<溺れていく母(2)>
母が買い物から帰って来た時、玄関の鍵がかかっていないのを、見つけました。
あの子かしら・・・。 いや、あの子は今日、泊まりがけで、ゼミの実習に行っているはずだ。
まさか・・・、泥棒・・・・??
恐る恐る居間を覗くと、一人の男と目が合いました。
「陽子、お帰り!! 待っていたよ。」
あの男です。 あの時の男が、家の中にいるのです。
母は、逃げようと身を翻しました。 しかし男の方が一瞬早く、母の腕を捕らえていました。
「離してっ!! 離してっ!! 警察を呼ぶわよ!!」
「それもいいねえ・・・。 家宅侵入罪か。 でも僕は、ちゃんと鍵で玄関を開けて入ったのだから、
無理に押し入ったんじゃない。」
「それじゃ・・・、私の持っていた鍵・・・、落としたのじゃなくて、
あなたが盗んだのね!! 」
「まあ、それもこれも、全部警察で話そうじゃないの。
どういう状況の下で、鍵が盗まれたのか。 その時いったい、何をしていたのか。
2人はどういう関係なのか。 全てを話そうじゃないの。」
自分の方から警察を口に出した母でしたが、もし警察に行ったなら、
この男の言うように詳しく聞かれてしまうだろう。 そして当然ベッドの脇に置いていたバッグから鍵が盗まれたとなれば、
この男は母のベッドの側で、深夜何をしていたか、追求されることになる。
そうなれば、この男が私に何をしたかが、明るみに出てしまう。
男は逮捕されるだろう。 しかしそれは、私の醜態までも明らかになってしまうことだ。
そんなことになれば、三面記事のいいネタになってしまう。
そんなことになれば・・・・、あの子が・・・・・、あの子が・・・・・・。
「あなたの目的は、いったい何なの?? お金が目的??」
「お金・・・? そんなものとは、全然違うよ。
僕の目的は、陽子・・・。 お前だよ。」
「私・・・?? 私の体が目的・・・? 友達の、母親の体が・・・??」
「残念だけど、それだけじゃない。 僕は女にはそれほど、不自由していない。
僕がほしいのは、陽子。 お前を僕の女にしたい・・・・ 」
「私が・・・・・? あなたの・・・??、女に・・・・・???
友達の母親なのよ! 冗談じゃないわ!! からかうのもいい加減にして!!」
「僕は本気だよ。 お前がほしい。 お前は僕の女になるんだ。」
この男の女になる・・・。 いや、この男の女にされてしまう・・・・。
なんということでしょう。 情婦になれなんて・・・・・
とんでもない!! そんなこと、許されるはずがない!!
母は、はっきりと拒絶しました。 少なくとも心の中では・・・・。
「あなたおかしいんじゃないの? こんなおばさんを、相手にしているのよ!」
「年齢なんて関係ない。 それに陽子は、とっても魅力的だよ。
僕は陽子がほしい。 僕のものになるんだ・・・、わかったね。」
「ねえ、今までのことは黙っていてあげるから、もうこんなことはやめて!!」
たとえ今までのことは水に流してでも、これ以上付きまとうのを許してほしい、
それが母の願いでした。 しかし、母の懇願の言葉を聞いたはずなのに、男の口から出た言葉は、
とんでもないことを唆すものでした。
「さあ、行こうか。」
「・・・??・・・」
「ここじゃ、近所の手前、思いっきり泣き悶えることが、出来ないだろう?」
「あなた・・、何を言っているの!! もう、帰って!!」
「あまり手を焼かさないでくれよ。 それとも、窓を開けたままで、
近所中に聞こえるくらいに、泣きたいのか。 いくー!! いくー!!」
どこまでも酷い男です。 あの刹那は、どんなに歯をくいしばっても、声が出てしまうのです。
これは意志とは、全く無関係なことなのです。 そんな時の声を、近所の人に聞かれてしまったら、
もう外を歩けません。そうなったら、あの子だって・・・・、あの子だって・・・・・。
もう、僕のことなんか、どうだっていいのに。
僕のために、自分を犠牲にするなんて、そんなこと、もうしなくてもいいのに。
いくつになっても、母親の我が子に対する気持ちは、変わらないものでしょうか。
泣く泣く車に連れ込まれた母は、男の体中から発散する獣の匂いに
いつしか体が反応してくるのを感じていました。
体の奥深くに刻み込まれた、野獣の印から、沸々と湧き出るものを感じていたのです。
母は、そんな自分の体を恨みました。そしてこんな体にした、男を心底憎みました。
母の肉体は、これからのことを思い、心ならずも、下着を濡らし始めたいました。
男と母の乗った車は、母の運命を乗せて、走り去ったのです。
そしてこれからの母のことを思う時、僕は今でも思うのです。
『 母は強し・・、さ・れ・ど 女・は・弱・し 』
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