その2
「戸田さま。申し訳ございませんが、当行ではこれ以上の融資は出来かねます。お力になれず、申し訳ございません。」
戸田秋男の頭の中は真っ白だった。いや。絶望の黒に塗りつぶされ、目の前は真っ暗闇だった。自身の身体も支えきれず、弱弱しく電柱に手をついた。
「ウチは潰れるしかないのか。。」1人呟くとまた目の前が真っ黒に染まっていくようだった。
ふらふらと会社に戻る道を歩きつつも、このまま会社に戻る気にはなれず、目についたコンビニにふらふらと入った。
何も買う物はなく、意味もなくパラパラとめくった週刊誌の記事に目が留まった。
「特集 安藤建志に密着」
「すごいな。安藤君今度はドバイにホテルを建てるのか。どこの会社が施工するのかな。
まあ、ウチが選ばれる事は無いだろうが。。」
戸田秋男は自虐的にうすら笑いを浮かべるしかなかった。
ウチもついこないだまでは安藤デザインの施工を受注していた立派な登録業者だった。
安藤デザインだけではなく、職人が減っているこのご時世、ウチのような中堅の建設会社でも設計会社からの施工依頼は絶える事は無かった。
歯車が狂いだしたのは、ウチで20年働いてくれていた、番頭が交通事故で急死してしまってからだった。
彼の穴を埋める事が出来る人材が育っておらず、彼が亡くなってからの戸田建設の施工はクレームの嵐だった。
施工ミスが相次ぎ、納期も守れず、次第にクライアントからの信用は無くなり、仕事は激減した。
「そうか。安藤くんはまだ38才なのか。私より15歳も下だな。」
かつては、安藤デザインの施工を請け負っている事を同業者に自慢したりしたものだが、もう一年近くお声が掛っていない。
他のクライアント同様、安藤くんにも切られてしまったと見るのが妥当だろう。
戸田秋男はため息をつき、コンビニを出ると、他に行くあてもなく、仕方なく重い足取りで帰路に着いた。
しかし、一階の事務所に顔を出す事は出来ず、こそこそと2階の自宅に上がった。
自社ビルなどとは呼べないが、1階が事務所で2階、3階は自宅、4階は賃貸として人に貸している。20年前に建てた我が城だ。
これも手放す事になるのだろうか。。
ダメだ。何としても、会社は潰すわけにはいかない。どんな手を使ってでもこの城は守ってみせる。
どうすればいい。。どうすれば。。
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