口にした瞬間、誤解を招きかねない自分の発言に気付き、しのぶは更に動揺する。
「ち、ち、違いますっ!違いますから・・。」
「冗談だよ。そんなものあるわけないじゃない。」
「!」
だが、しのぶの頭の中には、自分の発言から生じた新たな妄想が渦巻き始めていた。
『お試し用』があるのなら、ブティックのように『試着室』があっても不思議は無い。
(・・もし・・。)
『試着室』で『お試し用』の性具に貫かれ、擬似的なものとはいえ、何年かぶりで男性器を味わったら自分はどうなってしまうのだろう。
流石に『試着室』の中は独りにしてもらえるであろうが、我慢しきれずに漏らしてしまう声や淫らな音は聞かれてしまうかもしれない。
(・・違う・・。)
しのぶは気付いてしまった。
妄想の中、しのぶに真の悦びを与えているのは挿入された性具ではない。
性具で自分を慰めている姿を見られる恥辱。
性具で慰めるしかない姿を見られる惨めさ。
性具を使ってまでも快楽を貪りたい、淫らな嗜好を厭いながらも受け入れざるを得ない状況に酔ってしまうシチュエーションなのだ。
「プレゼントするよ。どれがいい?」
妄想を打ち破った清水の言葉が、しのぶを現実に引き戻す。
「え?」
耳を疑いながら清水の顔を見返すしのぶが、どんな表情を浮かべていたのかは清水にしか分からない。
だが淫らな妄想の虜になっていた以上、しのぶの淫らな欲望を清水に気付かれてしまった可能性は充分あり得た。
「そ、そんな・・。無理・・ですよ・・。」
「無理って?」
またしても誤解を招きかねない微妙な回答をしてしまった。
しのぶは内心、歯噛みする思いで黙り込む。
この場で性具を選ぶ、それは選んだ性具をしのぶ自身が使用するという意味を、そして選んだ性具を使用してみたいと思っていることを意味する。
その選択の表明を恥じらう気持ちが、しのぶの発した『無理』であった。
だが多種多様な性具を前にして発する『無理』は、選択肢が多過ぎる、つまり目移りしてしまい選ぶことが出来ないという意味に捉えかねられない。
いや、捉えられたに違いない。
(しまった・・。)
だが後悔、先に立たず。
案の定、『無理』に対する清水の解釈は危惧していた通りであった。
「これなんかどう?」
奇しくも清水が示した性具は、しのぶが店内で最初に眼を留めた性具、その太さとイボ付きのデザインに怖気づいた、であった。
(・・壊れちゃう・・。)
小刻みに首を振ることにより拒否するが、この時点で性具を挿入する前提が成立していることに、しのぶ自身は気付いていなかった。
と、その時であった。
「・・選んであげようか・・?」
不意に第三者の声を耳にした二人は、声のした方向を振り向く。
そこには品の良い老婦人が立っていた。
※元投稿はこちら >>