赤い縄を見て、突如として湧き出た、僕の淫猥な気持ちを察したかのように、多香子が、薄い
ピンクのネグリジェ姿で、室に入ってきたのは、僕がベッドに潜り込んで二十分ほどしてからだ
った。
ネグリジェは薄いシースルーの布地になっていて、目を凝らして見ると、多香子の細い身体の
線が朧に透けて見えるという、悩殺的なデザインにで、明らかに僕という男を意識してのいで立
ちに見えた。
風呂上がりのせいもあるのか、肌は艶々としていて、ほんのりと上気した顔で、
「遅くなってごめんなさい」
と目を俯けたままベッドに近づいてきた。
昼間とは違う、少し赤さが際立つ口紅を塗っているのがわかった。
多香子一人の入室しただけで、木目だらけ平易な意匠が目立つ室の雰囲気が、少し変わって見
えたのと、情欲をそそらせるような妖艶な匂いが、室の中に一気に漂っていた。
「また、俺に抱いて欲しいのか?」
内面の興奮を抑えながら、大人じみた声で僕が言うと、
「は、はい…」
と上気した顔をさらに朱色に染めて、小さく頷いて、潤んだような視線を僕に向けてきた。
「昼間は昼間だ。夜はお前の本性が知りたい」
ベッドに胡坐座りをしながら、目の前で恐々とした目を、虚ろに泳がしながら立ち竦んでいる
多香子に、
「気づいてるんだろ?自分の恥ずかしい性分を」
追い討ちをかけるように、僕は続けていった。
「な、何を…ですか?」
「普通のセックスでは物足りないんだろ?」
「…………」
「俺もそうだからわかるんだよ、お前の性癖」
「…………」
「昼間のは余興みたいなもんで、もっと恥ずかしいことして欲しいんだろ?お前」
そういって僕は身体を前屈みにして、立ち竦んでいるだけの、多香子の手首を掴み取って、手
前に思いきり引き寄せた。
崩れるようにして、多香子の細い身体が、僕の胸に飛び込んできた。
「俺もさ、まだこんなに若いくせに、普通のセックスでは物足りなくて、SMって言うの?そう
いうのに嵌ってしまってるんだよ。だから、最初にお前に会って話した時、何となくわかった」
例によって、自分の意思に関わらず、裏モードに入りかけている僕の口から、当てずっぽう的
な推測も含めた、下卑た話題をちらつかせ、多香子の本心というか、胸の内を開かせることに専
念した。
多香子を胸の中に抱きすくめながら、
「あそこにある縄で、多香子を縛りたいって、俺は今、思ってるんだけどな?」
手で室の隅のプラスチックボックスを指しながら、多香子の顔を覗き下ろすように見つめた。
ここで慌ててはいけなかったが、多香子の気持ちというか、胸の内を開かせるのに、
「俺の言ってるのを思い込みだというなら、俺は違う室で寝るわ」
と少しばかりのブラフを込めて、もう一度、多香子の顔を見下ろした。
モジモジとした少しの間があった後、
「あ、あなたを…し、信じていいの?」
と多香子は自分から顔を上げて、僕の目を窺い見てきた。
「決めるのはお前だよ、俺じゃない」
突き放すように僕が言うと、赤い口紅が際立つ白い顔を、こくりと小さく頷かせてきた。
今度はこちらが少し戸惑う番だった。
去年の夏休みではないが、緊縛された女性を見たのは何度かあるが、自分自身が女性を縛る
のは、僕も初めてのことなのだ。
ああ、そういえば、有閑マダムの益美が、プロの縄師を呼んで、自分を縛らせて男の凌辱を
受けたのを、目の当たりにしたことはあったが、その時の縄師の手練手管など、今、僕が憶え
ているはずがなかった。
それでも、自分でも体験してみたいという、願望は僕の頭の中にはあったので、若者の特権
でもある、なるようになれ、気持ちで、僕は多香子から離れ、プラスチックボックスのほうに
足を向け、縄の束を取り出し、またベッドに戻った。
多香子の悩殺的なネグリジェを脱がすと、彼女はブラジャーもショーツも身に付けてはいな
かった。
「いい身体だ」
正直な自分の気持ちを言って、これまでに実際に見た薄くて少ない記憶を辿るようにして、
最初に多香子の両手首を、彼女の背中に廻して緊縛を開始した。
後ろ手に多香子の手首を縛り上げてから、縄を彼女の胸に這わして、乳房を上と下から
挟み込むようにして、幾重にもロープを巻き付けた。
膨らみの豊かな多香子の乳房が、歪なかたちで縄に挟まれている。
多香子は僕にされるがままで、おし黙ったままで口を噤んでいた。
室の暖房の効きもあって、僕は汗だく状態になっていたが、足のほうは、僕の頭にこれとい
うイメージも図柄も湧かなかったので、稚拙な作業はそこで終えた。
多香子はベッドの中央で正座して、その前に胡坐座りをしながら、パジャマの袖で流れ出る
汗を拭いている僕とは、さすがに視線は合わしてはこなかった。
「こういう体験は?」
という僕からの問いかけに、俯いた顔を多香子は横に振ってきた。
「俺が言ったような自分を知ったのはいつ?」
「…………」
「そんな自分を知ったのは?」
もう一度僕が尋ねると、多香子は少しの間を置いて、
「ち、中学の一年…」
苦しそうな表情で、多香子は応えてきた。
「何かあったな?」
「…………」
「言いたくなかったらいいけど」
「し、知らない男二人に拉致されて…」
「暴行された?」
多香子の鹿のように細い首が、悲し気にこくりと折れた。
祖母の昔の話を、僕は条件反射的に思い起こしていた。
美しい人は、どうしてこうも同じような悲しい運命を背負わされるのだろう?
理由は簡単だ。
美しい女性は、この世に生まれた時から、他人にはない美貌という天賦の才を、望む望
まないに拘わらずに授けられていて、幼少の頃から異性の目を引いたり、驚きや衝撃を、
自分自身にはさらさらに引けらかす気持ちはなくても、与えてしまうからだった。
勿論、心と心の繋がりというものも、当然に数限りなくあって、さらに運とか縁という
ものが重なり、男性と女性は結ばれたり離れたりする。
祖母の若い時の写真を見ても、孫の僕でも目を見張るほどの美しさだった。
赤い色の縄が多香子の白い裸身に、歪に喰い込んだ、目の前の妖艶な光景に、僕は大い
なる未練を残したが、思考の方向転換を僕は急に思いつき、四苦八苦して拵えた緊縛を、
自らの手で解きにかかった。
少し驚いたような目で、多香子が僕を見つめてきていたが、
「いいんだ」
という表情を浮かべて、彼女の身体から縄を解き外した。
僕が先にベッドに寝転がり、多香子のために柔らかな羽毛の掛け布団を、彼女を誘うよ
うに手で捲ってやった。
「気分が変わった。多香子の美しいその声を長く聞きたいから、昔の話聞かせてくれ」
ベッドに横たわり、顔と顔を向き合わせた時、出来るだけ気さくで鷹揚な笑顔を見せて、
多香子に促しの視線を投げた。
ここであの紀子だと、
「雄ちゃんは、いつも身勝手で、自分の思った通りにしか動かないし、言わない」
と一喝の声が飛んでくるのだが、まだ一、二回しか言葉を交わしていない、多香子には
遠慮があるようだった。
多香子の詰まり詰まりしながらの、おぞましい告白と悲運の吐露がそこから、暫くの間、続
いたのだった。
僕なりの多少の脚色や、想像も入っているが、概ね、以下の通りが、多香子の告白内容だっ
た。
多香子が中学一年の時で、夏休みのある日の夕刻、図書館からの帰り道の途中で、いきなり
二人組の男たちに拉致された。
歩道を一人で歩いていた多香子の横に、黒色のワゴン車が止まってきて、後部座席のドアが
開いて、夏なのに黒い目出し帽を被った男が降りてきて、あっという間に車の中に引き摺り込
まれた。
声を出そうとした口に、黒ずくめの男が多香子の口に、ガムテープを貼ってきて、紐のよう
なもので手首を括られ、目はアイマスクで覆い隠されてしまった。
「誘拐?」
十三歳なりの推測で、多香子はそう思って背筋を寒くした。
父は大手商社の副社長で、祖父はそこの相談役になっていて、田園調布に相当な敷地面積の
大邸宅がある、多香子は所謂、裕福な家庭の子だった。
ワゴン車は随分と長い間走ってから、どこかで止まった。
それまで耳に入っていた、外の車の音が聞こえなくなっていた。
目隠しをされているので、そこがどこなのか、多香子にはまるでわからなかったが、車を降
ろされて少し歩いたところで、戸の開くような音がして、多香子はその中に、一人の男に肩を
掴まれて中に入れられた。
二人組の男に間違いなかったが、車の中でも二人は会話らしい会話は、多香子を気にしてか、
言葉を交わすことは一度もなかった。
どこかの住宅のようで、人が住んでいないのか、埃臭っぽくて湿った空気と、饐えたような
匂いが多香子の鼻に容赦なく入ってきて、何度も咽返させられた。
靴を脱がされないまま、多香子は家の中に上がらせられ、やはり饐えたような異臭のする、
畳の室に入れられ、床の間の柱みたいなところに、座ったままで縄で男の一人に、雁字搦めに
括りつけられた。
貼られたガムテープの中で、多香子は恐怖心もあって、うう、うう、と声にならない呻き声
を挙げるのだったが、男たちは意にも介さず、多香子一人を室に残して、外に出て行った。
時間もどれくらい経ったのかわからなかったが、かなり長い時間、多香子は畳の室の柱の下
で放置された。
誘拐されたとして、身代金の受け渡しが済んだ後、私はどうなるのだろう?
映画やテレビのドラマでは、証人隠滅のため、大抵は犯人に無残に殺されるのが圧倒的に多
いのだが、自分も同じ運命を辿ることになるのかも知れないという、恐怖心と怯えと、慄きは、
十三歳の清廉な少女には、堪えがたい苦しみだった。
もう一つ、多香子は口には出せない、恥辱的な災禍のようなものに、全身を見舞われていた。
多香子自身も思ってもいなかった、尿意がある時点から、不覚にも湧き出していたのだ。
始めは軽く考えていたのだが、アイマスクをされたままの暗い闇の中で、相当に長い時間、
放置されている間に、尿意は鎮まることなく、さらに強く、多香子の下半身に襲いかかってき
ていた。
室内の噎せ返るような暑さもあったが、多香子の白い額や首筋には脂汗に近い水滴が浮かび
出て、幾筋もの線状になって下に垂れ落ちていた。
もう自分では堪えられない限界点に達した時、人が家の中に入ってくる気配があった。
その人が誰なのかは、多香子にはもうどうでもよかった。
室に入ってきたのは一人で、多香子を拉致した男のようだった。
多香子は汗の滴り出た顔を、激しく左右に振って、声にならない呻き声で、相手に必死で訴
える動作を続けた。
多香子のあまりの必死の形相に、男が気圧されたように寄ってきて、口のガムテープを外し
てきたので、多香子はもう恥も外聞もない声で、
「お、おトイレに行かせてくださいっ」
と縋るように、男に訴えた。
もう後一分も猶予のない状況で、多香子は喚くような声で男に哀願し、柱の縄を解かれ、ア
イマスクと手首の拘束はそのままで、家の外に連れ出された。
草と土の感触が足にあるところで、多香子はいきなりスカートの中に手を入れられ、穿いて
いたショーツを男の手で、足首まで一気に引き下ろされた。
ショーツを多香子の足首から抜いた男が、いきなり彼女を背後から抱き締めてきて、多香子
の両太腿を手でわし掴んできて、そのまま背後から抱き上げてきた。
背後の男の腰が中腰になり、多香子は幼児が親に抱えられて排尿する姿勢をとらされた。
屈辱以外にはない恥ずかしい態勢だったが、その時の多香子にそれを斟酌する余裕は何秒も
なかった。
土と草に激しい水滴がかかる音がした。
多香子の汗まみれの顔の目に、緊張が解き放たれた時の涙が滲み出ていた。
長く堪え忍んでいた分だけ、多香子の放尿は中々止まらなかった。
多香子を後ろから抱き上げていた男は、彼女の放尿が終わってからもずっと寡黙を保ってい
て、多香子をまた家の中へ引き連れ、同じ柱に括りつけてきた。
ガムテープもまた口に貼られた。
前と違ったのは、多香子の両足が前に広げて、投げ出されていることだった。
脱がされたショーツを穿かされていないことに、多香子は気づいていた。
多香子の下半身を隠すのは、スカート一つだけだった。
柱への縄の拘束が前よりもきつくなっていたので、身体の動きは何一つできなくなっていた。
男が拘束状態の多香子の多香子の前に、まだいるのが音と気配で分かった。
その男が急にどたどたと動き出した。
多香子が無意識に身を縮めると、前に投げ出された足首に、男の手が触れてきているのがわ
かった。
何か棒のようなものが足首に添わされ、それを縄で括られているようだった。
もう一方の足首にも同じ託し挙げられて果的に多香子の足の自由が損なわれたことになった。
慄きの予感が、十三歳の多香子の全身を過った。
スカートが人の手で捲り上げられるのがわかった。
スカートはかなり上までたくし上げられて、自分の股間の奥までが露呈されているのを多香
子は気づかされ、さらに大きな呻き声を挙げたが、救いの声は何一つ耳には入ってこなかった。
前にいる男の気配が静まっていた。
見られていると、少女ながら多香子は直感していた。
恥辱と屈辱の思いを打ち消そうとして、多香子は違う方向へ思考を巡らそうとした。
徒労だった。
思考を変えようとすればするほど、男に見られているというおぞましい感覚が、まだ少女の
身体の多香子の意識を、これまで考えたこともないような、およそ少女らしくない淫猥で熱い
思いがどこからともなく湧き出てきているのを感じ、多香子は心の中をひどく狼狽させていた。
多香子の初めての生理は、小学校五年になってすぐのことで、身体の発育も他の同級生たち
よりは、一つ上をいっている感じだった。
勿論、男性経験はまだなくて、性に関する興味は、人前では微塵も見せなかったが、父が若
い頃に読んだ書籍の中から、団鬼六とかいう作家の書いた本を、偶然に見つけ出し貪り読んだ
ことが数知れずあった。
それでも直接的に、自分がこのような非道を受けるとは、多香子は考えてもいなかったのだ
が、目隠しをされたまま、自分の一番恥ずかしいところを、しかも得体の知れない男に見られ
ていることで、内心にじわりと湧き上がった興奮に、多香子はただ驚愕し、狼狽えるしかなか
った。
突如、身体に強い電流が走ったような感覚に、多香子は襲われた。
これまで誰にも見せたことも、触らせたこともない、自分の身体の中心部に、唐突に人の指
のようなものが触れてきたのだ。
きつい縄の拘束で不自由な全身が、小さく跳ねるように動き、くぐもりながら出した呻き声
が一際大きくなった。
前にいる男の指に違いはなかった。
無遠慮な動きで、男の指は、止むなく剥き出しにされている、多香子の秘部を縦横無尽に這
い廻ってきていた。
触られた時点から、十三歳の多香子はもう一人の女になりきっていた。
汗に濡れ滴った顔がさらに大きく揺れ動き、ガムテープの中から漏れる呻き声にも、これま
でとは違う、余韻のようなものが響き出てきていた。
多香子は本当に気持ちがいいと思った。
これが小説でよく書かれている快感というものかとも、多香子は思った。
多香子を責め立てている、男のほうも興奮しているのか、荒い息遣いになっていた。
男が自分の目の前で、立ち上がったような気配がした。
ズボンのベルトを外す音と、衣服の生地が擦れ合うような音が、多香子の耳に入った。
ガムテープがいきなり剥がされた。
多香子の顔に何か異物が盛んに当たってきていた。
団鬼六の小説の、何小節かが多香子の頭の中に、淫靡に浮かんだ。
多香子はアイマスクがかけられた顔を、上に向けて上げ、固く屹立しきっている、男
のものを、恐る恐る開けた口の中に、突き刺されるようにして含み入れた。
汗の腐ったような異様な匂いが、多香子の小さな口の中に充満
した。
小説の中の朧げの知識で、多香子は男のものに、歯を立ててはいけないことは朧げに
知っていたので、唇に力を込めて、口の中に何かを吸い取るような表情を見せていた。
この行為の意味も何も知らないまま、多香子は男の屹立をひたすらに咥え込んでいた。
男のものが、多香子の口の中で前後に動いていたので、男が腰を律動させていること
を知った。
「むむっ」
男の低く呻く声がしたかと思うと、突然、何かが多香子の口の中で噴射したようだっ
た。
ねっとりとした水のようなものが、多香子の口の中で激しく飛散し、その勢いで彼女
の喉の奥にまで、水を入れた風船が破裂するように飛び散った。
男の人の射精だと、間もなくして多香子は理解した。
口の中に飛散したもののほとんどを、多香子は喉を鳴らしながら、食道に流し落とし
ていた。
突然、携帯の音が鳴り響いてきた。
男のものらしかった。
「どうしたんですか?」
多香子から少し離れたところで、男が急いたような声で電話の相手に聞き返していた。
「そんなバカなっ」
男の声に怒りが滲んでいた。
「お、俺はどうすりゃいいんですか?」
靴で激しく畳を叩いているようだった。
「わ、わかりました」
そういって男は携帯を切った。
「お前、帰してやるよ」
男が憮然とした声で、多香子に向かって言ってきた。
声の響きで、若い男のような気が、多香子はしていた。
「俺たちの計画は、おじゃんになったみたいだ。このまま帰してやるが、このままじゃ
行きがけの駄賃にもなんねえから、お前の身体だけでももらうから待ってろ」
男はそういって立ち上がり、室を出て行った。
男の言葉を信じれば、どうやら命の危険はないようだった。
でも、男は私の身体をもらうとか言っていた。
十三歳の少女ながら、頭の中に、犯される、という言葉が浮かび出ていた。
つい、今しがたの男との行為が、多香子の頭に思い浮かんだ。
指で愛撫された箇所に、まだ、あのゾクゾクとした快感の、余韻が燻って残っているよ
うな気が多香子はしていた。
自分を拉致した悪党に間違いはないが、凶悪で無慈悲な、根っからの悪党でもないとい
うのは、漠然ながら多香子にもわかった。
どかどかという大きな足音が聞こえたかと思うと、男が室に入ってきた気配があった。
「俺も、間もなくトンズラしなきゃなんねえ。お前にぶち込んでからなら、何お後悔も
ない。向こうに布団用意したから、行くぞ」
早口で男はそういって、多香子の足と手首の縄と、柱のも解いて、アイマスクだけはそ
のままにして、多香子の手を引っ張るように握って、室を出た。
同じように、汗の腐ったような匂いの充満する畳の室のようだったが、多香子の足に布
団を踏んだような感触があった。
畳よりはまだ柔らかいという、感触だけの布団に多香子は座らされた。
両手が自由になっているので、多香子はアイマスクを、強引に外そうと思えばできたが、
何故か、敢えてそうはしなかった。
男の顔を見る怖さもあったが、目隠しをされている分だけ、全身が敏感になることを、
少女ながらにも、密かに知ったということもあった。
どこともわからない、こんな下卑た匂いのする室で、女性としての初めての体験をさせ
られるということには、難しい言葉で言うと、さすがに忸怩たる思いは残るが、逆にその
ことが多香子の少女の気持ちを、歪に昂らせていることも、心の片隅のどこかで薄々には
感じていたのだった。
男が多香子に近づいてきて、彼女の、有名なブランドのロゴマークの入ったTシャツの裾
に手をかけてきたかと思うと、いきなり上に向けてたくし上げてきた。
上半身が濃い青のブラジャーだけの裸身になった。
乱暴な手つきで、男は多香子の両肩を押して布団に転がしてきた。
スカートのホックに男の手がかかり、荒々しく足元から抜かれると、ショーツは外での
排尿の時に脱がされてから、身に付けていなかったので、多香子の股間の、まだやや薄い
繊毛がいきなり露わになった。
男が多香子の近くで、急いて衣服を脱ぎ捨てている気配があった。
多香子は背筋に生まれて初めて知るような、熱っぽい悪寒のようなものを感じていた。
私は身も知らぬ男に、間もなく犯される。
普通で言えば、最初に来るのは恐怖のはずだったが、多香子には真逆の、犯されること
への淫靡な期待のようなものが、まだ男性を知らない、十三歳の全身を覆ってきていたの
だ。
男が自分の横に跪いたのか、片手が背中に潜ってきて、ブラジャーのホックを外しにき
ていた。
ブラジャーが緩んだかと思うと、すぐに男の手が乳房の片方をわし掴んできた。
かたちのいい唇を薄く開けて、蚊の鳴くような声で小さく呻いた。
「中学生でも立派なおっぱいじゃねえか」
男が感嘆の声を挙げて、多香子の乳房の膨らみを確かめるように揉みしだいてきた。
男の汗の匂いが、多香子の鼻孔を強く刺激してきて、自分の顔の近くに男の顔が近づい
ているような気がした。
男の息遣いを頬の辺りに感じたと思ったら、唇がすぐに塞がれた。
アイマスクをしたままの多香子は、反射的に顔を動かせて逃げようとしたのだが、男の
抑え込む力に屈するように、顔の動きを止めた。
男の舌が自分の歯の間を割って、強引に滑り込んできたのにも、多香子は内心で驚いて
いた。
多香子の口の中に、煙草の臭いが満ちてきて、二度ほど噎せ返ったのだが、唇は離れは
しなかった。
キスの経験も勿論、多香子には一度もなかった。
それでも多香子は、自分の舌を男の舌に委ねるようにして、煙草の臭いにだけひたすら
堪えようとしたのだが、身体の奥底のどこかから、初めて知るような淫靡な恍惚感みたい
な感情が、知らぬ間に湧き上がってきているのに気づかされ、内心の狼狽と戸惑いを大き
くしていた。
多香子は中学に入って一学期を過ぎたばかりの十三歳で、無論、男性の体験はこれまで
に一度もない。
饐えた匂いの籠る布団に、成長の盛りの若鮎のような裸身を晒し、身も知らぬ男に唇を
奪われている姿は、まごうことなく生身の女そのものだった。
やがて口の中に満ちていた、男の煙草の臭いすらまでも、多香子は愛おしくなりかけて
きているのだった。
「ああっ…」
男に剥き出しの両足を大きく割られ、若い繊毛の下から、男の屹立の侵入を受けた時、
多香子は自分の年齢にはまるでそぐわないような、歓喜の混じった喘ぎの声をはっきりと
漏らしていた。
顔も見せてもらえない男に、多香子は愛すらを感じるようになっていた。
初めて感じる女性としての官能の愉悦に、多香子は自我を見失い、少女とは思えないく
らいに浸り、顔の見えない男の腕に、手を強くしがみつかせていった。
「ああっ…き、気持ちいい…ほんとにいいっ」
と喘ぎとも悶えともつかぬ、女の熱い声を挙げ続けた。
多香子をつらぬいている男のほうが、中学生の多香子の女性的な反応に、目を見張り、
思わず動きを止めるほどだった。
「こ、これが最後だっ」
男は叫ぶようにそういって、強い一突きを入れた後、多香子の身体から離れて、彼女
の腹の上に白濁の迸りを飛散させた。
男に呼応するように多香子が最後に発した言葉は、
「ああっ…す、好きっ」
だった。
アイマスクをそのまま被せられ、多香子は男の車に乗せられ、店舗や家の多く建ち並
ぶ、広い道路に出たところで降ろされた。
車の中で男は無言を通していた。
多香子は、警察には言うつもりはないから、せめて名前だけでも教えて欲しいと頼む
のだったが、男からの返答はなかった。
「あなたは優しい人です。私は何もあなたを恨んではいません」
男が道路脇に車を止めて、多香子に、降りろ、と言われた時、多香子が最後の言葉で
そう言うと、
「西野卓也…」
とだけ言い残して、男は去っていった。
多香子はそこからタクシーを拾い、自宅に戻った。
警察の刑事らしい男が二人来ていて、両親と深刻な顔で話し合っているところへ、多
香子が少し衣服を汚しただけで帰ってきたので、全員の驚きや喜びは大きかった。
詳しく事情を聞くと、やはり、誘拐目的で多香子は拉致されたようで、身代金要求の
電話がすぐにかかってきたとのことだった。
多香子がいた男と仲間の男が首謀者のようで、多香子といた男は、拉致した多香子の
見張り役だったようで、警察もまだその人物の特定には至っていないようだった。
首謀者の男は綿密な計画も何もなしに、ことを引き起こしたようで、脅迫電話をした
携帯のGPS機能で逆探知され、あっけなく逮捕されたということだった。
多香子も勿論、別の男といたということは一言もいわず、どこか知らないところで車
が信号で止まった時、隙を見て逃げ出したのだという説明を、ひたすらに繰り返し、警
察も両親もそれを信じるしかないという結末になった。
それから十日ほどが過ぎたある日、テレビが首都高速での、多重事故を報じているの
を多香子は観るともなしに観ていた。
今朝の午前四時過ぎに、車四台とトラック一台の多重衝突で、アナウンサーが無機質
な声で、事故の死亡者の名前を告げていた。
「西野卓也さん、二十四歳」
家のリビングでコーヒーを飲んでいた多香子は、思わず手からコーヒーカップを床に
落としてしまっていた。
あの人?
蒼白になった顔で、床に零したコーヒーを拭い取りながら、気が気ではない思いに襲
われ、多香子は自分の室に駆け込んだ。
テレビのスイッチを慌てて入れると、かなりの大事故だったらしく、公共放送も民放
もこぞって、このニュースを取り上げていた。
民放のある局が、死亡者の名前を告げ、画面に顔写真を出していた。
西野卓也、二十四歳、無職とアナウンサーの女性が、冷静な声で言っているのを聞き
ながら、多香子は西野の顔写真に目を集中させた。
長髪で痩せた感じの細長い顔で、眉の濃さと唇の輪郭がはっきりとしている。
多香子にはわからなかった。
多香子を犯した男も、痩せた体型だったような気がしたが、記憶にあるのはそれだけ
で、後は男の吐く息の煙草臭さと汗の匂いだけだった。
事故は居眠り運転のトラックがアクセルを踏んだまま、走行車線を走っていた前の車
に追突し、その煽りで二台が玉突き状態になったとのことのようだ。
そして最初に追突されたワゴン車に乗っていたのが、西野卓也のようだった。
西野は即死のようだったと、アナウンサーが喋っていた。
もう一つのチャンネルに変えると、事故現場が写されていて、最初に追突されたワゴ
ン車が、原形を留めないほど大破しているのが見えた。
黒色のワゴン車というのが、多香子の目をひどく動揺させていた。
多感な年代の少女の思い込みは激しく、多香子は声を出してベッドの上に泣き崩れた。
その事故が報道されてから、十日ほどが過ぎたが、多香子の心の鬱はまだ消えてはい
なかった。
毎夜、多香子は就寝でベッドに入ってから、自然に自分の手を自分の胸に当てるよう
にっていた。
西野という男に犯された時、西野が多香子のブラジャーを外してきて、いきなり乳房
を抑え込むように掴んできた感触が、日が経っても忘れられないでいるのだ。
普通、時が過ぎれば人の記憶は希薄になるものが、多香子の場合は逆だった。
日が経つごとに、その感触がより鮮明な記憶として、多香子の胸の中を過ってくるの
だった。
最初は胸に手を置くだけで、眠りに入れていた。
胸に置いた手をゆっくりと動かすようになった。
続いて、手で乳房をわし掴むようになって、パジャマの上に置いていた手が、いつか
らか、パジャマのボタンを外し、直接、乳房に手を触れさせるようになっていた。
自分の手を下品に動かせて、強く揉みしだくようになってから、もう一方の手が、下
腹部に伸びるようになっていた。
エスカレートはさらに深まり、この頃は、最初から全裸になってベッドに入るように
までなってしまっていた。
両方の手で乳房を激しく揉みしだき、片手が下に伸びていき、誰に教えられたわけで
もなく、繊毛の下の肉襞を割って、指を指し込むまでにエスカレートしていたのだ。
テレビの顔写真のイメージしかなかったが、多香子は自慰行為に耽る時、いつも小さ
な声で、自分の想像する西野卓也の名前を呼ぶのが癖になっていた。
多香子が西野という男の面影を、自分の心の中から払拭で来た時には、二年生になっ
て校庭の桜の花が満開になったころだった…。
「純愛だな…」
多香子の話を聞き終わって、僕は素直な感想を言った。
言いながら僕の手は、多香子の豊かに成長した乳房を撫でるように揉んでいた。
僕のその行為は、多香子の話が終局になる、少し前から続いていた。
「この話、あなたにしたのが初めて…」
多香子は天井に目を向けながら、独り言のように言ってきたが、息のほうが少し乱れ
てきているようだった。
饐えた匂いのする布団の上で、初めて男のつらぬきを受けた時のことや、相手の男の
死後、思いをつい入れ込んでしまい、自慰行為に耽った時のことを話した時も、多香子
の息が今と同じように乱れていたのを、僕はふと思い出していた。
乳首を指で摘まんでやると、石ころのように固くし凝っていて、多香子の顔が小さく
歪んだ。
「またしたくなってきた」
僕がわざと甘えるようにそういうと、
「私も…あ、あなたが変な話させるから…」
「俺のせい?」
「そう」
多香子がそういって僕にしがみついてきた。
唇を重ね合った後、多香子が白い歯を見せて僕を睨みつけながら、
「どうしてなのかなぁ?…どうして私、あなたのことが気になったりしたんだろ?」
と小首をかしげて、思いがけないことを言ってきた。
「さあね、俺に聞かれても…」
「あの喫茶店で見つめられた時、ほんと、私、驚いたのよ。あなたのその他意のない
目に」
「他意なんかなんかあるわけないじゃん。俺は人を探してただけだ」
「そうなのよねぇ…これ、私が自惚れて言うわけじゃないんだけどね。他の男子の人
が私を見る目とは、まるで違ってたのよ。あなたの目」
「そうかい、そうかい」
面倒臭そうに僕は言って、多香子の身体の上に覆い被さっていった。
多香子の乳房を撫で廻していただけで、僕の血流は停滞ることなく、下半身のほうに
集中していたのだ。
くん、と子犬が小鼻を鳴らすような声を出して、多香子も僕の首に小枝のように細い
腕を大袈裟に廻してきた。
過去にあった秘めた話を、僕に打ち明けたせいもあってか、多香子は昼間より激しく
燃え上って、僕に応えてきた。
自分のほうから僕の下腹部に身体と顔を持っていき、僕のすでにいきり立っているも
のへ、舌と口の愛撫を長く続け、その後で、自分の下腹部への僕の愛撫をせがんできた
りして、喘ぎと悶えの声も、外で餌を求めて、徘徊しているかも知れない、動物たちを
驚かせるくらいに高く大きかった。
「そ、その西野って男にさ、抱きかかえられておしっこさせられた時、お前、気持ち
よかっただろう?」
多香子を四つん這いにして背後からつらぬきながら、僕はわざと過去に話しを戻して、
意地悪く尋ねた。
「ああっ…そ、そうよ」
「どんなふうに、気持ちよかった?」
「ああ…お、おしっこがね、止まらないの。土や草にかかる音が…い、いつまでもし
て…ああっ」
「お、俺も、いつかさせてやる。そうだ、お前のウンチ姿が見たいなぁ」
「は、恥ずかしいから…い、いや」
「ふふん、満更でもねえんじゃねえの?」
「あ、あなたになら…で、でも、嫌いに…な、なられたら」
「嫌いだったら、初めっからここには来ないよ」
「う、嬉しい…」
最後は正常位の姿勢で、残った力全部出し切って、僕は多香子の腹の上に、白く滾っ
た白濁を絞り切るようにして放出した。
多香子の咆哮の声は、このログハウス周辺の、動物たちすべてを追い払ったようにけ
たたましく高かった。
階下に降りてシャワーを浴びにいく元気もなかったので、そのままベッドに僕は横た
わり、多香子も追随した。
多香子が、ふいに何かを思い出したように、この場の雰囲気に、まるでそぐわないこ
とを言い出したのは、後少しで眠りに入ろうとした少し前だった。
「そういえば、一昨日、私、生徒会の引継ぎで学校に行ったの。そしたら…」
身体の半分以上が睡魔に追い込まれていて、欠伸と一緒に生返事をすると、
「今度の生徒会長は文芸部の杉野君と、副会長が村山さんだって。でね…」
村山という名前に、僕は思わず片方の眉をピンと動かせたが、素振りは気のないまま
にしていた。
「村山さんって陸上の短距離やってて、はやいんですtt」
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