同じ高校の、僕より一学年上で、もう卒業してしまう女子生徒が、どこかで見た僕に恋ら
しき思いを抱き、毎日を鬱々と生きているので、一度会ってやって欲しいということだと、何か
の縁で間に入ったかたちの、益美が僕に依頼をしたということを、益美の改めての説明で、僕は
ようやく知った。
学校のアイドルナンバーワンという、女子生徒だというのを、僕は朧げに思い出した。
そこで、すぐに僕の頭に浮かんできたのは、その細野多香子ではなく、紀子の怒った顔だった。
僕が思わず顔をしかめたのに気づいたのか、益美が含み笑いをしたような顔をして、
「少し前だけど、紀ちゃんから珍しく電話あってね。あなたのこと嬉しそうに話してた。東大
受けるんですって?」
僕の心配をさらに煽り立てるようなことを、平然と言ってきたので、忽ち僕は不機嫌になった。
あの、バカ、何人の人間に余計なことを喋っているんだ。
そのくせ、僕の知らないところでの噂を真に受けて、勝手に怒ってやがる。
「何を一人でぶつぶつ言ってんの、あなた?」
益美の訝りの声で我に返ったように、
「…で、一回だけ会ってお茶でも飲みゃいいんだね?」
と僕は不貞腐れた声で返した。
近日中に日をセットして、益美から僕に知らせが入る、ということで、今日の目的の話は、ほ
んの数分で済んだ。
目的外のほうが、何倍もの時間と労力を要したが、こちら側もいい思いをしたのだからと、僕
は自分の気持ちを納得させた。
益美からの夕食の誘いを、寒くなってくるからといって、僕が益美の家を出た時には、もう陽
も陰って薄闇になっていた。
木枯らしの吹く駅までの道と、電車の中でも、ずっと紀子の顔の色々な表情が、浮かんでは消
え、消えては浮かんだりしていた。
これまで、まだはっきりとは見たことのない、涙顔の紀子の顔が浮かんだ時、僕は電車の吊革
を握った手に思いきり力を込めていた…。
続く
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