<初まり>
母はいったい、どうなってしまったのだろう。
尻軽女というものからは、ほど遠いと思っていた母なのに。
不倫をする女には、とても見えない母なのに。
きっかけはともあれ、今の母は、完全に彼を受け入れているようなのです。
あれらの写真は、無理矢理犯され、屈辱にまみれた女の表情ではなく、
若き情夫に愛される歓びに、満ち溢れたものなのです。 愛しい男の怒張によって、
自らの肉体を貫通され、絶頂を極める姿なのです。
父は、単身北海道に渡ってからも、2ヶ月に1度は、必ず帰ってきます。
2晩を我が家で過ごす父は、必ず妻の体を抱いているはずなのです。
僕の母であり、父の妻である女は、愛する夫に組み敷かれて、身悶える夜を迎えているはずなのです。
時折、小樽にいる父の元に出かけて行く母は、夫婦2人だけで過ごす夜に、
誰憚ることなく、歓喜の叫び声を上げているはずなのです。
仲睦まじい夫婦、少なくとも僕にはそう見えていたのです。
そんなはずの母が、何故こんなことに。
そして、これから母は、どこへ行くのだろう・・・・。
そもそもの初めは、成人式の日でした。
大学の友人達と、夕刻まで盛り上がった後、残った男4人で2次会をやることになりました。
そして、その会場となったのが、僕の家だったのです。
というのは、父は約1年前から、北海道に単身赴任していて、
僕と母の2人だけなので、気楽にできるという理由からでした。
それがこんな事態に発展するとは、全く思いも寄らぬことでした。
このことは、僕にも責任の一端があるのです。
実は、2次会を僕の家でやることを提案したのは、他ならぬ僕自身だったからです。
そして、母をあいつの目に晒したことも・・・・・。
2次会は、母を含めた5人で始まりました。
この日の為と思ってか、母が買ってくれていた、高級ブランデーの栓が開けられ、
和やかな雰囲気の中で進んでいきました。
母も息子の成人した姿を、素直に喜んでくれ、集まった友人達とも、
まるで同級生のような感じで、親しく接してくれていました。
また若い牡達が発散するフェロモンの影響か、母も久しぶりに羽目を外して楽しんでいました。
十二分に酔いが回り、そろそろ終電という頃、その中の一人が泥酔状態のまま眠り込んでしまいました。
しかたなく、彼を家に泊めることにし、他の者は帰って行きました。
すっかり眠りこけている彼を、2階の僕の部屋まで連れて上がろうとしたのですが、
僕も母も酔っていて、とても出来そうになかったので、
宴会場となった1階の洋間に毛布を持ち込み、そのまま寝かせました。
僕が自分の部屋に上がった後、母は宴会の後を片づけ、シャワーを浴びて、
彼が寝ている部屋と廊下続きにある、夫婦の部屋に入っていきました。
・・・・・
すっかり高く昇った陽の光で目覚めた僕は、まだぼぉーとする頭を抱えて、
階下に降りていくと、彼は既に起きていて、眠り込んでしまった部屋で、
母が入れてくれたであろうコーヒーを飲んでいるところでした。
そして母は、3人分の朝食を作るため、台所に立っていました。
僕の「母さん、おはよう!」の挨拶に対し、何故か元気の無い返事しか返ってきませんでしたが、
酔いが残っているせいだろう、程度に思っていました。
3人で朝食を食べている時も、いつもと違って俯きかげんで、
何かに対して恐怖を感じているようでもありました。
朝食後、僕の部屋で暫くだべっていた彼が、
「おばさんに、お礼を言ってくる」と言って、1階に降りていきました。
お礼の挨拶にしては長いなあと感じながらも、宴会の時、まるで親しい間柄のように、
打ち解けて話していたので、たぶん話し込んでいるのだろうと思っていました。
その内、一瞬悲鳴らしきものが聞こえたのですが、その後何も聞こえてこないので、
空耳だとばかり思い込んでしまったのです。
そして彼が帰る時、玄関先で見送る僕に向かって、彼は薄笑いを浮かべ、軽くウインクさえしたのです。
しかしそれが、僕の後ろに隠れるようにしている、
母に対してのものだったことは、知る由もありませんでした。
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