社会人編 3
雪、川村 雪が説明会や面接に来た時の事ははっきりと覚えている。
まわりとは全く違うオーラがあった。
小さな顔に、キリッした大きな目、ツンと尖った小さい鼻、
透き通るような肌の白さに、よく手入れされているであろう綺麗な髪。
キリっとした目の割にキツい印象は全くうけない、
他のパーツのせいなのが、話し方や声なのか、生活が滲み出ているのかわからないが、むしろ柔和な感じさえする。
ただどことなく、イメージとしては、レモン…?
そんな感じがしていた。
私の前のイスに座った雪を見てハッとした。
スーツのスカートの中から出ている足の綺麗さだった。
真っ白に伸びた足は、薄いパンストに包まれ、
細い割にしっかりとふくらはぎがあり、ヒールがよく似合う足だった。
そして、他の就活生とは違う、高級そうなパンプスが目を引いた。
装飾などはなくヒールのついた黒い皮のパンプスなのだか、
本革の質感、しっかりとした作りからかそう見えた。
ガバガバとサイズの大きな靴はだらしなく見えるものだが、
ギュっと足が押し込まれているような、外からみても足の指の形が少しわかるほどだった。
いま思えば、幼ささえ残る雰囲気の中に、
足だけが上質な女性の様だった。
とわ言え、面接に来た相手にそんな事を言う訳は無く、
面接は普通に進んだ。
「では、追って連絡を、」
そう言いかけた時、
横に座りずっと面接を見ていたオーナーが話し出した。
何度も面接を行ってきたが、今まで一度もオーナーから話をしたことなどない。
ただ黙って横に座って聞いているだけなのに。
さらにその内容に私は驚いた。
「良い靴を履いているね、ブランド品かな?」
一瞬時間が止まった。
オーナーと言ってもまだ若い。40代だ。
学生時代から中国の経済発展を見越し、
日本と中国を行き来し、バブル崩壊後衰退していく日本企業に成り代わり巨大な一大グループを作り上げたバリバリのやり手だ。
うちの会社などは、その巨大グループから見れば底辺の1会社にしか過ぎない。
噂ではグループの中には、かなり黒い噂があり危険な付き合いも多いと聞く。
私はなんとかこの場を取り繕うとし、雪の顔に目をやった。
が、言葉に詰まった。
先程まで明るく、キリッとした中にも幼さを感じていた顔が、
真っ赤に高揚し、妖艶な女性、いや女の顔になっている。
しばしの沈黙の中、
「め、面接と言え、、身だしなみには気を遣いたく、
高かったですが、購入しました、、。」
雪は言った。
まるでものすごくイヤラシイ質問でもしてしまったかのようだっが、頭の中で整理するとそんな質問でも無く、
この場の独特の雰囲気がなんなのか、分からなかった。
オーナーは、
「そうだね、女性は特に足元を見られる。良い心がけだね。」
と言い、背もたれに体を戻した。
雪が部屋から出た後、オーナーが、
「あの子、採用だ。断られないよう、破格の好条件を付けて内定を出せ。」
と言って来た。
断れる訳も、断る理由もなかったのでそれに従った。
そして、川村 雪はうちの会社に入社した。
続く
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