仕事を終え、いつもと同じように22時を過ぎた最寄駅の改札で、同じマンションに住む男に声をかけられた。
確か1ヶ月ほど前に隣に越してきた男で、話し好きらしく引っ越しの挨拶ではなかなか離してもらえずに少し不快になったのを思い出した。
「奇遇ですね」
男は引っ越しの挨拶の時と同じ笑顔で話しかけてきた。
朗らかで人の良さそうな・・・けれど有無を言わせない雰囲気の笑顔と声だと改めて感じた。
「どうです?・・・こんな時間まで働いたご褒美に、軽く一杯」
断ったのだが、「いやいや、せっかく偶然・・・」「こんな日はなかなか無いんだから・・・」「せっかくだから・・・」「本当に軽く、一杯だけでも・・・」いろんな言葉で説得され、納得はしなかったが腰を押されるまま駅前の個室居酒屋に連れ込まれてしまった。
「いやぁ、なかなかいい飲みっぷりで!」
男は話を聞くのがうまく、飲ませるのがうまかった。
疲れはまだ続いており、襲いくる倦怠感のせいで親しく無い男と楽しめる気分ではなかった俺が酒に逃げたのかもしれないが、いつのまにかベロベロに酔っ払ってしまっていた。
「いゃぁ、それにしても羨ましい」
確か・・・名前は・・・山崎といったか?
俺は、失礼な話だがそんな事を考えながら聞いていた。
あんなに美しい奥さん・・・
独り身な自分からしたら結婚しているだけで・・・
仲良さそうに見える・・・
さぞかし仲睦まじく・・・
酔っ払った意識は、そこで崩壊してしまった。
※元投稿はこちら >>