「俶子さん、こちらへちょっと」
慇懃な口調でそういって、正和が私の服の袖を強く引いてきた。
正和は座り込んだままの甥の孝に向けて、
「ちょっと話してくるから、待ってなさい」
と言い残して、廊下のほうではなく、間仕切りの襖戸のほうに私を連れ込んでいった。
灯りの点いていない八畳間だった。
この時の私の気持ちがどんなだったのか、こうして書き綴っている今でも、よくわから
ないでいる。
あったことだけを書くと、背中に廻した手で襖戸を閉めた正和は、何の言葉も発さず、
唐突に私を抱きしめてきた。
私が絶対に声を出したり、抵抗したりしないということを確信しているかのように、正
和は私の肩を抱いて、顔を近づけてきて、いきなり唇を塞いできた。
あまりに唐突なことで、私は思わず小さく呻いたが、そこで声を大きく荒げて逃げなか
ったことが、すでに私の敗北を示唆している動きだった。
そのまま、正和の舌が、私の歯の間を割って侵入してきた時、十年以上も前の、正和の煙草と、少
し酒臭さの入り混じった匂いが、私の頭の中に蘇ってきていた。
それを機に、私の頭の中に、自分の意思ではない何かが作用して、遠い昔に、正和から
受けた恥ずかしい凌辱の数々が、フラッシュバックのように一気に復元してきていた。
されるがままに、私は口の中に、正和の粘液の沁みついたような舌の愛撫を受け続けた。
おぞましいだけだったはずの、遠い昔の記憶が、正和の強引な舌の責めで、恥ずかしい
ことだったが、欲情の波のように、私の気持ちを昂らせにきていた。
もう一度、この人に愛されたい。
いや、そうではない。
もう一度、この人に口にも出せないような辱めを受けてみたい。
そういう感情が、私におどろおどろと芽生え出してきていた。
唇が離れ、正和が私の両頬を手で挟み付けるようにして、
「儂の甥っ子の孝と結婚しろ」
と低く諭すような声で言ってきた。
「は、はい…」
と私は力のない声で、正和の悪魔のような目に頷いていた。
「孝、喜べ。俶子さん、お前との結婚を改めて了解してくれたぞ。よかったな」
にこやかな顔で正和は、不安そうな顔で待つ甥に、快活な声を挙げて席に座った。
何も知らない孝は、安堵の表情を顔一杯に浮かべて、私に笑みを送ってきた。
その室に戻る少し前に、
「今夜、そうだな、九時に駅前のブルーホテルに来なさい。私の名前でリザーブしてお
く」
と正和に言われ、私はそれにも首を頷かせていた。
九時きっかりに、私はホテルの室のドアをノックした。
室はスイートルームというのか、広い間取りになっていて、ガラステーブルを挟んで応
接のソファが三方に置かれていて、その奥のほうにベッドが二つ並んでいた。
昔から時間の遅れには、正和は何故か厳しく、少しでも遅れると、折檻的な体罰を受け
るのを、私は過去に身を以って知っていた。
鞭で身体を叩かれたりするのだが、遅刻するとその回数が増えたり、浣腸をされ排便を
我慢させられる時間を延ばされたりするのだった。
ドアが内側から開き、出迎えに出てきたのは、六十代くらいの、背が少し高くほっそり
と痩せた女性だった。
私には勿論面識はなかった。
女性は一礼だけして、黙ったまま私を中に誘い、室の中央のソファに、バスローブ姿で
座り込んでいる正和の前に、私を誘導してくれた。
私を迎えに出た女性のほうも、バスローブ姿だったが、腰紐はなく、乳房と下腹部もほ
ぼ丸見えのいで立ちだった。
「おう、来たか。あ、先に紹介しておこう。こいつは佐野麻衣、俺の今日の奴隷だ。お
前もだが」
ウイスキーの入った片手に持ち、もう一方には細長い煙草を持って、背中をソファに向
けて反り返らせていた。
十年前と何一つ変わらない態度と素振りだった。
大病をして、長く入院生活を送ったという話を聞いていたのだが、小柄で恰幅のいい体
型はすっかり元に戻っているようで、額が広くなっているのと、顔に何本かの皴が目立つ
くらいで、声にもまだ張りがあるようだった。
「おい、麻衣。お前途中で俺をほったらかしだぞ」
正和にそう叱咤された、麻衣という細身の体型の女性が、私のすぐ前で、慌てた素振り
でバスローブを脱ぎ、股を広げて座り込んでいる、正和の前に傅くように座り込み、顔を
前に俯けていった。
何をしているのかは一目瞭然だった。
「俶子、お前も客じゃないんだぞ。着ているもの脱いで奉仕の準備せんかい」
呆然と立ち尽くしていた私は、正和の叱咤の声に、我に返ったようになり、
「は、はい…」
と返事して、正和の正面に立ったまま、ツーピースの上から順に拒もうともせず脱ぎ出
していた。
今日の昼間に、十数年ぶりに正和に会って、あっという間に唇を奪われてからの私は、
自分でも気づかないうちに、二十代に頃の自分に、気持ちも身体の中の血も、一気にタイ
ムスリップしてしまっていることに、この時もまだはっきりと気づかずにいたようだった。
私が衣服を脱いでいる間も、麻衣という女性は、細い背中を露わに晒して、正和の下腹
部への奉仕に一生懸命になっていた。
「この女はな、亭主の借金のカタに、俺の奴隷になって奉仕している。歳は六十六の婆
ァだが、歯が全部総入れ歯でな。それでフェラされると気持ちよくてな。それだけが取り
柄の女だが、元は都庁のエリート官僚でな。テレビにも直々出てたようだ。それが今はた
だの老いぼれの牝犬だ」
正和は私が聞いてもいないことを、煙草の煙を吹かせながら、得意満面な顔で到頭と喋
っていた。
「おお、十年ぶりくらいに見るが、女の色気も増して、いい身体になってるじゃないか。
楽しみなことだ。若い頃から眼鏡も、欲似合ってたな。久し振りに奉仕してもらおうか。
おい、お前はもういいからどいてろ」
麻衣という女性の身体を押し除けるようにして、全裸になった私を手招きしてきた。
この室を訪ねた時点で、いや、昼間に唇を奪われた時から、私は通常の思考を放棄し、
人間性まで喪失してしまっていて、正和の淫猥な手招きにも従順に応じた。
正和の年齢もあの頃から推測すると、六十代半ばくらいである。
正和の前に麻衣と同じように傅くと、麻衣の分泌した唾液を全体に浴びて、そのものは
どす黒く光って、上に向かって固く屹立していた。
口の中に正和のものを含み入れると、血流の音が聞こえそうなくらいに、脈々と波打っ
ていた。
顔に汗が滲み出すまで、私は一心不乱に奉仕を続けた。
十数年ぶりに会う、性のイロハも知らなかった自分を、普通とはまるで違う淫靡で淫猥
な世界へ引き摺り込んだ、憎悪しか抱かなかった、正和のはずなのに、私の身体と心は、
長い時間のブランクさえも超越して、じわりじわりと燃え上らせてきていた。
自分のこの十何年間は、一体、何だったのだろうと、ふと思ったが、それはほんの何秒
ほどの時間でしかなかった。
ソファに座り込んだ正和の腰の上に、私は彼に正面を向いて、跨り座らされていた。
私の下腹部に、正和の年齢を感じさせない屹立が、深く突き刺さっていた。
「どうだ、俶子。十何年ぶりの俺のチンボの味は?」
私の背中を抱きかかえながら、あの頃より広くなった額に汗を滲ませて、正和が息を荒
立てて問いかけてきた。
最初は頷きを返していただけの私だったが、それでは承服しない性癖を知っていた私は、
「ああっ…い、いいわ、とても」
と声を挙げて応え、自分で自分の腰を上下に上げ下げし、正和の首に腕を巻き付けてい
った。
と、正和にしがみついていた私の斜め後ろのほうから、小さなモーター音が聞こえてき
ている気がした。
その音に呼応するかのように、人の呻き声も耳に入ってきた。
首を動かせると、左斜め後ろの一人用のソファに、いつの間にか麻衣が座っていた。
裸身のままで、剥き出しの両足を折り曲げて、私と正和のほうに、自分の股間の漆黒の
茂みを露呈させていて、片手に電気マッサージ器を握っていた。
モーター音はそこからで、麻衣が自らの意思で、その機器の先端を、顕わになっている
漆黒の茂みの下に当てがっていた。
いずれ、正和の指示か意向なのかも知れなかったが、濃い化粧の顔は自らも昂っている
ように見えた。
「と、俶子。お前はいい。おマンコの締りも、昔のままだ。こ、これからの儂の楽しみ
がまた増えた」
満足そうな口ぶりで、正和は私の背中をさらに強く抱きしめてきた。
ああ、この人は、言葉遣いも粗野で粗雑だったと、昔の記憶を思い出した。
興奮するしないに関係なく、男性器や女性器を、ストレートな淫語で喋ってくるのが常
だったのだ。
正和に絶頂が近づいてきているのか、私を抱きしめる腕の力が、私が息苦しくなるくら
いに強まってきていた。
そのまま正和は、私の背中の骨が折れそうになるくらいに、強く抱きしめてきて、動物
の咆哮のような声を挙げて、絶頂に達していた。
私のほうも、正和との過去の恥辱の遍歴が幾つも蘇ってきたりして、自分で自分を淫靡
方向へ思いを巡らせ、憎悪しかないはずの男の首に手を強く巻き付けていっていた。
「甥っ子の孝と結婚しても、教師を続けるらしいな。ま、それはいいだろ。儂ももうこ
の歳だ。昔のような野暮は言わんが、儂が呼びつけた時には、必ず来るんだぞ」
応接のソファは三方にあって、向かい合っているのが一人掛けが二つ並んで、もう一つ
が長いソファになっていて、正和と私がガラステーブルを挟んで、向かい合って座ってい
た。
麻衣という女性がまた、正和の足の間に傅いていて、頭を頻りに前に動かし続けていた。
私も麻衣も全裸のままで、正和だけがバスローブ姿で、ウイスキーグラスを片手に持っ
て、赤らんだ顔に満足げな表情を浮かべて、私のほうに特徴のある丸い大きな目を、私に
向けてきていた。
もう一方の手で、麻衣の頭を撫でつけながら、
「こいつはな、五年ほど前には、女ながら都庁の都市整備局の副局長のポストにいて、
一橋出の有能なエリート官僚をしていてな。儂らが進めていた羽田空港周辺の再開発整備
に、国土法とか建築基準法とかの法律をひけらかしてきて、横槍ばかりつけてきていた、
開発者の儂らにとっては何かと迷惑千万な役人だったんだが…」
正和はそこで一息つくように、ウイスキーグラスを一気に呷って、また視線を私の向け
てきた。
話を聞かされながら、私は少しうんざりした思いを抱きかけていた。
十何年か前の正和も饒舌家で、話しに興が乗ると、講釈師のようにくどくどと喋り続け
るのが癖だったのを思い出したのだ。
その大抵が、どこの女を犯して、どう甚振ったとか、誰を抱いてどう貶めたとかという
くだらない、自身の自慢めいた話を、延々と聞かせてくるのだった。
陰険で淫猥な性志向と、喋り出すと相手のことなど考えもせずに、止めどなくなるのが
正和の特徴だった。
一言の声も発さず、一心不乱に正和の下腹部への、口と舌での愛撫を続けている麻衣の
頭を、手で軽く叩きながら、また口を動かせ出した。
「それが、こいつの亭主っていうのが、大手の証券会社に勤める、やはり、エリート
サラリーマンだったんだが、何をとち狂ったのか、会社の金を流用して先物取引に手を出
し、億単位の穴を出し、とどのつまりに闇金融の餌食になってしまってな。当然、その嫁
さんであるエリート官僚にも、当然に火の粉が飛んだわけだ…」
正和の実も花もない、くだらない話を、私なりに要約して小説風に描写すると、概ねは
以下の通りになる。
…何枚かの借用証書の合計額は、一億七千万円を少し超えていた。
借り受け人はすべて同じ名前で、例の都庁の都市整備局の副局長の夫になっている。
その借用証書全部が、社会の裏道を幾通りも通って、不動産会社副社長の横井正和の手
元に集まってきていた。
自分のデスクの上に、束になった十枚以上の借用書を見て、横井は自分のデスクの前で、
直立不動で立っている黒のスーツ姿の男に向けて、
「…で、後の段取りは?」
と問い質した。
四十代半ばくらいの、でっぷりとした体格の男が、
「はい、今夜の七時に赤坂の料亭に、ターゲットのエリート副局長が、亭主と一緒に来
る手配になってます。五分か十分ほど待たして副社長に入ってもらいます」
「そうか。その後の手配は?…そこが大事だぞ」
「はい、亭主のほうは先に返し、エリート局長さんは、例のホストクラブへ案内する手
筈になってます」
「ホストは、この前の女性都議会議員の時に使った奴だな?」
「はい、ぬかりなく」
その夜の七時五分過ぎに、横井は赤坂の高級料亭の一室に入った。
薄い栗毛色に染めてボブヘアの、上品そうな白のツーピースを着た五十代くらいの女と、
髪を七三に分けた四十代半ばに見える、グレーのスーツ姿の男が、料理の並び置かれた座
卓に、二人とも身を竦めるようにして座っていた。
気弱そうな、七三の男のほうは、恐縮しきりの表情で身体を縮込ませていたが、仕立て
の良さそうな白のスーツ姿の女のほうは、毅然と細い背筋を伸ばして、気品の良さと教養
の高さを、それとなさげに鼓舞するような厳しい視線で座っていた。
筋の通った高い鼻を上に向けて顔を上げてきた、白のスーツ姿の色白の彫りの深い顔立
ちをした女が、戸を開けて室に入ってきた横井の顔を見て、驚きを露わにしたような目で
見饐えてきていた。
見識のある顔に思わぬ場所で、予期せずに遭遇してしまったという顔で、赤く塗られた
唇が半開きの状態になっていた。
「やあ、これはこれは、副局長さんで。こんなところでお会いできますとは」
横井はまるで政治家のそれのように、にこやかな顔で片手を上げて、鼠色のダブルのス
ーツ姿で、黒のスーツ姿の秘書らしき男を一人伴って、そら惚けたように言って、佐野夫
婦に向かい合うように座り込んできた。
急にそわそわし出したのは、妻の麻衣のほうだったが、横井に付き添ってきた男が、
「ご主人の負債の肩代わりを、当社副社長の横井が、全部肩代わりをしています。ここ
で席をお立ちになったら、明日の日から、私どもがすぐに取り立てに動きます。都庁舎ま
でも足を運びますよ」
と慇懃無礼な口調で、佐野夫婦に向かって突きつけるように言ってきた。
その後の、この如何にも不釣り合いさが明瞭な、奇妙な組み合わせの会談は、その秘書
らしき男が仲介的な立場になって、一方的に進行し、高額負債の弱みのある佐野夫婦に反
論の余地はほとんどなく、三十分ほどであっけなく終わった。
その間、副社長の横井はほとんど口を開くことなく、散会になったのだが、秘書らしき
男の提案で、二次会にという運びになり、夫婦は別々の場所に案内するという段取りでこ
とは進み、夫のほうは赤坂の高級クラブへ、妻は銀座の高級ホストクラブへ行くという変
則的な二次会になった。
すべては横井の秘書らしき男の差配で、佐野夫婦はその二次会の誘いを固辞したのだが、
一億七千万円の負債の重みには勝てはしなかった。
妻で都庁都市整備局の副局長の麻衣は、羽田の都市再開発計画への手心を約束させられて
しまっていた。
完全な敗北会談の後、横井の配下の男二人に連れられて、麻衣は銀座の高級ホストクラブ
へ、嫌々な気持ちのまま連れられて行ったのだ。
それから二時間ほどが経過した。
麻衣はベッドの上にいた。
髪の長い、自分よりもはるかに若い男に抱かれていた。
酒の強烈な酔いのせいもあって、麻衣にわかるのはそれだけで、その酒の酔いとはまるで
違う感覚に、五十六歳の彼女の身体は溺れ切って染まっていた。
全裸にされた身体の上に、長髪の男が覆い被さってきていて、激しいつらぬきを受けてい
たのだ。
「ああっ…わ、私…ど、どうして?」
麻衣の顔の真上にいる、整った顔立ちの若い男の顔に、ぼんやりとした記憶があった。
ホストクラブの店に入った時から、ずっと麻衣の傍に張り付いてきていて、確か、名前を
ヒカルとか言っていた。
三十にはまだ年齢がいっていない感じで、長く伸ばした髪を、明るい金髪に染めていた。
それくらいの知識しか持っていない、若者のような男に、自分がどうして裸にされ抱かれ
ているのかわからないまま、身体の内のほうから、まるで思ってもいなかった女としての官
能の刺激が、初めは夢現のようだったのが、今ははっきりとした体感で、麻衣の全身に襲い
かかってきていた。
麻衣はもうこの半 年近くも、お互いの仕事の多忙さもあって、夫婦としての夫との身体
の接触は皆無の状態だった。
それがどこか知らない室のベッドの上で、今夜、会ったばかりの、自分よりもはるかに年
の若い男に、一糸まとわぬ身で組み伏せられ、すでに官能の坩堝近くにまで追い込まれてし
まっていることに、自分自身が大きな驚きの中にいたのだった。
剥き出しの下腹部に、熱く煮え滾ったようなものをつらぬかれながら、ヒカルという若い
男の顔が、自分の顔の真上近くに迫ってきていた。
ヒカルの濡れたような唇が、磁石のように自分の唇に重なってきた時、何の抗いの気持ち
もなく五十代半ばの麻衣の歯は開き、押し入ってきた相手の舌を許容していた。
自分が誰なのかもわからなくなっていた。
飢えた獣同士が貪り合うような、唇での気持ちの交歓と同時に、ヒカルの片手が麻衣の、
それほどの豊かさはないが、艶やかな感触の乳房をなでつけるように揉みしだいていた。
この少し後、すでに自分をも忘れ去ろうとしているほどに、昂っている麻衣の耳には入
らなかったが、少し前に室のドアが開き、鼠色のスーツ姿の男が中に入ってきていた。
横井正和だった。
「ああっ…こ、こんなの…は、初めて、初めてよ」
ベッドの上で麻衣は、若いヒカルの腕に手をしがみつかせて、すでに忘我の境地近くま
で舞い上がっているような、高い喘ぎの声を漏らし続けていた。
その途中で、身体の上にいたはずの、ヒカルの身体が突如として消えたような感覚に、
麻衣はふと気づいた。
心地よい官能の疼きの中にいた麻衣が、不審げに目を薄く開けると、ベッドの横で、二
人の男が裸で抱き合っているのが朧に見えた。
二人は抱き合って、唇を重ね、貪り合うよう吸い合っていた。
細く締まった背中を見せて入っるのは、さっきまで自分の傍にいたヒカルだというのが
わかったが、相手の男の顔が見えなかった。
訝りの目をもう一度凝らして見ると、ヒカルを抱きしめているのは、不動産会社副社長
の横井だった。
自分の目の前で、男同士で、しかも、ついさっきまで自分を抱いていたヒカルと、横井
という組み合わせに、麻衣はわけのわからない気持ちになり、思わず言葉を失くしていた。
「こういうことですよ、副局長さん」
男二人の身体が離れた時、腹の贅肉のかなり出ている横井が、ベッドにどっかりと座り
込んできて、慄きの表情を濃くしている麻衣の顔に向けて、不敵そうな笑みを浮かべなが
らい言ってきた。
「な、何を…ど、どうしてあなたが」
口に手を当てながら震えた声で、麻衣は横井の顔を見つめていた。
横井の背後に寄添うように座ってきた、ヒカルが、
「麻衣、これからは三人で楽しむんだよ」
と艶めかし気な眼差しで言ってきた。
嫌も応もないまま、横井に両足の間に入り込まれ、麻衣はいきなりのつらぬきを受けた。
「ああっ…」
高い声を挙げた麻衣の顔の前に、ヒカルが素早く動いてきていて、膝を折りながら、自
分の下腹部の屹立したままのものを、彼女の口の前に突き出してきた。
ヒカルの時とは違う感覚の刺激が、麻衣の下腹部に、絞り出した果物の汁が沁み出るよ
うに湧き上がってきていて、すぐ鼻先に若いヒカルのいきり立ったままのものが、何かを
督促するように蠢いていた。
麻衣の手がヒカルのものに触れたかと思うと同時に、口紅の少し剥げた彼女の唇が大き
く開いて、若い屹立を中深くにまで呑み込んでいった。
ずっと高い教養レベルと、気品を重んじる世界で生きてきて、高いレベルでの官僚競争
の中で、女性でありながら、トップに最も近い位置まで昇り詰めてきた麻衣には、まるで
思いつきもしない、男女の淫靡で倒錯的な世界へ、正しく何の予備知識もないまま引き摺
り込まれた彼女だったが、女としての本能の蘇りは早く、賢明な理性の心の湧き出る暇も
なかった。
横井の麻衣へのつらぬきが終わって、休む間もなくヒカルが責め立ての態勢をとり、横
井が彼女の顔の前に来た時に、
「こんな場で副局長は呼びにくいな。確か麻衣っていう名前だったか?…今からは麻衣
と呼ぼう、いいな?」
と両手で麻衣の、それほどに膨らみのない乳房を揉みし抱きながら言った。
身体の下からの、ヒカルの激しいつらぬきを受け、横井のものを口に含みながら、麻衣
は顎の細い顔を何度も頷かせていた。
「今日から、あんたはもう儂の奴隷になるんだ、いいな」
横井からのその声にも、真由美は幾度も首を縦に振って従順に応えた。
敗北は明白だった。
二人の男たちの飽くなき責めを長く受け続け、麻衣はこの一夜で、これまでの栄光と誉
れしかなかった人生を、忽ちにして崩壊させてしまっていた。
その代償として、麻衣が受け取ったのは、これまでただの一度も感じることのなかった、
女としての性の深過ぎる喜悦と昂ぶりだった。
一頻りの行為が済んで、横井がベッドの横の椅子に座り込んで、缶ビールを旨そうに喉
を鳴らして飲んでいた。
ベッドには、二人の男のつらぬきと、執拗で丹念な愛撫を一人で受け続けた麻衣と、金
髪のヒカルが身体を密着させて座っていた。
背の高いヒカルが、麻衣を背後から抱え込むようにして抱きながら、横井と正面に向き
合っていた。
麻衣の細い両足が、ヒカルの腕でがっしりと掴み取られていて、彼女の股間が横井には
丸見えの態勢だった。
親が幼児に排尿させる姿勢と同じだ。
ヒカルの顎の下に麻衣の顔があり、男二人との倒錯的な交わりで、性も根も使い果たし
たというような顔を力なく項垂れさせていた。
三人はともに全裸のままだった。
「ほら、さっき教えたように、社長の前でちゃんと報告するんだ」
背後から、ヒカルが言い諭すように言った。
首を二度、三度、嫌々をするように振っていた麻衣だったが、ヒカルの執拗な督促の声
に諦めて、覚悟したのか、
「わ、私の…こ、この、お…おマンコを、こ、これからも…あなたの…お、おチンポで
可愛がってください」
と恥ずかし気に顔を歪めながら言ってきた。
麻衣にとって、生まれてからただの一度も、口に出して言ったことのない淫語だった。
「そうだな、これから儂のために一生懸命働いてくれたらな」
缶ビールの最後を飲み干して、横井は椅子から立ち上がり、そそくさと帰り支度をした
後、
「ひかる、今夜は朝までこの女を寝かせるんじゃないぞ」
と捨て台詞を残して、室を出て行った。
そしてヒカルは、忠実に横井の命令に従った。
数日後の都庁で開かれた、羽田再開発計画の協議は、それまでの不採択の流れを一変さ
せて、承認を前提とした再協議をという、副局長のツルの一声で散会になったということ
だった…。
続く
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