1人きりの自宅。
胡桃が心配で落ち着きを無くし、怯えていました。
二つの選択肢、反抗する事も出来たはず!
こんな気持ちになるのなら、自分の惨めな姿を晒されようと立ち向かうべきでした。
夕飯も食べずに後悔に眠れない夜、気が付けば朝の光が差し込んで来ていつの間にかテーブルに伏せて寝てしまいました。
目覚めたのは昼過ぎでした。
まだ帰ってきてません。
胡桃はどんな思いで一夜を過ごしたんだろう。優吾は空手をやってて腕っぷしは強いけど女性は苦手で話し掛けるだけでも緊張する性格だから、胡桃が抵抗したらそれ以上は出来ないはず!と自分を落ち着かせるため考えたりして胡桃の帰宅を待ちます。
遅い、遅すぎる。
時計は22時を回っています。
明日は月曜日、自分も胡桃も学校が有ります。
不安はピークで妹のスマホに自宅から電話するも電源は切れてるようでした。
絶望的な気持ちで待ちましたが午前2時になっても帰って来ません。
優吾は空手部の朝練があったはず。少ししか寝れませんが早めに目覚ましを掛けて就寝しました。
まだ早いため、朝練の体育部らしき生徒以外は電車に乗っていませんでした。
空手部の道場に向かうと、優吾達がいました。自分を見つけて顧問に話をした後こっちにきました。
「い、妹を返して下さい」
「マジ悪い!土曜日夜までは一緒にいたんだけどよ。あっ、手は出してねえからな!マヂ可愛いからビビったぜ。でも兄貴にバレちまってボコボコに殴られて持っていかれちまった。水曜日の夜まで借りるってよ。悪いんだけど中学校に電話して病欠にしてくれ、数日休むとか言ってよ。その代わりもうお前から金せびるの金輪際辞めるわ」
「ふざけるな!約束が違う」
「あぁ? てめえ、俺は謝っただろうが!文句あるなら兄貴に言え。俺だってムカついてんだわ。見ろよこれ」
優吾が道着の帯を解きお腹を見せると腹部に幾つもの痣が有ります。
「俺も頑張ったんだけど兄貴鬼強いからフルボッコにされたんだぜ。兎に角電話しておけ、兄貴が捕まったりしたらお前殺されるかもしれないぜ、最低病院送り。いいなしておけよ!」
優吾はそれだけ言って道場に戻ってしまいました。
期間も伸び知らない兄の存在に大切な妹を奪われ絶望的な気持ちになります。
でも、負け犬根性の染み付いたボクは底知れぬ恐怖と不安に震えなが胡桃の中学校に連絡しました。
月曜日、火曜日、水曜日。
精神的に追い詰められ学校に行く気力も無く、いつ帰ってきても良いようにと学校を休み自宅でひたすら待っていました。
妹の事を考えると嫌な想像しか浮かばず意識的に考えるのをやめます。1日何をしたか覚えてない時間を無為に過ごしました。
水曜日の夜、20時位に妹は帰ってきました。
慌てて玄関に向かい妹を出迎えます。
暗く疲れた表情。
疲れたからお風呂入って寝るね。
と一言告げて自分から離れていきました。
見たことの無いミニスカートだと気付き、振り返り階段を登る妹を見ました。
うっ……。
階段を登る妹のスカートの中はお尻が丸見えになっていました。
やっぱり……。
後悔、罪悪感、絶望感。
涙が溢れてきました。
妹と話したい、でも自分から逢いにいく勇気が無く居間にいて妹を待ちました。
階段を降りる音、でも居間には寄らずにお風呂場に直接向かい帰りもそのまま部屋に戻ったようでした。
日付けが変わるまで待ってたけど来る気配は無く、外に出て妹の部屋の灯を確認すると消えていました。
仕方なく部屋に戻り明日の学校の支度をし、せめてもの罪滅ぼしと妹用に朝食の準備をする為いつもより早く目覚ましを掛けて寝ました。
でも目覚ましが鳴る前に家のチャイムが鳴ります。時計を見ると七時前、妹が起きちゃうと慌てて玄関にいきました。
「わりぃ、朝早くから!」
ドアを開き直ぐに顔を出したのは優吾
「ちょっと訳ありなんだよな。家に入れてくれ」
と半開きのドアを強引に空けます。
「あっ、これ兄貴な!」
優吾の後ろに優吾を1回り大きくした様な若い男がいました。
「優吾の兄の猛と言います。君に少し話したい事があってね!お邪魔するよ」
これが勇吾の兄、妹を長い期間連れ去った男、怒りが湧きますが、見た目はごつく優吾よりも更に怖い感じがします。
立ち尽くすボクを尻目に優吾は既に中へ入っていきます。
居間のソファーを見つけ、勝手に座る兄弟。
ボクは立ったままでした。
「こんな朝早くから悪いね。確か健人君だったかな? 少し用事があって来たんだ。でもその前に」
いきなり優吾の頭を叩きました。
「いてぇよ兄貴」
渋々立ち上がり、ボクの方を見つめ
「今までイジメでごめんな。許してくれ。もう二度とイジメをしないことを誓う。今まで奪ったお金、足りないけど返す」
優吾がボクに謝罪し現金の入った封筒を手渡してきます。
「弟も誠意を持って謝罪してる。許して欲しい。それで本題の方は君と友達になりたい。友達だからコイツがまたイジメとかしだしたら俺に言え!ボコってやる」
「な、なぜ、ボクと友達に?」
「理由はこれからな、取り敢えず冷たいビールか無ければ冷たい飲み物でも用意してくれないか?」
「は、はい」
訳の分からない提案。出来ることなら殺してやりたい相手、でも今の自分は恐怖が支配しています。太い腕、ガッチリした体格、短髪でイカツイ顔、下手なチンピラよりも貫禄が有ります。
歯向かおうと思う気持ちは萎え逆らう事すら出来ません。
台所に行って冷たい麦茶をコップに入れながら混乱しそうな頭を整理します。
この兄弟が此処に来たのは胡桃絡み?
胡桃はかなりの確率で兄の方に想像したく無いことをされてると思う?
弟がイジメはもうしない事を約束?
何故か兄がボクを友達にしたがっている?
答えが分からず混乱します。
躾が厳しい親が帰ってくれば外泊も出来ないし、帰宅が遅いと胡桃にも凄く怒ります。
脅迫して関係を続けようとしても、それは無理なはずです。でも休日は?
なんか凄く嫌な予感、怯えながら麦茶を持って居間に戻りました。
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