多香子との待ち合わせ場所は、益美の家のある田園調布駅にした。
それを電話で告げると、多香子は少し訝ったような声で、
「えっ?」
と言って、もう一度聞き直してきたが、
「わかりました」
と少し緊張したような声で返してきた。
改札口で六時の待ち合わせだったので、三十分前に田園調布駅に行くと、多香子がもう先に
来ていたのには、僕も少し驚かされた。
丈の短い、真っ白な毛皮のコート姿で、駅舎の柱の陰で、手袋をした手に息を吹きかけるよ
うに口に当て、少し不安そうな顔で改札口のほうを見ていたが、僕の顔を発見すると、子供の
ように破顔一笑して、駆け寄ってきた。
モデルのような細身の体型で色白の、際立った綺麗さの多香子の顔を見て、何人かの乗降客
が思わず足を止めたり、目を瞬かせたりしているのが見えた。
「やあ」
気さくに手を上げて、多香子に近づくと、何とも言えない香水のようないい匂いが、僕の鼻
孔を柔らかく刺激してきた。
「駅が表と裏と二つあるでしょ。どちらが表でどちらが裏かわからなかったから、とても心
配だったけどよかったわ」
安堵したような声でそういって、無意識に僕の片方の手首を掴んでくるのは、どこか紀子に
似ていた。
僕も無意識を装って、多香子の白いコートを抱くようにして、駅舎の外に出た。
先に食事をということになって、駅前通りを歩き出したところで、
「俺もね、場所をここにしたのはいいんだけど、実をいうとほとんど来たことないんで、美
味しいレストランとか、あまり知らないんだ」
正直に告白すると、
「一緒に歩いて探しましょ。こうして歩けるだけで、私嬉しい」
陽は早くに沈み切っていて、冬の夜の冷気が降り注いできている感じだったが、多香子の香
水らしきいい匂いのせいもあって、あまり寒さを感じることなく、都心の繁華な駅前通りとは
趣のまるで違う通りを、僕と多香子は、まるで深い恋人同士のように歩いて、一軒の小洒落た
外装のレストランに入った。
場所柄か、やはり木目と煉瓦をうまくあしらった、ヨーロッパ風の凝った内装のレストラン
で、メニュー表も横文字ばかりだったので、オーダーは、こういうことには慣れている多香子
に全部任せた。
テーブルを前にして、真正面から多香子の色白の顔を見ると、どう見てもまだ二十歳前の年
齢とは思えないくらいに、大人びて見えた。
多香子が注文した料理が運ばれてきたが、そのどれ一つも僕には料理名がわからなかったが、
味は格別なものだった。
「ね、ワイン飲みましょうか?」
白い歯を妖艶に見せて、多香子が悪戯っぽい顔で言ってきた。
僕の身なりは青のダウンジャケットに、紺の丸首セーターにジーンズという、未成年そのま
まの出で立ちだったが、白地に明るい花柄模様の入ったワンピース姿の多香子は、誰が見ても
未成年には見えなかったので、
「俺はいいから、飲んだら?」
と返してやった。
外に出るとすっかりと夜の帳が降りていて、通りの店々のネオンの灯りが、一層明るく映え
て見えた。
益美の家の前まで来た時、多香子の目の表情が変わった。
ここまで歩いてくる道すがらで、自分の母親の大学時代からの長い親友の家で、たまたまそ
の人が仕事もあって、今朝から北海道に一泊の予定で出かけたので、自分に留守番の用明が下
ったので、多香子との会う約束を、ここで果たすことにしたと、僕は昼間、学校で考えた嘘を
臆面なく喋り続けたのだ。
玄関の鍵の置き場所は、前夜の益美との電話の時に聞いてあったので、そこから鍵を取り木
製の重厚な玄関戸を開け、僕は多香子を中へ招き入れた。
多香子を広い応接間に通すと、
「冷蔵庫に色々、飲み物入っているから、遠慮しないで出して飲んでいいよ。あ、俺にもミ
ネラル出してくれるかな」
僕は鷹揚な態度でソファに座り込んで、まだ戸惑いの表情でいる、多香子の気持ちを和らげ
るように言った。
「ここの住人って、女の人一人でね。僕も小さい頃からずっと来てて、今も月に一回は遊び
に来てるんだ」
他人の家に来た多香子は、僕の言葉を鵜呑みにするしかなく、ダイニングに行って冷蔵庫か
らミネラルウォーターのペットボトルを出し、ガラスコップに入れて、ソファのガラステーブ
ルに置いて、僕の横にまだ多少、不安げな表情のまま座り込んできた。
「多香子、もっと正直に話すね。…実を言うと、ここの住人の女の人と、俺の間には肉体関
係があるんだ。君には嫌われるかも知れないが、本当の俺を知ってほしくてな。ここの住人っ
て、年齢は四十五歳だ。二人の間に、さすがに愛とかいうそんなものはないが、その人は俺の
本性っていうか、人には話せない、嗜虐的な性格も理解してくれて、何をしても許してくれる
んだよ。こんな、たかだか十六の俺の言うことをだよ。とても君には話せないようなことまで、
俺はしている。そのことを君に知ってほしかった。結果的に、俺は君を騙し討ちにしたような
もんだ…」
ここを先途として、僕は半分酔ったような気持で、滔々と喋り続けた。
これで多香子が僕に幻滅を感じてくれたら、それはそれで彼女への仕置きにもなるのだと、
僕なりには達観していた。
僕が多香子が用意してくれたミネラルを、喋りながら飲み干すまで、彼女は真顔になって、
食い入るような眼差しで聞き入ってくれた。
僕の話を聞いて、多香子が幻滅と一緒に、嫌悪と憎悪の気持ちを抱いてくれて、そのまま
この家を出て行ってくれたら、それはそれで僕にとっては、一つの成果とも言えた。
言うならば、自らの恥部を晒して実を取るという、肉を切らして骨を切る的な発想だった
が、ある程度を喋り終えて、多香子の目を見た時、僕は瞬間的にある種の違和感を抱くこと
になった。
僕の横に座って、僕の顔を真横から見つめていた、彼女の目の黒く済み切った瞳から、何
かを思い詰めたような、異様な光が爛々と輝き出ていることに、僕はあるところで気づいた
のだ。
それは自らの恥辱の弁を振るう僕への、当然にあるべき蔑みや嫌悪や愚弄の思いなど何も
ない、夢想か瞑想に酔うような、自分もまるで予期していなかった、多香子の表情だった。
自分の目算の狂いに、僕は薄々ながら気づき出していたが、ここで気持ちを変えるわけに
はいかないと、心の中で奮起し、
「…嘘でも何でもなく、本当の俺はこんなだからね。すべての男子の憧れの君なんかと、
どこも釣り合いの取れるところなんてないのさ」
多少、捨て鉢な口調を織り交ぜて言って、改めて多香子に目を向けた。
多香子の切れ長の、深い憂愁を称えたような目は、僕に何をどう伝えようかと思案してい
る感じに見えた。
「こっちへ来てごらん」
僕はソファから立ち上がり、戸惑いの表情をしている多香子の手首を取って、引き連れる
ように応接間から廊下に出た。
廊下の突き当たりのドアを開けて、多香子の細い身体を押すように中に入れた。
白いクロス壁に覆われた、十畳ほどのベッドルームで、以前に僕も使ったことのある室だ。
多香子は怯えたような顔で僕を見つめてきたが、僕はかまうことなく、彼女の手を取った
まま、室の中にあるドアの前に行き、ドアノブを廻した。
天井からの小さい蛍光灯があるだけで、家具も何も置かれていない殺風景な狭い室だ。
壁の一面に広い窓があって、そこからさっき見た大きなベッドが丸見えだった。
僕も入ったことのある覗き部屋だ。
窓を指さし、
「マジックミラーだよ。向こうは鏡になっている」
口に手を当て慄きの表情を見せて、立ち竦んでいる多香子に、
「ここの住人はね、この室に人を招いて、あのベッドで男に抱かれるんだよ」
追い討ちをかけるように、僕は意地の悪い目でそういった。
かたちのいい赤い唇を歯で噛み締めながら、多香子は身を細めるようにして、僕の傍で立
ち竦んでいたが、その黒い瞳の中には、応接間で見た時と同じの、コミックなどでよく描か
れる燃え滾る炎のようなものが、まだ内在している感じに見え、僕は心の中で少し狼狽した
が、それは億尾にも出さず、
「この前は君の招きで軽井沢だった。言うなら、俺にはアウエーだったが、今日はホーム
だ。どうする?帰るんなら止めないよ」
また意地悪い目でそう言った。
「あ、あなたのことを、私に嫌いにならせようとしてるの?」
少し震え気味の声で、多香子が尋ねてきた。
「どうとろうと君の勝手だ」
「じゃ、ここで私を好きなようにしてください」
「強がってる?」
返答の代わりに、多香子は細い首を二度ほど振ってきた。
「わかった。乱暴なことは俺は嫌いだから、向こうのベッドへ行こう」
僕は自分から先に、狭い覗き部屋を出て、広いベッドにどっかりと座り込んだ。
おずおずと多香子が付いてきているのは、背中の気配でわかっていた。
「脱いだら?」
あっさりとした声で僕は言った。
僕は表情には出さず、自分の頭の中のモードを正から邪に切り替えていた。
為さぬ仲の益美のこの家を利用して、学校内で僕のことを、コソコソと素行調査を企てた細
野多香子に義憤を覚え、鉄槌をというのが、元々のきっかけになっていることを、僕は改めて
思い起こして、多香子に故意的に冷ややかな目を向けた。
僕なりの魂胆と思いやりで、最初にこの室に入った時、暖房のスイッチはぬかりなく入れて
あった。
ほんの何秒かの躊躇いだけで、多香子は怯えや慄きの表情は一切見せず、目を窓側のほうに
向けて、白地に赤い花柄模様のブラウスの、前ボタンを外しにかかってきた。
濃い小豆色のブラジャーの肩紐が、抜けるような白さの肌と一緒に見えてきた。
若気の至りで、僕の下半身は微かに微妙な反応を見せたが、顔だけは平静ぶって、黙ったま
まで多香子を凝視した。
白過ぎる肌にくっきりと浮き出たように、濃い小豆色のブラジャーがはっきりとかたちを現し、
乳房の膨らみの谷間がはっきりと見えた。
両方の肩から、ブラウスから滑るように落ちた。
腰の括れが際立っている分、胸の隆起がマネキン人形のように映えて見えた。
ブラジャーと対のショーツがパンティストッキングを透かせて、白い肌に小さな三角を、海に
浮かぶ小島のように見せていた。
「それでいいや。ここに寝て」
不良じみたような声で言って、僕はベッドの上の上掛け布団を乱暴に捲ってやった。
多香子は言葉の一つも発さず、僕の横をすり抜けるようにしてベッドに上がり込み、目を少し
閉じ加減にして、仰向けに横たわった。
多香子は多香子なりに気持ちを決めて、身を処しているという感じだった。
そこへ僕は痛烈な一言を、敢えて放った。
「そこで、オナニーして見せてよ」
これには、それまで冷静そうな顔をしていた多香子の気持ちが、大きくどよめいたようで、キ
ッとした視線を、すぐに僕にぶつけてきた。
「そ、そんなことしたこと…」
微かな怒りを滲ませたような、きつい眼差しで僕を睨みつけながら、多香子はくぐもった声で
言ってきた。
「言葉知ってるってことは、中味も知ってんじゃないのか?」
冷徹に僕は多香子に問いかけた。
多香子は反発の言葉に窮したというより、自身の決意を確認するかのような表情になり、何秒
か目を閉じて黙った。
「わかりました」
睫毛の長い目をきりりと開けて、多香子は短く応えてきた。
多香子の両手が背中のほうに廻り、ブラジャーのホックを外しにかかっていた。
ブラジャーの布地が緩み、お椀のように丸く膨らんで、弾けそうな弾力が目にもわかる、乳房
が跳ねるように露呈した。
多香子の片方の手が、露わになった乳房の膨らみに、細長い指を被せるように這わせてきた。
開いていた目が、羞恥を隠すように薄く閉じられていた。
赤いマニキュアをしている多香子の細い指が、乳房を下から救い上げるように這ってきていた。
多香子の真横で膝を崩している僕の耳に、彼女が小さく吐き漏らす息の音が聞こえてきている。
「お前の身体の匂い、好きだよ」
耳元に顔を近づけて、僕は生意気な声で囁いてやった。
その声に多香子は驚き、全身を若鮎のように跳ねさせてきた。
「ああっ…は、恥ずかしい」
多香子は、本当に恥ずかしそうに目を固く閉じ、白かった首筋と頬を、忽ち朱色に染めてきて
いた。
「下のほう、俺が脱がしてやるよ」
僕はそういうが早いか、多香子の剥き出しになっているパンティストッキングとショーツに両
手をかけ、そのまま一気に膝のところまで引き下ろしてやった。
多香子の慌てようは尋常ではなく、悲鳴のような声を何度も挙げたが、真からの憤怒の声では
なく、少し強引過ぎた僕の動きへの、驚きの声のようだった。
「悪かった、もう何もしないから、ゆっくりと自分で気分を昂めてくれ」
恫喝と労わりを織り交ぜて、僕は多香子に言葉をかけ、どちらが本当の僕なのかわからないよ
うにあしらった。
事前に考えていたことではない。
スポーツ選手が勝利した時、身体が勝手に動いたというのと同じで、僕も身体と口が思いも寄
らず勝手に動いただけだ。
多香子はベッドの上で全裸になっていた。
ベッドの白いシーツよりも、もっと鮮やかな白い裸身が、奇麗な流線を描いて横たわっていて、
それを見ているだけで、自然に気持ちが昂ってくる感じだった。
多香子は少し悲しげで恨めしそうな目で、横にいる僕を見つめてきていたが、僕は故意的に表
情のない目を返してやっただけだった。
多香子の片方の手が、おずおずとした動きで、自分の下腹部の漆黒の繊毛の下に伸びていた。
指のマニキュアが、柔らかそうな漆黒の茂みの下を、恐る恐るとまさぐるように、妖しげに蠢
めき出していた。
もう一方の手が、自分の二つの乳房を交互に行き来させたりして、やはりマニキュアの指先で、
小さなサクランボの粒のように、つんと尖った乳首を摘まみ取ったりしていた。
「ああっ…」
かたちよく細く尖った顎を、幾度も上下させていた多香子の赤い唇から、昂ったような声が一
定の間隔を置いて、熱い息と一緒に漏れ出してきていた。
室の暖房が効き出してきているせいか、多香子の額の辺りに汗が滲み出し、前髪の何本かが濡
れて絡んでいるのが見えた。
多香子は昂った声が大きく高まらないように、口を幾度も閉じたりしていたが、
「恥ずかしいか?」
と僕が聞いてやると、
「は、恥ずかしい」
と縋るように、僕を半閉じの目で見つめながら応えてきた。
「もっと俺を興奮させてくれよ。そんなもんじゃないだろ?」
また意地悪に僕は言った。
実際は自分のジーンズの中は、かなりの興奮状態になっていたのだが、僕はさらに多香子に過
激性を求めた。
「続けてろ」
そういって僕は傍らに小さく包まっていた、多香子の脱いだ小豆色のショーツを手に摘まみ取
って、自分の顔の前に翳した。
それに気づいた多香子の顔が見る間に朱色に染まり、
「い、いや…そ、そんなこと」
と泣き出しそうな声で言って、朱色に染まった顔を、幾度も横に振ってきた。
僕は多香子のその哀訴を無視して、小さく包まった布地を両手で拡げた。
濃い小豆色の布地の一点に、濡れそぼったような滲みが見えた。
濡れたその滲みを中心に、薄白い、やはり滲みが細い線状になって見えていた。
「は、恥ずかしいっ」
短く叫ぶように言って、多香子は乳房に置いていた手で顔を覆った。
そのことが多香子の気持ちを変にしたのか、それからの彼女の自慰行為は、僕も少し驚くくら
いに大胆になってきていた。
ベッドに仰向けになり、剥き出しの足を閉じ加減に、指を下腹部でまさぐっていたのが、次第
に足が開いてきていて、多香子のマニキュアの指先の動きが、はっきりと見えるようになってき
ていた。
額に汗を滲ませた、顔の表情も微妙に変化してきていて、輪郭のはっきりとした赤い唇を歪ま
せたり、口を半開きにしたりしてきていた。
多香子の身体と気持ちのどこかに、スイッチが入ったような感じになっていた。
さらに足が開き気味になっただけでなく、奇麗な流線型をした上半身も、どこかがむず痒くな
ったように、右左への動きが盛んになり出してきている。
喜悦の表情を露わにし出していた、多香子の身体が大きく動いてきた。
身体を俯せにして、両足の膝を立ててきたのだ。
四つん這いの姿勢で、かたちよく丸くて白い、臀部を突き上げるようにしてきた。
身体をずらせて、多香子の背後に廻ると、丸く張り切った尻肉と、恥ずかし気に小さく窄んで
いる尻穴の下に、少し色の濃い左右の肉襞が左右に開いて、水滴のような滑りを滴らせて、桜色
の柔肉が垣間見えた。
下のほうから、多香子の赤いマニキュアの指が、自らの股間を割るように伸びてきて、見え隠
れしている湿りを滲ませた柔肉を、妖しげに這うようになぞってきた。
くぐもったような喘ぎ声が、多香子の身体の前のほうから聞こえてきていた。
多香子のその声の妖艶さに刺激された僕は、自分の着ている衣服を忙しなげに脱ぎ出していた。
最後のトランクスを脱ぎ捨てた時、若い僕の下腹部のものは、当然に臨戦態勢は整っていたが、
気持ちをぐっと引き締めて、目だけを多香子の臀部に集中させた。
多香子のほうも気づかぬうちに、どこかからレッドゾーンに入っているようで、下腹部に伸ば
してきた、自分の手の動きに連動するように、喉の奥のほうから余韻の残る、喘ぎ声を漏らし続
けていた。
「ね、ねぇ、雄一さん…み、見て…た、多香子の恥ずかしいところ」
四つん這いのままの不自由な姿勢で、僕のほうに顔を向けながら、昂ったような声で多香子が
言ってきた。
「あ、ああ、見てるよ。経験はだいぶんしているようだな?」
「そ、そんなこと…」
「結構サマになっていて、慣れた手つきだ。お前みたいな美人がどうして?周りにイケメンが
何人もいたろうに」
「いや、言わないで。…だ、誰も、あ、あなたみたいに、私を熱くしてくれる人はいなかった
わ…あ、あなただけよ」
「それは光栄なこった。俺みたいなガキのどこがいいの?」
「…り、理由なんてないの。さ、最初にあなたの目を見た時と、最初に抱かれた時が…全部が
好きになったの」
話しながらも多香子の赤いマニキュアは、自らの股間の中心を撫でたり、なぞったりの欲情的
な動きを--- 繰り返していた。
と、多香子の指の這っている部分から、雨の降り始めの時のように、小さな水滴がシーツに零
れ落ちているのが、僕の目に入った。
目を凝らして見ると、多香子の爪のマニキュアが、水を浴びた後のように濡れ滴っているのが
はっきりと見えた。
濡れているのはマニキュアだけではない。
多香子の手の全部が、正しく水で洗った後のように濡れそぼっていた。
そのことに多香子自身も気づいたのか、顔をまた苦し気に僕のほうに向けて、
「ね、わ、私の…こ、こんな私のこと嫌いにならないで」
今にも泣き出しそうな声で訴えてきた。
「多香子がよけい好きになったよ」
そう言ってやると、多香子は白い歯を覗かせ、ひどく安堵したような表情を見せた。
僕のほうで、今日の多香子と会うことで、一つだけ考えていたことがあった。
僕のその卑猥な思惑の視線は、多香子の小さく窄んでいる薄白い尻穴に向いていた。
多香子が喘ぐ声を出すと、窄んだ尻穴がひくひくと、何かに慄くように震え動くのに、何気に
気づいた時、僕はふいに国語教師の俶子のことを思い出していた。
いつだったか、俶子の尻穴を犯した時のことが、何の予兆もなく浮かび出てきたのだ。
連鎖的にマヨネーズが、頭に思い浮かんだ。
「ちょっと待って」
慌てて僕はベッドから飛び降り、脱兎の如くダイニングに走った。
室に戻ると、多香子がベッドから怪訝そうな顔で聞いてきた。
「どうしたの?」
ダイニングに取りに行ったモノを、腰の後ろに隠して、
「何でもない」
と惚けてベッドに上がった。
幸いにというか、多香子はまだ四つん這いの姿勢だった。
少し水を差した気がしたので、僕のほうから、多香子の突き出された臀部に顔を近づけていき、
肉襞で見え隠れしている桜色の柔肉に、押し付けるようにして舌を突き出していった。
匂いのほとんどない多香子の滴りを、僕が舌で啜り取るようにしてやると、彼女は一際高い声
を挙げて、顔をベッドのシーツに埋め込んだ。
「多香子が欲しい」
少し大仰な声で僕はそういって、自分の姿勢を変え、多香子の臀部の前に膝を立てた。
僕の下腹部の若い欲望は、早くから臨戦態勢のままで、萎えてはいなかった。
「欲しい、あ、あなたが欲しいっ」
多香子も応戦の気持ちは充分のようだった。
多香子のその部分の、最初の柔らかな圧迫が、僕のものの先端を心地よく擽ってきて、続いて
の深い圧迫へ優しく誘ってくれている感じがした。
圧迫が圧迫でなくなり、代わりに天にも昇るような快感に、僕の全身は包まれた。
「ああっ…す、素敵っ」
「う、うむ…お、俺もだよ」
「き、気持ちいい…ほ、ほんとよ」
半分泣き声のような嗚咽を交えながら、多香子は頭を左右に何度も振り続けて、細い全身を悶
え震わせていた。
女優顔負けの若い美貌と、モデル顔負けのスタイルの良さと、女性としての欠点はどこにも見
当たらない多香子だったが、ことセックスに関しても、美貌ゆえの妖艶さも相俟って、非の打ち
どころがないと、半ば以上に僕は感心しながら、僕は腰の律動をたゆまなく続けていた。
それでも僕は、初期の目的を忘れてはおらず、冷蔵庫から持ってきて、布団の下に隠し置いた
マヨネーズを手に取って蓋を開けた。
「ああっ…そ、そこは!」
シーツに顔を埋めていた、多香子の頭が跳ねるように上がった。
僕の手の指が、多香子の尻穴を攻撃し出したのだ。
指先を何度か、小さく窄み切った穴に向けて、僕が擦りつけると、多香子は露骨に嫌悪の表情
で首を振って、僕を睨みつけてきた。
「い、いやっ、そ、そんなとこっ」
切れ長の澄んだ目に憤怒を露わにして、声を強く荒げて拒んできていた。
その視線を跳ね除けるように、つらぬいている腰の動きを強めてやると、多香子は高い声を挙
げて、喜悦の思いに顔を歪め、ベッドのシーツに汗に濡れた額を擦りつけてしまうのだった。
そのことの繰り返しが、何回か続いた。
多香子も僕の意図は、完全に看破しているはずだったが、拒みの態度は声こそ激しく大きかっ
たが、僕の淫猥な意向に強く逆らうのを、どこかで逡巡しているように見えた。
その気になれば、多香子から四つん這いの態勢を崩して、ベッドから逃げることも可能だった
が、彼女は僕の前に突き出した、剥き出しの臀部を左右に揺り動かすくらいの抗いしかしてきて
はいなかった。
「あっ…な、何をするの?…い、いや、こ、怖いっ」
僕が手の指に付けたマヨネーズを、強引に多香子の尻穴に塗り込めた時、彼女はまた一際高い
声を挙げて怯えと狼狽えを露わにした。
ここまで来たら、僕のほうも、身勝手な言い草だったが、引くに引けない気持ちになっていた
ので、マヨネーズを塗り込めた多香子の尻穴目がけて、固く屹立したままのものの先端を、強引
に当てがい、最初の一刺しをゆっくりと押し入れた。
「ああっ…い、痛い…痛いわっ」
多香子は本当に僕から逃げようと、膝を前に動かせてきたが、男の僕のほうが力は強く、彼女
の腰を両手でガッシと掴み取って、身体を前に押し進めた。
おそらく多香子のほうは僕以上だったと思うが、僕にも強烈な圧迫が襲ってきていて、微かに
気が怯む思いも頭を過ったのだが、そのまま僕は前への動きは止めなかった。
「ああっ…む、無理っ…お、お願い、ゆ、許してっ」
半泣きの声で多香子は、
「お、お願い…ゆ、雄一さん、う、動かないで…そのまま…ああっ」
と哀訴の言葉を繰り返してきた。
僕のほうへの刺激もかなりのもので、侵入が深くなればなるほど、きつく締めあげてくる圧迫
と同時に微熱を伴ったような摩擦感と、さらにもう一つ、独りよがり的かもわからないが、征服
感のようなものまでを、僕の全身と心に与えてきている気がした。
僕の腰が少し動くだけで、多香子のしなやかな流線をした身体が、震えるように動き、声がた
ゆまなく続いた。
四つん這いのままの、多香子の口から漏れ出る、声の質が微妙に変わり出してきたのは、それ
から間もなくの頃だった。
一定のリズム感で、僕は腰の律動を続けていた。
「ああ、雄一さん…わ、私」
シーツから顔を少し上げて、長い髪の頭を何度か揺らしながら、多香子が明らかにそれまでと
は少し声質の違う声で言ってきた。
「へ、変な気持ちに…え?…な、何?」
狼狽えた声なのは明白だった。
それまでは、痛い、の声が最初に出て、顔を苦痛に歪めていたのが、明らかに自分自身が自分
に戸惑い、驚いているような響きになっていた。
「あっ…ああ、ゆ、雄一さん、私…変な、変な気持ちに」
そういえば、あの俶子との時もそうだった、と僕は思い返していた。
最初は同じように、激痛に顔を歪めていた俶子が、途中から性に飢えた牝犬のようになって、
悶え狂い、国語教師とは思えないくらいの、はしたない言葉を吐き続けた。
「はぁ…あ、暑い、暑くなって来たわ、雄一さん…ああっ」
「ど、どこが暑い?」
「あ、あなたに、い、今、突かれているところ。…そ、そこが」
「どこなんだ?」
「あぁ…お、お尻、私のお尻が」
「あ、ああ、俺の…俺のものも燃え焦がされそうだよ」
「つ、突いて…雄一さん、わ、私を…こ、壊して」
多香子からの圧迫と摩擦の威力は、年齢の差もあるのかも知れなかったが、俶子の時よりも
かなり強い刺激で、僕にも襲ってきていた。
声で
学校に在籍中は、持って生まれた美貌と端正な容姿の良さで、マドンナとして学校中の憧憬の
的だった多香子を、今、こうしてはしたない姿勢をとらせて、正常とは違う箇所をつらぬき犯している
※元投稿はこちら >>