意識を取り戻した珠美は自分の格好を確認した。
社長の東海林に手渡された制服を着ているのだが、乱れた様子もなく綺麗に服を着ていた。
記憶の中にあるあの恥ずかしくも気持ち良すぎた出来事が初めからなかったかのように整然としていた。
珠美は頭を捻りながら記憶を呼び起そうと躍起になった。
「あっ、そうだ。」
珠美は勢いよく自分のデスクの抽斗を開けた。
だが、そこには何もなく前任者が忘れたのであろうガムクリップがポツンと角に落ちていた。
頭の中がおかしくなりそうだった。
「なに?あの出来事は一体何だったの?」
隣に位置する仁科のデスクを眺めたのだが、珠美の記憶のそれと何ら変わりはなかった。
珠美は背筋に寒気を覚えた。
ハッとしてあたりを見渡してみると、皆一同に仕事に取り組んでいた。
「山村さん、山村さん、、、」
背後から声をかけられた珠美は急いでうしろを振り返った。
「あぁ、大丈夫?さっきから様子がおかしいけど。クスクスっ、、、」
誰に聞いても美人と答えるであろうその美貌と引き締まったボディを持つ仁科香織が笑みを浮かべて立っていた。
珠美は仁科の顔をマジマジと見た。
「やだぁ、山村さん、、あっ、、珠美ちゃんって呼んでいいかな?」
珠美はコクンと首を縦に振った。
「珠美ちゃん。あんまり見ないでよ。こっちが恥ずかしくなるよ。私のことは香織と呼んで。4月からよろしくね。」
珠美はこの状況を理解できずにいた。
(あれは夢だったのかなぁ、、、?)
そんな困惑の表情をしている珠美のことを、眼光鋭く見つめる北村の目が珠美に強く突き刺さった。
やがて夕方を迎えその日は家に帰ることとなった。
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