僕の訳のわからないような説明に、多香子は困惑の色を濃くするばかりだったが、彼女自
身も薄々ながら、僕という男を知ったことで、自分の身体と心の奥底に潜んでいた、被虐の
性癖を知り、望む望まないに拘わらず、そのことに気づかされたところがあって、ほとんど
見ず知らずだった僕に、格別の興味を抱いたことは、胸の奥のどこかで自覚しているはずだ
った。
少なくとも僕自身の感性は、僕にそう訴えてきているのだった。
まだ成人もしていない、男女の間で、と常識と見識のある人たちは、嘲笑するかも知れな
いが、年齢に関係なく、当人同士がそういう感性をお互いに感じ合うのだから、誰の口も目
も差し挟むことはできないと、僕は思っている。
で、麗しい人魚か若鮎のような異性が、自分の胸の中に飛び込んできて、これに理性を働
かせて、欲情を抑制させる道徳感などを、持ち合わせている僕ではなかったので、僕の胸に
埋めていた多香子の細い顎に指をかけ、顔を上げさせて、そのまま自分の顔を下に下ろして
いった。
唇と唇が何の障害もなく重なり、僕の舌は多香子の歯をすぐに割り込んでいた。
多香子のしなやかな手の指が、僕の首に自然な動きで巻き付いてきた。
裸身の多香子の肌は、細い肩や背骨の辺りのどこを触っても、その肌理の細かさの僕の手
の指先が、まるで蛸の吸盤になったみたいにぴたりとくっついて、離れにくい感じになって
いた。
この感覚は紀子との時も感じていて、熟女には先ずない、若い女性の肌の特性なのだろう
と僕は思いながら、片方の手を多香子の胸の隆起に這わしていった。
片側の乳房の膨らみを、掌を広げて軽く抑えるように這わせるた時の、弾力というのか、
軟式のテニスボールのように、押し返してくる反発にも、僕は内心で、おっ、と小さく呻い
ていた。
比較するのが怖い相手だったが、やはり紀子の時にも感じた手の反応で、ついでにいうと、
大きさで言えば、多香子の乳房のほうが、大きさは少し勝っている感じだった。
「ここでいいよな?」
長いソファに、白い人魚のような裸身の多香子を、仰向けに横たえて、僕は自分の衣服を
慌てた動作で脱ぎながら、自分の精一杯の優しい目を向けて問いかけた。
片腕で胸を、もう一方で露わになっている下腹部を覆い隠しながら、多香子は微かに不安
げな表情を浮かべながらも、目は決意を窺わせるかのように、凛としていて、細い顎を僕に
向けて委ねるように頷かせてきた。
多香子の吸い付くような肌の感触と、香水か化粧の混じった女性的な匂いが、僕の身体の
血流を瞬く間には止めていて、衣服を脱ぎ捨てた時には、下腹部の漲りは、昔の表現を捩っ
て言うと、怒張、天を突く状態になっていた。
多香子の白い裸身に改めて覆い被さり、弾力のある乳房に手を当てると、多香子のまだ二
十歳前の顔が、妖艶な熟女のように歪み、
「ああっ…」
と白い歯を覗かせ、短かな喘ぎ声を漏らしてきた。
細い両腕が何かを探し求めるように、僕の肩と首に纏わりついてきた。
この別荘に着いた早々で、この展開は僕も予想はしていなかったのだが、僕の心の中にず
っと潜み続けている、もう一人の淫猥な僕が、勝手に流れを作っている感じで、その脚本通
りに、自分が演じさせられているようにも思えた。
直感的に、僕は多香子が初めてではないと確信した。
男に命じられて、男の前で裸を晒すということではなく、男性との身体の交わりはすでに
体験しているというのが、僕の直感だった。
当たり前だよな、と僕は納得し、そのことに拘る気持ちは毛頭なかった。
二十歳前でこれだけの美貌で、いつも周囲には、僕なんかとまるで違う、優秀な頭の構造を
している男性や、スポーツ万能でイケメンの男たちに取り囲まれて、何不自由なく生きてきて
いる多香子が、バージンのままでいるはずがないと、浅薄な僕の頭は、良くも悪くもなく、そ
う断じていた。
長さはあっても幅はそれほどない、ソファの上ということもあって、僕と多香子の身体の密
着は必然的に深くなり、男の僕のほうに攻撃的な利点があるようだった。
幅の狭いソファに仰向けにされた多香子は、僕の我武者羅ぶったような愛撫を受けながら、
自分が大きく動いて、ソファから落ちないような気遣いをしなければならない分、防御が疎か
になっていた。
僕の片方の手は、多香子の手の防御をそれほどに受けることもなく、彼女の下半身の長い足
の付け根を捉えた。
「ああっ…」
身体を小さく反り返らせるようにして、多香子はまた余韻の残る声を漏らした。
舌に伸びた僕の手の指と掌が、多香子の剥き出しの繊毛の感触を、しっかり捉えていた。
指をさらに下に向けて這わすと、いきなり、驚くほどのの滴りが、僕の手を激しく濡らして
きた。
指の先二本が、多香子の柔らかな肉襞を掬うように撫でると、
「ああっ…い、いや、は、恥ずかしい」
とソプラノの少し高い声を漏らして喘いできた。
僕の肩の周りを掴んでいた、多香子の手が爪先を喰い込ませるように力が込められてきてい
た。
そしてこの後は、一つ年下の僕の勢い任せの激しい愛撫に凱歌が上がり、仰向けにした多香
子の両足を高く抱え込むようにして、僕のいきり立ったものを、彼女の胎内深くに向けてつら
ぬいた。
僕の腰の律動に呼応するように、多香子は身悶えの声を挙げ続け、僕の腕を強く掴み取って
きた。
多香子の二十歳前とは思えない、妖艶な顔の表情に、僕の身体の昂ぶりは、何度となく暴発
寸前にまでいきかけたが、必死に堪え、狭いソファの上に、彼女の細くてしなやかな身体を四
つん這いにして、背後から一段と勢いを込めてつらぬきの行為を続けた。
「あっ…た、たまらないっ…か、感じてるわ…わ、私」
「あ、ああ、俺もだよ、多香子」
「こ、これからも、ずっと好きでいていい?」
「俺は勝手な男だぜ、いいのか?」
「か、かまわないわ。あ、あなたの好きにして」
「ほ、他にも女がいる。それでもいいか?」
「い、いいわ…あなたがこうして抱いてくれるなら」
他の女がいるというのは本当の話で、多香子に言いながら思い浮かべていたのは、祖母と尼
僧の綾子と、国語教師の俶子と有閑マダムの益美の顔だった。
僕のほうに、後ろめたさと心理的な恐怖感があるせいか、何故かこの時、紀子の顔は思い浮
かばなかった。
やがて、僕のほうに限界が近づいてきた。
「た、多香子…い、逝くぞ!」
「き、きてっ…」
僕の昂った血流の中から選ばれ抜かれた白濁の塊りが、下腹部の一点に集中してきているのが
わかり、僕は低い呻き声を挙げて、一突きした後、その白濁を多香子の白くて滑らかな、毬のよ
うな臀部に吐き散らした。
僕の放出を浴びた、多香子のかたちのいい臀部が、小刻みに何度も震えているのが見えた。
ソファに俯せたままの、多香子の背中に折り重なるようにして、暫くの間、夢幻の境地に浸っ
ていた僕だったが、どうにか身体を起こすと、それを待っていたかのように、多香子も顔を上げ
てきて、
「シャワー室は廊下を出た奥のほう…」
と言いかけて、思い直したように、
「案内するわ」
と言葉を続けて、ソファから起き上がってきた。
多香子がシャワーを浴びて服を着替え、化粧を済ませて、僕のいるソファの横に、少し気恥ず
かし気な笑みを浮かべて座り込んできた時は、大きな窓の外は、夕暮れ前の赤い西日が、山の奥
に沈もうとしていた。
多香子がもう一度煎れてくれたコーヒーを啜っている時だった。
僕は大変なことを思い出して、愕然とした顔になった。
「どうかしたの?」
と多香子がコーヒーカップを下に置いて、訝りの表情で尋ねてきたが、それに応えられない内
容のことだった。
紀子への連絡を、僕はついうっかりと忘れていたのだ。
この前、紀子と会って話をした時、土日の自分の行動を、前以てできる限り連絡するという約
束を、僕は彼女と交わしていたのだ。
それまでの何日間、ちょっとした誤解で、口を聞かない状態になっていて、仲直りをした時に
約束させられていたのだ。
「うん、ちょっとうちの母親に頼まれていたことがあって、田舎の祖母にメールしておいてく
れって、言われてたこと思い出して…ちょっと、ごめん」
そういって何故か、僕は多香子の傍から離れて、反対側のソファに座り込み、慌てた動作でス
マホを弄った。
(同級生の三上たちに誘われて、原宿と秋葉原の買い物の付き合いで出かけてる。夕食でマッ
クのエビバーガー奢るって約束。以上)
と出まかせメールを送信する。
五分も経たないうちに返信があった。
(友達いたんだ?男同士の付き合いだから、メールの遅延は許してあげる。風邪引かないよう
にね)
こういう嘘がすぐに思いつくのが、僕の特性だった。
改めて前に座っている多香子を見ると、白のブラウスに明るい黒地に、赤い花柄の丈の長いス
カート姿で、まだ少し訝った表情でこちらに目を向けていたが、僕と視線が合うと、
「さぁ、お夕飯の用意するわね。すき焼きのお肉一杯買っちゃったけど、あなたに気に入って
もらえるかしら?」
「ああ、砂糖だけしっかり入れてくれたら、もうそれでいい」
多香子のすき焼き料理は、僕の、砂糖多めの意見も入れてくれたこともあって、すごく美味し
かった。
ワインか何か飲む?と聞かれたが、下戸な性分の僕は断って、これまでの人生で初めて食べ
るような柔らかさの肉を、ガキのように無心に頬張った。
多香子は上品な慣れた手の運びで、ワイングラスを持って、赤ワインを二杯ほど飲んでいた。
昼間にあれだけのことをしておいて、夕食後は、僕と加奈子は中学生の気分に戻ったように、
ソファで身体を並べて、笑い、はしゃぎ合いながら、トランプとスマホのゲームに興じて時間
を過ごした。
先に風呂に入った僕が出てくると、
「お祖父ちゃんのパジャマだけど、体型的には一緒だと思うから着て」
ときちんと畳まれたパジャマを、ソファの前のテーブルに出してくれていた。
「私の寝室は、お二階の右端…先に行ってて」
気恥ずかしそうに、そういい残して、多香子は浴室のほうに出て行った。
木目一色の階段を上がると、廊下に面してドアが三つあり、右端のドアを開けると、多香子
が前以て、暖房を入れてくれていたのか、室は温かだった。
八畳ほどの広さで、やはり木目装飾の壁で、木製の机と本棚と、少し大きめのベッドが壁に
添うように置かれていた。
床は毛の長い絨毯だった。
昼間に嗅いだ多香子のような匂いが、微かに漂っていた。
室の隅に長方形の青のプラスチックボックスが、この室に少し、不似合いな感じで置かれて
いた。
蓋があるのだが、少し隙間があって、そこから赤い色をした縄のようなものの端くれが、覗
き出ていた。
それは縄ではなくて、登山用のロープのようだった。
何気にボックスの蓋を開けてみると、そのロープと一緒に、女性用の登山靴が一足入ってい
たので、多香子の登山用具を入れるボックスだというのがわかった。
瞬間的に、僕の頭に湧き出た発想があった。
赤いロープからの、不埒不遜な思い付きだった。
去年の夏休みに、奥多摩の高明寺の座敷で、祖母が赤い縄で全身を縛り付けられて、男たち
に凌辱を受けている光景が、僕の頭の中にフラッシュバック的に蘇ってきていたのだ。
続けて、昼間の多香子の白い裸身が思い浮かんだ。
赤い縄がより以上に映えそうな、抜けるような肌の白さが、目の奥に浮かび出て、一向に消
えてはいかなかった。
自分でも、気持ちが気持ちが異常に昂ってきているのがわかった。
長い夜になりそうな予感を抱いて、僕は多香子のベッドに勢いよく潜り込んだ…。
続く
(筆者後記)
また例によって、投稿ボタンの押し間違いでした。
このような、いつもながらの独りよがりの拙文を、長く読んでいただき
ありがとうございます。
投稿が遅くなったりするかも知れませんが、当分は頑張りたいと思いま
すので、よろしくお願いします。
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