<砦を守りきれなかった母(1)>
母にとって、あの夜のことは悪夢でした。
自分の息子の友人の眼前に、あられもない裸身を晒し、彼の舌と指によって、
女の官能を呼び起こされたこと等、誰にも言うことなんかできません。
そんな母が唯一出来ることは、忘れ去ることしかなかったのです。
ようやく心の傷も萎えたのか、いつもの母の笑顔がありました。
そして優しさと愛しみを宿したその眼は、僕にいつもの安らぎを与えてくれたのです。
そんな母の笑顔が、再び驚愕の顔に変わるなどとは、誰も予想をしていませんでした。
あの日、僕は午後からの講義を受けるため、母と昼食を採った後、出かけて行きました。
その日は、彼女とデートの約束なので、帰りが遅くなることを告げながら。
そして僕を見送りながら見せてくれた、優しい微笑みを、僕たち家族だけに向けられていた、
愛情をたっぷり含んだあの笑顔を見ることができたのは、あの時が最後だったのです。
僕が出かけた後、母が庭先に出ていた時、笑顔で話しかける、1人の若者の姿が目に入りました。
しかしその顔は、忘れたはずの、あの時の顔でした。
「おばさん、今日は謝りに来たのです。」
そう言うと、若者はぺこりと頭を下げ、ケーキの包みを差し出しました。
予想と違う展開に、母はあっけに取られていましたが、我に返ると、
「もう謝らなくても、どうでもいいの。 それで気が済んだら帰って頂戴!」
母は、忌まわしい過去を振り切るように言いました。
「おばさん、直ぐに帰りますから、どうしても話だけ聞いてください!!」
若者は、半ば強引に、自分の母親のことを話し始めました。
その話は僕も聞いたことがあって、彼が小学校の時、彼の母親は家族を捨てて出ていったそうです。
それ以来、父親の手で育てられてきたので、母親の愛情に飢えているということでした。
そして僕の優しそうな母を見た時、自分の飢えた愛情を、満たしてほしかったが為の、
魔が差した行動だったと謝り続けました。
いつしか、その話に引き込まれてしまった母は、母親の愛に焦がれる若者を、
いつしか家の中に導き入れてしまっていたのです。
そして息子の友人が切々と語る、母親への想いを、同い年の子供を持つ母親として、
耳を傾けて聞いてしまいました。
そして想いを語り尽くすと、若者は憂いを含んだ眼で僕の母を見上げ、
一瞬狼の殺気を宿しながら、いきなり母に抱きつきました。
襲われる!! そう感じた母ですが、
「母さん!! 母さん!!」 そう言いながら抱きすがる若者を見た時、
これは、母を求める子供の姿なんだ、そう信じ込みました。
そして服の上から、胸にむしゃぶりつかれた時でさえも、
赤ん坊が母親のおっぱいに縋り付いているのだと思いました。
この時僕の母は、この若者に、母性本能さえかき立てられていたのです。
しかし、幼い赤ん坊を演じていた若者が、ついに牙を剥いた獣へと変身を開始しました。
狼は母の両手の動きを封じると、母の体の上に覆い被さり、ゆっくりと唇を重ねていったのです。
「やっ、やめ・・・・・」
強い力で押しつけられた唇で、母は声までも奪われていました。
息が詰まりそうになった時、唇が離され、空気を求めて母は、口を開けてしまいました。
その瞬間、狼の舌は母の口の中へ侵入してきました。
「んっ・・・、うっぐんっ・・・・」
母は声にならない声を上げ、それ以上の舌の侵入を、必死に拒みました。
しかし舌が浸食され、男の唾液までもが流れ込んでくるのを感じた時、
母は汚された衝撃に、抗う力を失ってしまいました。
そのことを獣の感で感じ取った男は、母の舌を吸い上げ始めました。
舌が強く吸われ、母の唾液までも吸い取られていきました。
そして今度は、再び男の唾液が流れてきました。
息を継ぐことのできない母は、口の中に溜まっていく男の唾液を
喉を鳴らして飲み干すしかありませんでした。
こうしてお互いの唾液が、母と男の間を行き来し、それらは混ざり合い、
2人の体を共に満たしていったのです。 母の体中を駆けめぐる狼の唾液は、
やがて母の血となり肉となっていくのです。
いつしか母の目には涙が溢れ、頬を伝い落ちていきました。
獣でも人間の血が流れているのか、母の流す涙を見て、のろのろと体を離していきました。
そして男は、押し倒した母を、ゆっくり抱き起こしました。
母は、狼から若者に戻ってくれた、これで解放してもらえる、そう思い込みました。
そして若者をじ、心の緊張を緩めながら、自分の体を抱き起こそうとする若者の腕に母は身を委ねました。
しかし、母が信じ込んだはずの若者の目の奥には、再び獲物を見据える鋭さを宿していました。
今度は完全に獲物を仕留める決意を持って・・・・。
※元投稿はこちら >>