…痛いっ、痛いっ、と夫人は声を張り上げてくるのだが、どこかにそれを待ち望んでいるよう
な響きが感じられたのだ。
白くかたちよく括れた腰や、長い髪が纏わりつく華奢な肩の動きは、ただ怖気のある痛みにう
ち震えているようには見えなかった。
僕が尻肉を叩くたびに、彼女が口から漏らす声に、何か喜悦のような余韻の混じったような余
韻が、僕の耳に響いてくるのだった。
唐突に僕の頭に浮かび出た顔があった。
奥多摩の祖母の顔だった。
思い出したのは、去年の夏休み、僕が初めて祖母の裸身を目にした時だ。
あの高明寺の、尼僧の綾子が住む住家の奥座敷で、祖母が白い裸身に赤い縄を打たれ、二人の
好奇な目をした見物客の前で、晒し者のように裸身のすべてを見られていたのだ。
思春期真っ盛りの僕は、そこまで過激な期待をして、盗み見したわけでは当然になかったので、
驚きと気持ちの昂ぶりは、大きなものはあったのは事実だった。
あの時の祖母の恥辱に堪えながらも、どこかに陶酔の混じったような顔や仕草と、今、朝食を
終えてまだ間もない、朝のこの時間帯に、四十前後も年下の僕のつらぬきを受けている百合子夫
人とまるで生き写しに見えてきていたのだ。
指の皮膚が吸い付くような、白く肌理の細かい肌の感触も、奥多摩の祖母と何一つ変わらなか
った。
そのことが頭にこびりついた時、僕の身体の中の血流が、急に下腹部の一箇所に集中し出して
きているのがわかった。
それから数分もしないうちに、唐突に湧き上がってきた熱い衝動に堪えきれず、不覚にも暴発
の憂き目に遭ってしまったのだ。
「奥多摩の田舎にね、俺の祖母が一人で暮らしてるんだよ」
百合子夫人の髪の甘い匂いを心地よく嗅ぎながら、僕は彼女からの問いかけや詮索を受けたわ
けでもなく独り言のように喋り出していた。
「そうなの…」
夫人はまるで子供の話でも聞くように小さく言った。
「その祖母とあんたがすごく似てるような気がして…それを思い出してた」
正直に僕は言った。
「あら、私のこと、眼中になかったのかしら?…ふふ、冗談よ。でも嬉しい」
「嬉しいってか?」
「どこかであなたと繋がってる、と思えるから。その、お祖母ちゃんってお幾つ?」
「六十四、だったかな?」
「世の中には、自分に似てる人って、一人か二人は必ずいるって言うから。あなたがそこまで言
うのだったら、会ってみたいわ」
「一緒に行こうか?」
僕自身も予期していなかった、言葉が出てしまっていた。
「ほんと?」
夫人が驚いたように顔を上げて、僕の目を見つめてきた。
「今は雪に埋もれた、何にもない田舎だけどね」
「嬉しい、ほんとに嬉しいわ。ね、早く日を決めて教えて」
一緒に行こうかと、予期せぬ言葉を言ってしまった時、僕の頭の中の別の回路が、とんでもない
淫猥な妄想を導き出していたのだが、そのことはさすがに夫人に面と向かっては話すことはできな
かった…。
続く
(筆者後記)
コロナ罹患でベッドに臥せっていました。
幸いにも軽度で五日ほどの療養で、また飽きもせず継続させていただきたいと
思いますので、よろしくお願い申し上げます。
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